Arm und Nacken die Begierde,

                                   〜 東金×かなで 〜











「なあ、お前、髪のばさないか?」

「は?」

かなでを膝の上にのせて、その髪を指先でもてあそんでいた千秋の言葉にかなではきょとんっと首をかしげた。

あ、ちなみにかなでの名誉のために言っておくと今の状況はかなでの希望ではまったくない。

というより、一応常識人のかなでとしては、寮の縁側という人通りのある場所で恋人とはいえ千秋の膝の上にのせられているなど恥ずかしい事この上ない。

なので、最初に丁重にお断りしたのだが、そこは「何様・俺様・千秋様」の事。

『俺がお前を膝にのせたい。反論は不可だ。』

の一言でざっくり切って捨てられて、強制的に今の状況だ。

(でも、きっと本気で嫌がったらやめてくれたんだろうけど。)

俺様ではあるがフェミニストな千秋はかなでが本気で嫌がる事をしたりはしない。

実際、かなでもしょうがないと腹をくくって千秋に抱きしめられてからは、ほんのちょっと・・・・否、結構幸せを満喫していたりする。

お互いの体温を感じられる距離で他愛もない話をする、そんなちょっとしたことがもたらしてくれる甘い一時を千秋もかなでも楽しんでいたはずだ。

そんな中で唐突に冒頭の千秋のセリフが出てきたのだから、かなでがきょとんっとするのもしかたないかもしれない。

「髪って、なんで?」

別に今の髪型がどうしてもいいというこだわりがあるわけではないが、千秋は人を型にはめるような事を言うタイプではないので違和感を感じてかなでは聞き返した。

しかし、千秋の方はその答えは返さず指先でかなでの亜麻色の髪の先を遊ぶように絡め取る。

ちろちろと触る髪の先がなんともくすぐったい。

「もう、東金さん!悪戯はやめてください。」

「悪戯じゃねえよ。」

「?じゃあ何なんですか?」

「お前の反応が可愛いからしてるに決まってるだろ?」

「っ!」

不意打ちの甘い言葉を流し目と一緒に食らってしまったかなでは思いがけぬダメージに言葉を詰まらせた。

「な、か、可愛いとかっ」

簡単に言わないで!と続くはずだった反論はちゅっと音を立てて頬にされたキスに粉砕された。

「と、東金さん!!」

「あー、もう、ほんとにお前はなんでそんなに可愛いんだ。」

「はあ!?」

「そんなに目を丸くすんな。零れちまうぜ?」

「零れないです!」

激しく反論したものの、頬が赤くなっていくのはどうしても止められない。

これがからかっているだけ、とかならまだ対処のしようがあるのだが、恐ろしい事に千秋はこの甘い言葉の数々を本気で言っているらしいから始末に負えない。

(恥ずかしいのに嬉しい気分にさせるとかってずるいと思う!)

それはもう心から、とかなでが深く頷いていると、また千秋の手がかなでの髪に伸びてきた。

「東金さん?」

「あ?」

呼びかけると覗き込んできた千秋に、かなではさっきの疑問を解決すべく口を開いた。

「さっきからなんで髪に触ってるんですか?それに髪伸ばしたら、とか。」

・・・・後で考えれば、それは千秋が待っていた言葉だったのかもしれない。

というか、千秋が仕掛けた罠、と言った方が正しかったかも。

なぜなら、その問いかけを聞いた瞬間、千秋の口角がきゅっと上がって。

「ああ、それはな。」

ふっと視界から千秋が消えたと思った途端。

―― ちゅっ、と口づけられたのは、髪とギリギリ境の首筋。

「っっっ!?!?!!」

ばっと感触がした場所を押さえて千秋の方を振り返ったかなでの目に映ったのは、それは楽しそうな笑顔を浮かべた千秋で。

ぱくぱくと酸欠の金魚のように口の開け閉めだけを繰り返すかなでに、悪戯な恋人は堂々と言ってのけたのだった。





「お前のそこはえらくそそるからな。髪でも伸ばせば少しは虫除けになるかと思っただけだ。」










腕と首なら欲望。











(東かなはコルダ3におけるグダ甘担当だと思います・笑)











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