まさかのミステリー in 星奏学園
司会:『これは某県の日野香穂子さんが実際に体験したミステリーです。』 司会2:『もしも貴方がこんな学生を見たらきっと言うでしょう。』 司会2人:『『まさか!?』』 ―― VTRスタート その日、突然学内で行われるコンクールに参加する事になってしまった日野香穂子はとにかくできる限りは練習をしようと、学内を彷徨っていた。 いつもは人の多くも少なくもない屋上や音楽室がお気に入りの香穂子でしたが、今日はなぜかどこへ行っても他のコンクール参加者たちが練習中。 しかたなく普通科のエントランスまでやってきた香穂子は、比較的人のまばらな売店の反対側あたりでヴァイオリンをケースから取出し丁寧に準備する。 そしてさあ弾こうか、というところになって人波の向こうに頭ひとつ分飛び出した見知った顔を見つけた。 「土浦くーーーーん!!」 ざわめいているエントランスの中でもちゃんと聞こえるか心配しながら呼んでみると、見事に目的の人物、土浦梁太郎が振り返った。 ちなみに、香穂子のキャラクター性のために言っておくと彼女はそんなに大声で彼を呼んだわけではない。 とりあえず声をかけてみようか、程度の声なので周りの生徒たちも特に気にした様子もない。 つまり土浦がこのざわめきの中から香穂子の声を敏感に拾ったわけだ。 何故拾えたかについては土浦の方の心情にいろいろと原因を求めることができるのだが・・・・ ここではミステリーには特に関係がないので省かせていただく。 ともあれ、振り返った土浦は人ごみの中を歩いてきながら香穂子に話し掛けてきた。 「よう。練習か?」 「うん。」 「珍しいじゃないか。エントランスでなんて。」 「他のところはみんなが練習だったからしかた・・・・な・・・く・・・・・・・・」 「?どうしした、変な顔して・・・・よっと。」 ごと! ごろごろごろ 実に重々しい音を立てて土浦が引きずってきた『それ』を見て香穂子は絶句した。 その様子に首をかしげる土浦。 「??なんだよ?」 「つ、土浦君。それは・・・・」 「ああ?なんか変か?」 「いや、変とか変じゃないとかそんなレベルじゃ・・・・・」 「?おかしな奴だな。だいたい俺が『これ』を持ち歩いてなくちゃお前といつでも合奏できな・・・・あー、なんでもない。」 「え?な、何??そういえばこの間、やっと合奏しようかって言ってくれたけど・・・・」 「そ、そうだ。おい、合奏しようぜ!お前確か感傷的なワルツはもうマスターしてただろ。」 「???し、してるけど」 「じゃあ合奏だ。ほら、準備しろよ。時間が惜しい。」 「?????」 何故だか赤くなった土浦に促されて混乱状態のまま香穂子は調弦を始める。 その目の前で自分も『それ』の準備を始める土浦。 ぱかっと蓋を開けて、真紅の布を取れば準備は完了。 (確かにこれならすぐ合奏できるけど、それ以前になんで『あれ』を持ち歩けるの!?ついでにどうして土浦君が『あれ』を平然と持ち歩いている事に対して誰も何も反応していないの!?) もしや自分の常識の方がおかしいのかとクラクラし始める香穂子。 ・・・・いや、けして彼女の常識はおかしくない。 なぜなら『あれ』とは (グランドピアノなのに!!!???) そう、土浦が持ち歩いていたのは紛れもなく黒く艶やかに輝くグランドピアノ。 いい物になれば総重量何百キロにもなるという鍵盤楽器。 足の指でも轢こうもんならあわや骨折か、という代物を軽々と転がす高校2年生。 (おかしいよね!?ハリボテでもキーボードでもなくグランドピアノだよね!?) 念のため恐る恐る香穂子は尋ねた。 「あの〜、土浦君。そのピアノって・・・・本物?」 「ああ。キーボードでもいいんだが、あれはどうしても鍵盤が軽くなるだろ?音の響きも違うしな。」 「そ、そうなんだ・・・・」 (でもそれだったら何も持ち歩かなくても・・・・) 「おい、準備できたならやろうぜ。」 「え?ああ、うん・・・・」 未だ自分の常識と目の前の光景の間で彷徨いながら、とりあえずヴァイオリンを構える。 そして先行して弾き出した土浦のピアノの音色は、やっぱり紛れもなく実に滑らかで美しいピアノの音色で。 ますます常識の迷宮に陥った香穂子は見事に出だしを失敗したのだった。 ―― VTR終了 ゲスト一同:『まさか!?』 司会:『ではこのミステリーはゲストのM・Tさんに解いてもらいましょう』 ゲストM.T.:『いや、解くとかそういう問題じゃない気が・・・・』 司会2:『さあお答えをどうぞ!!』 ゲストM.T.:『ええ!?ヒントもトークもなし!?』 司会二人:『さあ!!』 ゲストM.T.:『え、えーっと、香穂子さんの友人の土浦君がグランドピアノを持ち歩けたのは・・・・ とにかく香穂子さんと合奏がしたいという愛が生んだ奇跡だった! これで間違いありません!』 司会:『では正解は・・・・』 〜 END 〜 |