Ubrall sonst die Raserei. 〜 加地×香穂子 〜 「手なら尊敬。」 歌うようにそう言って手を掬い上げられて、香穂子は焦った。 「か、加地くん?」 「ん?」 「えーっと、その・・・・何をする気?」 「それはもちろん。」 にっこり、と笑った笑顔がやたらと嬉しそうだなあ、なんて呑気な事を考える反面、頭の中で警鐘が鳴っている。 加地がこういう顔をする時はまず、何かのスイッチが入っている時だ。 そして案の定、まるで騎士がするように恭しく香穂子の手の甲にキスをして爽やかに言い切って見せた。 「教えてあげようと思ってさ。キスの意味。というか、僕が君をどう思っているか知って欲しいから。」 (いやもう、それは十分だから!) と心の中で叫んだものの、残念ながらその言葉を封じるように言葉を重ねられてしまって音になることはなかった。 「手なら尊敬。僕はいつだって君の音楽を尊敬してる。」 「そ、そんな大したものじゃ・・・・」 「それから額なら友情。」 反論しようとした香穂子の顔を固定するように両頬を包んで、今度は額にキスが降ってきた。 思わずひゃっと首をすくめる香穂子に対して加地は少し苦笑して。 「うーん、今はもうこれじゃ物足りないかな。」 「いやいやいや、私はもう・・・・!」 「ダメだよ、日野さん。」 慌てて首を振って離れようとすれば、逃がさない、とばかりに抱きしめられてしまう。 「頬なら厚意。」 ちゅっと音を立てて頬にキスされて、頭に血が上る。 「君に出会えた事、僕の腕の中にいてくれる事、みんな感謝してる。」 少し掠れた甘い声に囁かれて、もう反論の言葉も出てこない。 「それから」 顔を赤くしたまま固まってしまった香穂子の唇を優しく加地の指先がなぞる。 「唇なら愛情。ここは、後で、ね。」 「え?」 何か含みを感じて加地を見た香穂子の瞼にキスが降ってきて。 「わっ!?」 「瞼なら憧憬。僕はいつだって君に憧れてる。出会った時から。」 これが他の人が言ったならからかって、と言うところだけれど香穂子を追って転校までしてきてしまった加地なのだ。 反論なんてしようがない。 どきどきとアップテンポに跳ね上がる鼓動を押さえるだけで精一杯の香穂子に、加地はふふっと笑みを零しながらまた香穂子の手を掬い上げて。 「掌なら懇願。どうか・・・・僕を好きになって下さい。」 「そ、そんなの・・・・とっくに好き、だよ?」 口ごもりながら、それでもこれは言っておかないと、と香穂子が言うと「ありがとう」とあんまりにも嬉しそうに加地が笑う。 (・・・・ずるい。そんな顔されたら怒れないよ。) はあ、とため息をついて香穂子は諦めた。 結局、なんだかんだいいながらもこんな風に触れられることも嬉しいのだから。 ―― と、思った、が。 「・・・・で、腕と首なら欲望。」 「は!?」 一瞬の油断を突かれた。 制服の端から覗く首筋に、濡れた感触を感じてぞくっと香穂子の背中に甘いしびれが走る。 「か、か、加地くんっ!?」 何をする気!?と目を見開く香穂子に向かって、それは良い笑顔で ―― そして無駄に色っぽい顔で言った。 「それ以外は、狂気の沙汰・・・・ね?日野さんはどこにキスしてほしい?」 それ以外は、狂気の沙汰。 (どこにされても困るっっっ!!!) (ラストは加地でした。「狂気の沙汰」で思い浮かんだのが知盛と加地と弁慶だったという・・・・この3人の東条の認識が透けて見えますね(^^;)) |