In die hohle Hand Verlangen, 〜 弁慶×望美 〜 「時々思うんですよ。この世の中に君と僕だけになってしまえばいいのに、と。」 穏やかな陽気の昼下がり。 陽気にぴったりの穏やかな声で、陽気にまったくそぐわない物騒な事を言い始めた弁慶に望美は眉をひそめた。 「それは・・・・随分、物騒ですね?」 「ふふ、情熱的、とは言ってくれないんですか?」 「いや情熱的っていうか・・・・」 弁慶さんだとうっかり本気でやりかねないし、という心の声はさすがに口には出さなかった。 冗談にしても自分の旦那様が本気で世界で二人だけ計画を実行しそう、などというのは笑えない。 「まあ、それは冗談ですけど。」 望美が考えていた事がわかったけではない・・・・んだと思うが、先に否定しておいて弁慶は調合し終わった薬の鉢を持って望美の側へやってくる。 「あ、それはどのぐらいづつ包めば良いんですか?」 「匙で2杯づつお願いします。」 「はーい。」 頷いて今まで包んでいた薬の最後の一つを包み終える望美の手つきも慣れたものだ。 「すっかり慣れましたね。」 「はは、最初は大変でしたよね。」 苦笑が漏れてしまうのは、元来不器用な望美が薬包みを覚えるまでの苦労の道のりがあったからだ。 「上手く包めないというだけならまだしも、違う形にできあがったりしていましたからね。」 「ああ、そんな事もありました。」 思わず遠い目になりながら望美は笑う。 薬を包んでいたはずがいつの間にかツルとか船とかになっていた衝撃は今でも忘れられない。 「でも今では完璧です。」 「もちろん!だって五条の薬師先生の奥様ですから。」 そんな事も茶化して言えるようになったのが嬉しくて望美が弁慶に笑顔を向けようとした時、急に右手が絡め取られた。 「?弁慶さん?」 きょとんっとしている望美の手を弁慶は包むように持ち上げて自分の頬へ触れさせる。 掌から弁慶の体温が伝わるのを感じて望美は首をかしげた。 「どうかしたんですか?」 「どうも・・・・いえ、どうかしてるかな。」 「はい?」 「望美さん、貴女は今ではもうすっかり源氏の神子ではなく、僕の奥さんですね。」 「はい。」 今更何を言っているのだろう、と言わんばかりに頷く望美に弁慶は少し表情をゆるめた。 「それなのに、僕は未だにあんな事を思ってしまう。」 「あんなって・・・・あ、さっきの世界に云々?」 「ふふ、そうです。貴女が誰かに微笑みかける度、触れる度に。」 唇の近くに触れている掌に弁慶がしゃべったせいで息がかかって、ぞくっと背中を何かの感覚が駆け抜けていく。 それを感じつつも、望美は呆れた。 「弁慶さん、それってやきもちにしては物騒すぎますよ?」 「そこは情熱的、と言って下さい。」 さっきのやりとりと同じ答えを食えない笑顔で返してくる弁慶に望美は笑って良いのかため息をつけばいいのか一瞬悩んだ。 その間に、弁慶は望美の手を自分の手で固定して少し顔を傾けて。 「っ!」 掌に感じた暖かく湿った感触に望美は思わず首をすくめる。 その反応がお気に召したのか、弁慶は望美の掌から唇を離さぬまま、言った。 「だから、この手で触れるのはなるべく僕だけにしておいてくださいね?」 ―― このヤキモチ妬き。 そう呟くかわりに、望美は盛大なため息をついたのだった。 掌なら懇願。 (弁慶が世界に僕と望美さんしかいりません、とか言い出したら周りはマジで焦りそうです・笑) |