―― 運命だ、なんて言ったら君はまた、大げさだって笑うかな・・・・















Affettuoso 〜いつでも君を呼ぶ声に〜















新学期の朝、制服に袖を通す。

といっても、夏休み前まで着ていた制服じゃなく、深緑のダブルのジャケット。

(格好良いデザインだよな。さすがは私立。)

深紅のネクタイをきちんと締めるとどうにも落ち着かない感じだったので少し緩めて、加地葵は鏡の中の姿を確認した。

新しい制服はパリッとしていて落ち着かないのが常だけれど、その制服を着た自分の姿に自然と頬が緩む。

もちろん、葵には自分の姿に見取れる趣味などない。

そこに見ているのは自分の姿ではなくて、同じデザインの制服をきた一人の女の子の姿だ。

(髪が綺麗な赤茶色で、風に遊ばれるように長くて・・・・)

目を閉じれば簡単に思い描くことが出来るようになってしまった姿だ。

ヴァイオリンを手に音と戯れる彼女。

―― 初めて見たのは春だった。

何となく休日に出かけた臨海公園で葵はあの音に出逢ったのだ。

耳を掠めた時、全身がその音に反応した。

遠くで惹いている僅かな旋律だったのに必死で音を辿って走って、海の見える広場に彼女がいた。

(なんて音色なんだろう、と思ったんだよね。)

技術的にどうみてもたどたどしくて未熟なのに、まるで宝箱のように次から次へと溢れてくる音に一瞬で心を奪われた。

一生懸命にヴァイオリンを奏でる彼女は、必死なのにヴァイオリンと戯れているようにも見えた。

その日から、何度も公園に足を運んだ。

彼女がいない時にはひどくガッカリして、いれば天にも昇るような気持ちになった。

何度も何度も彼女の演奏を聴いているうちに、演奏以外の事にも惹かれるようになった。

例えば難しい曲を弾きこなそうとしている時の一生懸命な表情や、たくさんのお客さんから拍手をもらった時の誇らしげな笑顔。

そして同じ音楽仲間らしい男子生徒達と楽しそうに話している姿を見た時、気がついた。

誰よりも彼女の側に、自分がいたいと思っていることに。

それからは無茶の連続。

親を説得して、学校に届けを出したり編入試験を受けたり。

とにかく最短で彼女の所へ行くべく出来るだけのことをした。

そうして、やっと今日、この制服を着られた。

(側にいけるんだ。)

まだ自分のことなど知らない彼女に会いに行く。

そう思うと少し怖いけれど、それ以上に心が弾む。

葵は鏡の中の自分に軽く笑いかけておいてあった鞄をとる。

着慣れない制服、持ち慣れない鞄、初めての通学路・・・・その全てが嬉しくて足早に葵は歩いた。

ちらほら自分と同じ制服の生徒が見られるようになってきた道まで出た、その時。















「おはよう!日野ちゃん!」
















元気の良い女の子の声に、葵の心臓が大きく跳ねた。

少し先、交差点で今の声の主を見つけて笑いかける少女を見た時、息が止まるかと思った。

「あの子・・・・」

春風に遊ばれていた赤茶の髪、明るい笑顔に、背中に背負ったヴァイオリンケース・・・・見間違えるはずもない。

日野香穂子 ―― 葵の心を一瞬で奪った女の子。

自然と歩く速度が速くなる。

それにつられるように早くなる鼓動を意識しながら、葵は歩いた。

何やら話が弾んでいるらしい香穂子と友人に少しずつ近づく。

まだ葵に気がつかない、気がつくはずもない香穂子を見つめて葵は歩く。

トクン、トクン・・・・

交差点は星奏学園の眠そうだったり、楽しそうだったりする生徒達がたくさんいる。

けれど、葵の目に入っているのは一人だけ。

女の子の歩幅だから、少し頑張ればすぐ近くにいけて。

(自然に、自然に・・・・)

暗示をかけるように頭の中で呟いて、一つ息を吸って。

すれ違う瞬間、香穂子の顔を見ることが出来て自然と微笑みが零れた。

「・・・・ふふ、おはよう。」















―― そして、初めて一方通行だった視線が交わる




















                                                 〜 Fin 〜











― あとがき ―
初コルダ2創作、初加地創作です。
物書きならきっとみんな書きたくなるだろうな、と思いますので被ったらすいません。
転校初日の加地くんの心境でした。

タイトルは楽典「曲想に関する表現法」より、「愛情をこめて」。