いつでもどこでもff(フォルテッシモ) 





「天羽ちゃ〜ん、変なキャッチフレーズ付けるのやめてくれない?」

「ありゃ、お気に召しませんでしたか?火原先輩。」

ある日の報道部の部室で赤ペン片手に原稿の校正をしていた天羽は、情けない顔で苦情を言ってきた火原を見上げた。

正直、ちょっと予想外の来訪だった。

学内新聞でコンクールで活躍した人物の特集を組んだのは先日の話。

その時、ちょっと目を惹くキャッチフレーズをと各自に色々かってなフレーズを付けたのは確かだが、そういう事に五月蠅そうな月森でも土浦でもなく駆け込んできたのは火原。

「先輩にはそんなに変なのつけてませんよね?」

「天羽ちゃん、それじゃ他のメンバーに変なの付けたって言ってるようなもんだよ?」

「あはは〜。」

笑って誤魔化しておいた。

「で、どこかお気に召しませんでした?「いつでもどこでもff」。」

悪くないと思うんだけどな〜、と笑う天羽に火原がむうっと眉間に皺をよせる。

「別に嫌だったわけじゃないよ。確かにTpって音が大きいからffってイメージもわかるし。」

「ですよね。」

別に火原の音が無遠慮なでっかい音と言っているわけではないが、それでもヴァイオリン一台の音とでは基本的なボリュームが違う。

加えて火原本人の気質。

「我ながらぴったりのキャッチフレーズだったと思うんですけど。」

「実は俺もそう思った。だけどさ。」

「だけど?」

「・・・・香穂ちゃんに怒られた。」

「は?」

香穂ちゃん、こと日野香穂子は火原の彼女にして天羽の親友だ。

そんな彼女が天羽が火原につけたぴったりのキャッチフレーズで怒るとはどういうことなのか。

「あの、その時の状況を詳しく聞かせてもらえます?」

「うん・・・・。昨日さ、香穂ちゃんとお昼を食べようと思ってエントランスで待ち合わせしてたんだ。そしたら香穂ちゃんが学内新聞を持ってきてくれてさ。」

「ふむふむ。」

「俺の所読んだって。それでこのキャッチフレーズはぴったりですねって言うんだ。」

「ふむ。」

「明るくて元気いっぱいって感じでって。私に勇気をくれるffです、なんて言って笑ってくれてさ。それがすっごく、すっっっっごく可愛くて。」

「・・・・・」

あ、なんか嫌な予感。と天羽が思った時にはすでに時遅し。





「香穂ちゃん大好き−!って叫んじゃったんだよね・・・・」





「・・・・エントランスでですか。」

「・・・・うん。」

「それもお昼前の激混みの。」

「・・・・うん。」

「それで香穂は?」

「・・・・先輩はいつでもどこでも過ぎます!!って走っていっちゃった・・・・」

それからずっと謝ろうと思って探してるんだけど会えないんだよ〜、と耳をへしょっと垂らしたワンコのように情けなく訴える火原に、天羽はしみじみとため息をついて呟いたのだった。





「キャッチフレーズの才能あるよね、私。」

「天羽ちゃん!!」





―― ちなみに同じ理由で報道部に転がり込んできた香穂子が火原に捕獲されて、報道部部室が二人の世界になってしまうのはこの数分後の事である。










            
                                          〜 Fin 〜





(このお題を考えた時、火原しか思い浮かびませんでした・・・・でも書けば書くほど火原がアホになってしまうのも止められませんでした・・・・(= =;))