Impromputu
Q,まずは名前と誕生日とか基本的な事からよろしく。 A,そっから?あー、衛藤桐也。1年。誕生日は3月30日。これでいい? Q,ありがとうございます。ではインタビューの本題にはいりますね。衛藤君は入学当初から音楽科では話題になっていたと思うけど、コンクールの優勝経験があるんだって? A,あるよ。国内と海外で。 Q,大きなコンクールだったの? A,まあまあ、かな。海外の方は色んな国の奴がいたからそっちのが面白かったけど。 Q,衛藤君は帰国子女なんだって? A,ああ、そう。中学までアメリカにいたんだ。 Q,ヴァイオリンを始めたのはいつごろ? A,覚えてないぐらい子どもの頃。気がついたらヴァイオリン持ってたって感じ。 Q,へえ〜、さすがは音楽科。じゃ、そのあたりの事も聞いてみようかな。 衛藤君の演奏はかなり華やかな感じだって新入生の間では言われているみたいだけど? A,華やか?ああ、まあ、そうかもな。俺もそういう曲好きだし。技術が必要で派手な曲っての? Q,昨年の学内コンクール出場者にヴァイオリン奏者が二人いたから私もヴァイオリンの音は色々聴いたけど、衛藤君の音はまた感じが違うね? A,ああ、学内コンクール出場者って月森先輩とか・・・日野先輩だろ?確かに俺とは違うかな。月森先輩はもっとストイックな感じだよ。 Q,もう一人の日野先輩の方は? A,あいつの音は・・・・うーん、なんだろうな。おもちゃ箱みたいだ。 Q,おもちゃ箱? A,そう。何て言えばいいかな、聴く度に音色が違う感じで何度聴いても飽きない。惹き付けられるっていうのか・・・・って、これ俺のインタビューだろ? Q,ああ、ごめんごめん。話がずれちゃったので戻しますが、星奏楽院を選んだ理由は? A,興味あったから。なんか色々面白そうだし。 Q,どのへんが? A,突発コンクールとか。生徒のアンサンブルコンサートとか。それに興味ある奴もいたし。 Q,ライバルとして? A,そうじゃなくて・・・・いや、そうとも言えるか。俺に誰より影響を与えた奴であり、誰より心配かけてる奴ってとこ。・・・・ま、音楽以外のライバルってのもいたし。 Q,おお、なんだか意味深な発言〜。このあたりでもう少しプライベートに突っ込んだ質問よろしいですか? A,どんな? Q,ずばり、好きなタイプは? A,・・・・そう言うのって学内新聞の記事としていいのかよ。 Q,何せ新入生の中で一番の有名人だったし注目度高いのよ〜。というわけで、好きなタイプは? A,いいけど。そうだな・・・・お人好し?俺から見たら別に放って置けばいいじゃんっていうような事を率先してやりたがるような苦労に突っ込んでいくタイプ。 Q,大変そうだね。そういう子の面倒みたい方? A,いや、普段は人の面倒なんて見る気にならないけど、そいつだけ特別。なんでか放っておけなくてついちょっかいだしちゃってさ。まあ、俺が面倒見てるつもりだったのに、いつの間にか変えられてたのは俺の方だったんだけど。 Q,・・・・えーっと、衛藤君。それ具体的な誰かの事だよね? A,え?あ、ああ、まあ。 Q,おお、ここでスクープ!?衛藤君って彼女いたんだ? A,あー・・・・ああ、でもそっか。ここで言っとけばいいのか。 Q,はいはい、なんでしょう? A,ここんとこ、絶対カットなしで頼める? Q,もちろん! A,じゃあ、よろしく。 普通科3年、日野香穂子は俺、衛藤桐也の彼女だから。 手を出そうとするなら、それなりの覚悟で挑んでこいよ。もちろん負ける気ないけど。 ―― そこまで読んだところで 「う、嘘でしょ〜・・・・」 星奏学院学内新聞を震えるほど握りしめて香穂子は呻いた。 幸い良い天気にも関わらず屋上に人がいなかったおかげで不審な目で見られることはなかったけれど、もし仮に人がいたとしても香穂子は呻いていただろう。 原因はもちろん、手の中の最新の学内新聞。 もっというなら、『話題の人をクローズアップ!』と大きく書かれた記事だ。 昨年はコンクール参加者が散々ターゲットになっていたこのコーナーに、今年新入生として入った桐也が特集されると聞いて何気なく手に取ったのだが。 (学内新聞で何を宣伝しているのよ〜!) 「き、桐也くんも天羽ちゃんもあり得ない・・・・」 「何があり得ないって?」 