「ス、スケさん〜〜〜・・・・」

「ん?どうした?アオイ。」

「〜〜しばらく、私に触るの禁止ーーーーーー!!!」















幕間劇にご用心















春うららかな東京は上野。

花見客で賑やかな町の片隅に知る人ぞ知る名飯屋「みよしの」はある。

安くて上手い上に、乙姫甲姫という看板娘がくるくると立ち働くこの店はご近所でも評判の飯屋だが、実は葵座という旅一座の本拠地と言う意味でも有名だった。

もっとも、「みよしの」の従業員三人が、忍びの里の者で家紋の力を使う葵座一行の手伝いをしている、という実情を知っている者はほとんどいないが。

ともあれ、「みよしの」といえば、美味しい物が食べられて、かつ葵座の役者達とも会える店として人気をはくしているのだが・・・・今日に限っては事情が違うらしい。

それというのも。

「・・・・なんなんだ、この淀んだ空気は!」

「みよしの」の暖簾を潜るなり思い切り眉を寄せて淋が叫んだ言葉に、がらがらの店内にいた乙姫と甲姫、それに葵座の面々は微妙な表情で返した。

「何っていうかなあ〜。」

「やけに店が静かだと思ったら、この雰囲気のせいだろ。」

そう淋がいうのも無理はない。

今は昼を少し回った程度。

本来であれば、「みよしの」は昼食をとるための客で賑わっているはずだ。

だというのに、店はがらがら。

ついでにいうなら、暖簾こそかかっているものの、店先までどよっとした空気が流れているようないかにも入りたくない風情を醸し出しているのだ。

「・・・ふう〜・・・・まあ、荒銀の言う通りだな。」

紫煙をはき出しながらの七巳の答えに、淋は顔をしかめる。

「言う通りだな、じゃない。一体なんなんだ、このカビの生えそうなどよっとした空気は!」

出かける前までは普通の「みよしの」だったはずなのに、茂丹と散策していただけの時間の間に一体何があったのか。

原因はなんだ!?とばかりに叫んだ淋の言葉に、店にいた全員が顔を見合わせて。

「・・・・原因。」

「・・・・原因ねえ」

「・・・・そりゃ、間違いなく」

「「「「「あれ(→)」」」」」

まるで示し合わせたように、全員が同時に同じ方向を指す。

「あれ・・・・?」

そのあまりのそろいっぷりに、やや引きながらも淋は視線をその方向へ向けた。

全員がさしたのは「みよしの」の座敷の奥の・・・・。

「おい、あれ・・・・」

何故か隅っこの方で膝を抱えて座っている・・・・。

「――・・・・ケンスケか。」

死ぬほどうんざりしたように淋がそう呼んだこのどよっとした空気の発生源は、まぎれもなく葵座座長神鳴剣助だった。

ただし、いつもの読めない伊達男ぶりはどこへやら、どよっとした空気の発生源らしくまるでキノコでも生えそうなほどのしめりっぷりだが。

「なんだ、あれは。」

「だからケンスケだって。」

「馬鹿ハチ。そんなこた、見りゃわかるだろ。そうじゃなくてどうしてああなったかってことだ。」

「なっ!馬鹿って言うな!!」

「・・・・やめろ、ハチスカ。これ以上不毛に騒ぐな。」

「けどよ〜・・・・」

「もうやめてえな、営業妨害はケン兄だけで十分どす。」

淋の言葉に一瞬陽太がいきり立つものの、鬼格と乙姫に両方から釘を刺されてやむなく大人しくなる。

