「桐也くん。」

「ほんと、その呼び方変わらないよな。」

呼びかけると振り返った桐也くんがそう言って苦笑した。

それはまあ、私もそうだなあ、とは思っているのよ。

だって変わらないのは呼び名だけで、今の桐也くんは出会った時とはまるで違う。

もちろんであった時とは変わらない所もあるけど。

相変わらず自信家で、強気なところとか。

でもそれも前に比べてしっかりしてきた気がする。

確かな実績が増えたせいか、桐也くん自身が成長したせいか・・・・どっちもって気もするけど。

「・・・・なんて言うか、大人になっちゃったよね。」

「は?」

何言ってんの、とばかりに向けられた呆れた目はかわらないくせに、その目線は出会った時よりずっと上。

すらっと伸びた手足とか、やたらモデルさんみたいに格好良くなっちゃって。

「・・・・はあ。」

止める間もなく零れてしまったため息に、桐也くんが怪訝そうな顔をした。

「何?」

「ん〜?すっかり格好良くなっちゃったなあって。」

「褒めてくれてるわりに不満そうだけど?」

「そりゃ・・・・」

言葉の途中で視線を感じてそちらを見れば、みなとみらいの賑わっている人混みの中から桐也くんを見つめている女の子達の姿あって。

・・・・ああ、もう。

「桐也くんなんて10年ぐらい中学生でいたらよかったのに。」

「はあ!?」

100%八つ当たりな言葉に桐也くんが目を丸くする。

あ、こういうところはあんまり変わってないかな。

でも前だったら絶対ケンカになっていたこんな場面で最近の桐也くんは・・・・。

「なんで・・・・・・ああ、そっか。」

こら。どうして周りを見回して、やけに楽しそうに笑うのよ。

そういう生意気な顔も変わってない!

心の中で文句をいいつつ、赤くなった顔を自覚してぷいっと顔を背けると、桐也くんの声が追ってきた。

「香穂子?」

「・・・・・・・・」

「なあ、香穂子?」

「・・・・・・・・」

答えたら、声を出したら、絶対にからかわれるってわかってるから一生懸命無視に力を入れていた私は気が付かなかった。

桐也くんがひどく愛おしげに私の横顔を見つめた事。

そして ―― くいっと腕が引かれて。

「?」

ちゅっ

「・・・・・っっっ!?」

体が揺らいで桐也くんの顔が視界に入ったと思う間もなく、軽くキスをされた!

「き、き、桐也くん!?」

ここ、みなとみらいだよ!?天下の観光スポットだよ!?

ああああ、ほら、向こうで女の子達が悲鳴上げてるじゃない!!

あまりにもぎょっとして口をぱくぱくさせる私の手を握ったまま、桐也くんは踵を返した。

「え?え?ちょ、どこ行くの!?」

今日は楽器屋に行くつもりで歩いてきたはずなのに、Uターンする桐也くんに訳が分からず私は引っ張られる。

「今日は予定変更だ。」

「変更って・・・・」

「指輪、見に行く。」

「・・・・・は!?」

指輪って、指輪!?

鈍感鈍感と他の人には言われてきた私だけど、いい加減、付き合って長くなる恋人と指輪を見に行く意味に気が付かないほどじゃない。

「え?ちょっと、なんで急に!?」

大いに慌てる私に、肩越しに振り返った桐也くんは楽しげに言った。





「まずは指輪。で、衛藤香穂子になる。そうすれば自信たっぷりに俺を独占してる気になれるだろ?」





「・・・・・・・」

前言撤回。

桐也くんはちっとも変わってない。

相変わらず自信家で、強気で・・・・いつだって隠れている私の弱気を見抜いてしまう。

だから。

「・・・・変なプロポーズ。」

負け惜しみがてら口にした言葉に、またも私は返り討ちに合うのだ。






「返事は、はいで決まりだよな?」












(名前・・・・というテーマと微妙にずれた・汗。一応8年後ネタです。)