「!」 声と共に横から覗き込まれて香穂子はぎょっとする。 見れば、まさに諸悪の根源(?)たる桐也が少し悪戯っぽい顔で笑っていた。 「ああ、それ読んだんだ。」 「読んだんだ、じゃないよ!このインタビュー何!?」 「何って、俺のインタビュー。最初は乗り気じゃなかったけど、あの天羽って人面白いな。」 「天羽ちゃんは面白いよ〜・・・・じゃなくって!何宣言してるのよ!」 噛みつくような香穂子の抗議に桐也は一瞬きょとんとした顔をして、すぐににっと笑った。 「いいんじゃない?学内新聞の記事なんて我慢したほうだ。俺としてはもっと目立つ宣言したかったぐらいなんだぜ。」 「こ、これ以上目立つ宣伝って・・・・」 恐ろしい物を見るかのように見てくる香穂子を横目に桐也はわざとらしく考え込んで見せて。 「校門でキス、とか?」 「却下っ!!」 「ははっ!」 からかわれていると分かっていても、桐也ならやりかねないと反射的に叫んだ香穂子に桐也は見事に吹き出した。 それを横目に香穂子は深々とため息をついた。 「もう、笑い事じゃないよ〜。みんなに何言われるか・・・・」 「みんなって。」 「桐也くんファン。」 「はあ?」 眉をよせる桐也を見ながら香穂子はちょっと胸の内に苦いものが広がるのを感じていた。 海外、国内コンクールでの優勝という鳴り物入りで入学してきた桐也は柚木や月森ほどでないにしても、入学当初からかなり騒がれているのを知っているからだ。 (・・・・そりゃ、桐也くんの演奏は人を惹き付けるし、桐也くん自身も贔屓目抜きにしても格好いいと思うし・・・・) それは分かっているし、入学前からこの状況は想像していたとはいえやっぱりちょっと面白くないものがある。 とはいえ、どうすることも出来ずに出来はじめた桐也ファンの子達を刺激しないように黙っていたというのに、とうの桐也がこんな事をやらかしてくれるとは・・・・。 「はあ・・・・」 ほとんど無意識に重いため息をついた香穂子に桐也は肩をすくめて言った。 「別に何言われたって関係ないだろ。俺はあんたが好きだし、香穂子は俺が好きだって事を周りが知るだけだ。」 「!ま、またそういう自信たっぷりな事を・・・・」 「何、違うの?」 「ち・・・・がわないけど。」 ベンチの隣に座った桐也に覗き込まれて、香穂子は呻いた。 出会った時からすっかりおなじみになった今でも、この自信に溢れた桐也の表情に香穂子は弱い。 そんなわけでちょっと赤くなった頬を誤魔化すように香穂子が手の中にあった学内新聞に目を落とした時、「それに」という小さな桐也の声が耳を掠めた。 「?」 「それに、このぐらい派手に言っておけば興味本位の連中も少しは収まるだろ?」 「え・・・・」 どういう意味か掴みかねて顔を上げると、桐也はどこか呆れたような顔をしていて。 「俺、香穂子にそんな顔させるファンなんかいらないから。」 「気づいてたの?」 「気づかない方がどうかしてる。」 あまりにも当たり前のように言い切られて香穂子は思わず笑ってしまった。 「なんだ、そうだったんだ。」 「もろ顔に出てたからさ。女子に話しかけられてるの見てもの凄く納得いかなさそうな顔してたぜ。」 「ええっ!?」 (そ、そんなに!?) 自分ではかなり我慢しているつもりがあっただけにショックを受ける香穂子に、桐也は苦笑する。 「だからさ」 「?」 「あんたの方から宣言してくれないかなって待ってたんだけど?」 「え・・・えええっ!?そ、そんなの無理!」 がばっとのけぞって否定すると、桐也は「だろうと思った」とちょっと面白くなさそうに言って。 それから香穂子の手の中の学内新聞を指で弾いて言った。 「だから今回はこのぐらいで手加減したんだぜ?」 「うっ」 「で?まだ文句ある?」 「うう〜・・・・・ありません。」 「よし。じゃあ・・・」 言葉を切った桐也が香穂子との距離を詰めたのは一瞬だった。 小さな悪戯のように唇が唇を掠めて。 「っ!!」 かちっと赤くなって硬直してしまった香穂子に、桐也は悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。 「これからは公式的に俺のものってことでよろしく。」 〜 Fin 〜 |