Aufs geschlosne Aug' die Sehnsucht,

                                   〜 那岐×千尋 〜










千尋の目はいつも無駄に大きい、と那岐は思っている。

でも千尋の顔立ちはどちらかと言えばシャープな方だから、俗に言う目の大きい顔ではない。

子どもならいざ知らず、今ではくりっとした目というよりは切れ長のスッキリとしたと表現する方が適切だろう。

それがわかっていても尚、那岐は千尋の瞳は無駄に大きい、と思う。

ほんの少し覗いただけで、吸い込まれそうな気になるからだ。

例えば今目の前にある空のように、青くてどこまでもどこまでも広がっているような、そんな物を見ている気分にさせられる。

苦手、というわけではない。

けれど。

・・・・くあ、と那岐は小さな欠伸をした。

途端に、こつん、と肩に乗ってきた重みに那岐は苦笑する。

目線だけ横にずらせば、キラキラと光を跳ねる金色の髪が目に入る。

「・・・・重いよ、千尋。」

無駄と知りつつ一応抗議してみたが、返ってきたのは。

「・・・・・すー・・・・・・」

笑ってしまうほど安らかな寝息で。

ふう、と小さく那岐はため息をついた。

疲れているのだろう、と思う。

常世との戦や得体の知れない神という敵。

人の手では手に負えないかもしれない者を前に立ち向かっていく時、もう誰もが中つ国の遺児であるという以上に千尋を頼るのが当たり前になってしまった。

そして適当に手を抜くという事を要領よくやってのける那岐と違い、真面目な千尋は正面からそれに挑んでしまう。

(ホント、不器用だよ。)

無防備に預けられた千尋の髪を顔にかかった分透いてやりながら、僅かな苛立ちを覚えるのはうっすらと見える疲れの跡のせいだろう。

久しぶりにゆっくり話がしたいといって那岐の昼寝場所まで降りてきたのに、ろくろく話もしないまま眠ってしまった千尋。

那岐の体温が気持ちよかったのか、すり寄ってくるのをしたいようにさせて那岐は少し顔をゆがめた。

千尋の瞳はいつだって前ばかりを見ている。

それがいつだって那岐には小さな苛立ちだった。

大きな瞳で前ばかり見て、自分が傷つく事も厭わない。

傷つけたくない、触れさせたくないと思う程、千尋はそこへ突っ込んで行ってしまう。

「・・・・人の気も知らないでさ。」

そのたびに前なんか見ないでくれと目を覆いたくなる那岐の気持ちなどきっと千尋は知りもしないのだろう。

―― けれど同時に思うことがある。

目を覆えないのなら。

千尋が辛い事からも苦しい事からも目を逸らさないというのなら・・・・。

(・・・・馬鹿馬鹿しい。)

心の奥底に涌いた衝動を那岐は冷たく切って捨てた。

馬鹿馬鹿しい。

自分と千尋は違う。

どこまでも真っ直ぐに進もうとする千尋の深い海のような、あるいは深い空のような瞳と同じものを ―― 忌み子の自分が見られるわけがないのだ。

胸の内に広がった苦い感情に那岐は顔をしかめ息を吐き出した。

そして金の髪の間から見える寝顔に目を落とす。

そこには最近、少しは将らしくなったと忍人に言われるようになった凛々しさは欠片もない。

子どもの頃と変わらないその顔に、心がきしんだ。

豊葦原(ここ)へ帰って来たくなどなかった。

見たくなどなかった・・・・王族としてたくさんのものを背負ってなお輝いていく千尋の瞳など。

知りたくなどなかった ―― 愚かだと、求める事などできないと分かっていても、千尋の瞳と同じものを見ることが出来るなら、と焦がれてしまう気持ちなど。

「ほんとに・・・・馬鹿馬鹿しいよ。」

吐き捨てた言葉は酷く、酷く苦くて。





そして ――

求めることを諦めた忌み子は、まるで幼子が壊れやすいものに触れる事を恐れるように。

彼にとっての唯一の空を隠した瞼に、口づけを落とした ――










瞼なら憧憬。










(私の書く那千はどうしてこう切ない系になってしまうのでしょう・・・・)











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