その隣で、はあ、とため息をついた甲姫が淋に事情を話し始めた。

「実はなあ、平たくひらああーく、言ってまうと・・・・痴話喧嘩やねん。」

「ちわ・・・・・・・・はあ?」

「それがリン坊が出てってしばらくした頃なんやけどな・・・・」

―― というわけで、甲姫が語ったところによると、どうもこういう事らしい。

葵座の面々はここ数日は公演もなく次回準備もないという穏やかな時間を楽しんでいた。

だからこそ淋は茂丹と散歩に出たわけだが、珍しくそれ以外の顔ぶれは開店前の「みよしの」の座敷になんとなく集まっていたらしい。

そこにはもちろん、去年葵座に現れてその後剣助の恋人となり来世より剣助の側を選んだ少女、水戸葵の姿もあった。

元来働き者な葵は用事がない時にはよく「みよしの」の手伝いをしている事が多い。

だから今日もいつものように、乙姫甲姫と一緒に料理の下ごしらえを手伝っていたのだが・・・・。

「お嬢は何かする時は夢中になることが多いやろ?」

「ああ、そう言う所はあるな。」

「それが姫の素晴らしいところなのだ。」

「・・・・キカクはん、話がこんがらがるから黙っといて。で、今日はアオイはんに海老の背わた抜きを手伝ってもらってたんやけど、あれって少しコツがいるやろ?」

「ああ。」

「そしたらアオイはん、夢中になってしもうて。」

「・・・ふう〜・・・・・ケンが何か言っても返事は生返事。」

「姫さん一生懸命だったからなあ〜。」

「・・・・・・・おい、なんか嫌な予感がしてきたんだが。」

眉をひそめる淋の事などおかまいなしに、他の面々は微妙な表情で遠くを見つつ。

「当然、ケンは面白くない。」

「だ、だからと言って、姫に、あ、あのようなっっ!」

「・・・・・・・・・・・・あのような?」

「まあ、平たくひらたあくひらたあああく、言うと」

「引き寄せてほっぺに口付けしはったんよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

はあ、とため息と共に言った乙姫の言葉に、今度こそ淋は絶句した。

「そりゃまあ、いくら好いた人やゆうても、お嬢かて若い女子や。これだけの知り合いの前でそないな事されれば恥ずかしいやん?」

「それで、アオイはんが顔真っ赤にして怒りはって。」

「「しばらく、私に触るの禁止」」

ってな。

七巳・陽太の師弟が声を揃えて締めくくった事の顛末に。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あほか。」

心の中を駆け巡る突っ込みの嵐をやり過ごした淋の口から零れた一言に、座敷の隅でキノコの苗床化していた剣助がぴくっと反応した。

「・・・・あほ、だと・・・・?」

「おお、ケンスケが反応したぞ!」

これまで何の声をかけても無反応だったのだろう。

驚く鬼格をよそに、剣助はゆらっと立ち上がった。

そのよくわからない気迫・・・・なんだか、負のオーラなんだか分からないものに少し引きつつも、そこは葵座きっての男前女形は果敢に言い返した。

「どう考えてもあほだろうが。突っ込み所が多すぎて突っ込む気にもなれないぞ!」

「わかってない・・・・お前はわかってないぞ、リン!」

ぴしゃあっ!

