恋とはどんなものかしら



「八木沢さんって・・・・カッコイイですよね?」

小日向かなでがぽそっと呟いた言葉に、菩提樹寮のラウンジに居合わせた至誠館のメンバー(※部長をのぞく)は一瞬固まった。

「ど、どうかしたのか?小日向。」

これは端に心の声が零れてしまっただけなのか、それとも問いかけなのか、全員が計りかねたが、もっとも女心というものを苦手としている火積が一番に根をあげてかなでにそう返した。

その問いかけに対して、ラウンジの籐椅子に腰掛けて、何やら真剣な表情で頬杖をついていたかなでは視線をあげて。

「カッコイイよね?」

「・・・・・」

どうやらさっきのは独り言ではなく問いかけだったらしい。

「部長、部長か〜。」

「くっ!八木沢の奴!女子にカッコイイと言われるとは、何という果報者っっ!」

頭を抱える狩野の横で、新は面白い事を見つけた子どものような顔でにまにまと笑う。

こいつがこういう顔をするとろくな事にならない、と横で拳を固めている火積の隣から、頼りない声が非常に的確な発言をした。

「・・・・あの、小日向さん。なんで僕たちにカッコイイよねって確かめてるの?・・・・」

「「「あ」」」

もう少し気が強ければ的確なツッコミに成長できるであろう伊織の鋭い一言に、他の至誠館メンバーは思わず声を上げた。

「そうだよ。カッコイイよっていう惚気じゃないんだ?」

「ばっ!水嶋!ノ、ノロケとか言うんじゃねえ!」

「ええ?だってそうじゃないですか!普通、彼女が彼氏の事をカッコイイとか言うなら惚気でしょ?」

「え?彼氏彼女!?」

新の言葉に驚いたようにかなでは目を見開いた。

その反応にかえって至誠館メンバーが驚く。

「えー?違うの?」

「ち・・・・」

「ち?」

「・・・・ちが、わ、ない・・・・と思う。」

プシューッと湯気が出そうな勢いで赤くなって俯くかなでの可愛らしい様子に伊織は微笑み、新は「かなでちゃん可愛い!」と抱きつきかけて火積に殴られ、狩野は「羨ましいぃぃぃ!」と頭を抱えた。

「あ、でも惚気とかじゃなくてね!その、いつも八木沢さんと一緒にいる至誠館のみんなはどう思うのか聞いてみたかったの。」

「どう、って部長がカッコイイかってこと?」

「うん。」

火積の拳固が落ちた頭を抱えていた新が顔を上げて聞いた言葉に、かなでは頷いた。

そしてさっきまでの可愛い照れぶりから一転、眉を寄せて真剣に話し出した。

「あのね、私、思ったの。」

まるで何かの秘密を打ち明けるような雰囲気に、至誠館のメンバーに自然と緊張が走る。

「八木沢さんってカッコイイよりカワイイの方が表現としては正しいんじゃないかって。」

「「「「・・・・カワイイ・・・・」」」」

「うん。だって八木沢さんってよく転ぶでしょ?」

「あー、そういえばかなでちゃんに会った時も階段から落ちてたね。」

「割と何もない廊下とかでも転ぶんだよなー。」

「そしてお料理上手。」

「・・・・部長の和菓子、おいしいよね・・・・」

「普通のメシもそつなく作ってくれたりするしな。」

「さらに植物とお友達で、音楽を愛していて、極めつけにあの笑顔!!!」

がたーんっと椅子を倒す勢いで立ち上がったかなでと、至誠館メンバーの頭の中に、同時に浮かんだのは春の日溜まりのようなほわーんっとした八木沢の笑顔。

けしてニヒルな系統でも、ツンデレな系統でも、クールな系統でもない、むしろ天使系と称すべき見る人を幸せにしてしまいそうな笑顔・・・・。

「・・・・た、確かにカワイイ。」

「か、狩野先輩!?」

「わかってくれますか!?狩野さん!」

「ああ・・・・わかっちゃう自分がちょっと泣きたいけど、わかる。」

「・・・・部長は優しいですし・・・・」

こっそり頷く伊織と狩野の手をがしっとかなでは握った。

「そうですよね!!そのはずなんです!」

「その、はず?」

かなでの言葉に引っかかりを覚えて新が首をかしげる。

「はずってことはそうじゃないってこと?」

「新くん鋭いね。・・・・うん、実はそれで皆さんに意見を聞いてみたかったんですけど。

「・・・・つまり、こういう事か?部長はその・・・・カワイイ、要素をもってるが、格好良く見える、と。」

「そう!そう言うことなの!」

火積くんさすが!と興奮したかなでに手を取られて(多分、本人は握手でもしているつもり)、火積は「なっ」と固まってしまう。

「よくよく考えてみたんだけど、やっぱり八木沢さんって考えれば考えるほどカワイイはずなんだよね。それなのに八木沢さんの事を思い出すとカッコイイなあって思うの。これって変じゃない?」

「変・・・・かなあ?」

うーーーーーん・・・・。

ラウンジ中に太字大文字で『考え中』と表示されているような、沈黙が流れ・・・・。

「・・・・あの・・・・」

沈黙を破ったのは、伊織の控えめな声だった。

「なになに?伊織先輩!結論出たんですか?」

「結論っていうか、小日向さん。」

「はい?」

「それじゃダメ・・・・なのかな?」

「え?」

「だから・・・・その・・・・部長がカワイイはずだけどカッコイイ、じゃだめなのかな、と思って・・・・」

伊織の言葉に残るメンバーははっとしてかなでを見た。

「確かにそうだよね。カワイイ部長だとダメなの?かなでちゃん。」

「いや、逆にカッコイイからダメって事もあるかもしれないぞ?」

「ダメとかいうんじゃねえ!」

焦ったように火積が否定するのも無理はない。

惚気かと思っていたら、これはもしかして部長のピンチ・・・・?、と至誠館のメンバーが恐る恐るかなでを伺った。

と、その途端。

「そんな事、あるわけないです!!」

―― 特大級の否定が来た。

ホッとするより先に、驚く至誠館メンバーに何やらテンションの上がってしまったらしいかなではそのままの勢いでしゃべり出した。

「八木沢さんがダメとか、そんな事、絶対ないです!可愛くても格好良くても八木沢さんは八木沢さんですもん!」

「そ、そうか・・・・」

「でも、じゃあなんで?」

わざわざ俺達に聞いたの?と新が首をかしげると、かなではぐっっと拳を握って・・・・。
















「だって!私がこんなに大好きなのに、この上、カワイイのにカッコイイなんて、ライバルばっかり増えちゃうじゃないっっ!!!」















―― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちーん。

「あー、小日向。ユキが廊下で茹だりそうな顔してるから、脳みそが蒸発する前にやめてやれ。」

「ち、千秋っ!!」

「!?!!!??☆○!×◇☆☆☆!!!??!?」















                                                〜 Fin 〜
















― いいわけ ―
すいませんすいませんすいませんっっm(_ _)m
ただ八木沢部長と部長がとにかく大好きなかなでちゃんが書きたかっただけなんです!出来心なんですっっ!!

・・・・ところで、部長はどこから聞いていたんでしょうね(笑)