<火原先輩のホワイトデー>


3/14。

世間一般でいうところのホワイトデー。

当然のことながらその前日ともなればお菓子屋さんの店頭は大賑わいとなる。

要領よく決める者、悩みすぎて挫折する者、その様相は様々だが、その中で一際頭を抱えんばかりで火原は悩んでいた。

横で見ている柚木の方はとっくに買い物は終わったらしく、かなり暇そうだ。

「しかし火原も悩むね。」

「あ〜、ごめんね、柚木。」

「別に構わないけど、ちょっと悩みすぎじゃない?あげる相手は日野さんでしょ?」

柚木にそう言われて火原はぱっと子犬並と称される笑顔を浮かべる。

「もっちろん!」

「なら去年もあげてるんでしょ?なんでそんなに悩んでるの。」

「だって香穂ちゃんのイメージに合うお菓子上げたいじゃん!」

普通の男性であれば照れが入ってしまいそうな事を胸を張って言い切る火原に、店員のお姉さんがくすっと微笑ましそうに笑った。

「素敵な彼女さんなんですね。どんな方なんですか?」

それは多分純粋な好意と、店員としての職務意識から出た質問だったのだろう。

が、しかし。

柚木梓馬は知っていた・・・この手の質問は火原のスイッチを入れてしまう事を。

案の定、火原の笑顔が前にも増して輝いて。

「すごく素敵な子なんです!一生懸命で頑張り屋さんで。」

「そうなんですか。」

「可愛くて、真面目で。でもちょっと面白い事言ったりとか。」

「はあ。」

「明るくてよく笑う子だから赤とか黄色とか似合いそうなんだけど、ちょっと微笑むと大人っぽくて綺麗で白とか桜色のイメージで・・・あ、でも」

「・・・・・・」

呆気にとられている店員さんと、横で必死に笑いをかみ殺している柚木に向かって、火原はもの凄く良い笑顔で言った。





「大好きって言ってくれる時は春の風みたいに優しいんだ!」





―― 後日、このお菓子屋店頭での大惚気の話が柚木経由で香穂子の耳に入り、恥ずかしさで怒る香穂子をなだめるのに火原が苦労したとかしないとか。








                                           〜 Fin 〜










<ホワイトデー火原編。柚木様を黒で書くか白で書くか、ごっつ悩みました(そこ!?)>













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