Auf die Hande kust die Achtung, 〜 忍人×千尋 〜 「忍人さんの手は傷が多いんですね。」 忍人の膝の間に座っていた千尋が忍人の手を掬い上げて呟いた。 「そうか?」 「うん。傷っていうか、傷跡?ほらここにも。」 そう言って千尋が忍人の親指の間に残る傷跡をなぞる。 そのこそばゆい感覚に忍人は僅かに苦笑した。 「それは俺がまだ未熟だった時につけた傷だ。」 「未熟?」 「鞘から刀を抜く時についた。」 千尋が持っている方の手に片方の手を添えて剣を抜く仕草をしてみせれば、千尋は納得したように頷く。 そして小さな微笑みを零した。 「忍人さんにもそういう時代があったんですね。」 「俺だって最初から剣を使えたわけではないからな。」 そんな言い方が少し言い訳がましい気がして憮然とする忍人に、千尋はクスクスと声をたてて笑った。 そして手の甲に残る傷に指で触れる。 「こっちは?」 「これは・・・・あまり覚えていないがおそらく戦場だ。」 「覚えていないって、これ結構大きな傷だったでしょ?」 跡が残るぐらいなんだから、と肩越しに振り返ってくる千尋に忍人は首を捻る。 「手の傷は刀が握れなくなるほどでない限り命には関わらないからあまり気にしていない事が多い。そのせいだろう。」 こともなげにそう言い切る忍人に千尋は少し眉をよせる。 その様子がまるで忍人が今怪我をしたかのようで、忍人は困った。 忍人はどうにもこの千尋の表情が苦手だ。 否、苦手というのとは少し違うかも知れない。 悲しそうな顔をさせたくない、と思うのに千尋が自分の事で心を痛めていると知るとどこかで嬉しいと感じてしまうのだ。 とはいえ、せっかくの休憩中にこんな顔をさせているというのはさすがに悪い気がして。 誤魔化すように忍人は自分の手を握っている千尋の手を、逆に絡め取った。 「?」 忍人のしたことがわからなかったのか、小さく首をかしげる千尋を横目に、忍人はその手に視線を落とす。 忍人の無骨な手にすっぽりと収まってしまう小さな手。 傷だらけの忍人の手の中にあって、千尋の手はいっそう白く綺麗に見えた。 (だが、この小さな手に幾万の命が預けられている。) そしてこの手から大切な物が零れるたびに千尋は声を殺して泣くのだ。 中つ国の女王になる前の戦の時にそうしていたように。 そうしてみると小さな白い手が酷く、愛おしく感じて。 「女王陛下。」 「忍人さん、今は休憩ちゅ・・・って」 あえて敬称で呼びかけた忍人に千尋は抗議しようと振り返った。 が、目の前にあった真っ直ぐな漆黒の瞳に射られて動きを止める。 それが分かっていたというわけでもないのだろうが、忍人はゆっくりと千尋と向かい合うような形で手を離さぬまま片膝をついた。 「俺の手がいくら傷だらけになろうとも、それは君を護ったという名誉でしかない。だからこの先いくら俺の手に傷がつこうと君は気にしないで欲しい。」 「忍人さん・・・・」 驚いたように目を見開く千尋の手を掬い上げるようにして忍人は口元に引き寄せる。 「そして願わくば ―― この手を護る役目はどうか、俺だけのものに。」 忠誠も、命も、心のすべてを賭けて、護ってみせる ―― そんな決意をこめて、忍人は千尋の手に恭しい口づけを贈ったのだった。 手なら尊敬。 (イメージは姫君と騎士。でもきっとみんなに「そんな事はわかってる!」って言われそう) |