どよっとした空気を切り裂く謎の稲光のごとく高らかに叫んだ剣助の声に、その他全員がやや圧倒される。

まるで予言者が何かとんでもない予言をする時のように、妙な緊張感が「みよしの」の昼過ぎの座敷に漂う。

一体、剣助は何を言い出すつもりか。

固唾を呑んで一同が見守る中、剣助はすうう、と息を吸い込んで。

「アオイはあんなにあったかくて、柔らかくてやたらめったら可愛いんだぞ!?側に居たら触りたいと思うのが当たり前だろ!?」

―― ちーん。

「・・・・ケンスケ・・・・」

「・・・・あほだな。」

「・・・・あほや。」

「な、なんだ、お前達!その心底疲れたような顔はっ!」

がっくりと肩を落とした鬼格や、頭痛を堪えるように頭を押さえる七巳と甲姫に剣助はさも心外だとばかりにわめき立てるが、こればかりは同調できるものではない。

否、同調というか、これは・・・・。

「ふう〜・・・・惚気なら他所でやってくれ。」

「そうやね。さ、キノ。夜に向けて仕込みしよか。」

「はいな。」

「・・・・・俺は鍛錬してくる。」

「・・・・行くぞ、モニ。」

「あ、こら。」

不満そうな剣助をよそに三々五々、当てられるのはごめんとばかりに散っていく。

唯一、反応の遅れた陽太だけがその場に残って小さく首をかしげた。

「なあ、ケンスケ?」

「うん?なんだ、ハチ。」

「ケンスケはさっき、姫さんにしばらく触るなって言われてたよな?」

「・・・・嫌な事を思い出させるね、お前は。」

顔をしかめる剣助に、陽太は無邪気にぱっと顔を輝かせた。

「じゃあ、しばらく姫さんと遊べるな!」

「・・・・は?」

どういう発想の飛躍かと眉を寄せる剣助に陽太は勝ち誇ったように言った。

「だってよお、最近は姫さんがどっか行くって言っても、何かやるって言っても、いっつもケンスケが一緒だっただろ?けど、側にいると触っちまうなら、触らないためにはしばらくはケンスケは姫さんの側に寄れないもんな!」

だからその間はおれっちが姫さんの遊び相手になるんだ!と実に楽しげに言い切って。

「よし、そうと決まったらさっそく誘いに行くぜ!姫さーん!」

「あ、おいっ!」

足早に「みよしの」の二階にある葵の部屋へ駆け上がっていく陽太を一瞬止めかけた剣助だったが、ふと動きを止めた。

そしてしばし考え込んで。

「・・・・側に居ると触っちまうから、触らないために、か。」

ぽつり、と呟いた剣助の口角が、ゆっくりと上がった。















(―― 何かおかしい。)

葵がその違和感に気が付いたのは、件の痴話喧嘩から数日たってからのことだった。

今日も今日とて開店前の「みよしの」で下ごしらえの手伝いをしていた葵は、サヤエンドウのひげを取りながら、眉間に皺を寄せた。

「えらい難しい顔でひげとりしてるんやね、お嬢。」

「甲姫・・・・あ、これ終わったよ。」

ちょうど厨房から出てきた甲姫に声をかけられて葵は途中まで終わったサヤエンドウの入った鉢をさし出す。

お礼を言いながらそれを受け取りついでに、甲姫はつんっと葵の眉間をつついた。

「わっ!?」

「ほら、眉間に皺。くせになるで?」

「〜〜」

つっつかれた眉間を庇うように両手で押さえて、葵は小さくため息をついた。

「随分重いため息だねえ、菩薩殿。」

「どうせまた痴話喧嘩だろ。」

と、横から茶々を入れたのは七巳と淋だ。

二人の言に、葵はむうっと頬を膨らませる。

「別に痴話喧嘩なんてしてないよ!・・・・だって」

言い返そうとして、葵の言葉が途切れる。

そう、痴話喧嘩なんて数日前のあの時以来していない。

何故なら。

「・・・・だって、スケさんと会わないから。」

「「「え?」」」

部屋に居た三人が驚いたような声を漏らすのを聴きながら、葵はサヤエンドウに目を落とした。

―― そうなのだ。

あの痴話喧嘩以来しばらく、葵は剣助の姿を見ていなかった。

(最初は、いいかなって思ってたんだけど・・・・)

剣助と名実ともに恋人となって早半年ほど。

もともと触りたがりな傾向のあった剣助は、葵が明治に残ってからこちらさらにそれが強くなっていた。

葵とて、剣助は自分の生まれた世より共に生きる事を選んだぐらいに好きな人なのだから、触れられて嬉しくないはずがない。

しかしそれはあくまで二人きりの時の話。

人目がある時には恥ずかしさや居たたまれなさに苛まれていた葵は、あの日、とうとう爆発した。

(この辺でしっかり言っとかないと!って思ったんだよね。)

もうこの際、すれ違ったら二度と会うかわからない人が行き交っているような往来ぐらいは諦める。

けれど、せめて日々一緒に過ごしている仲間達の前だけはやめて欲しい!

そんな意図を持って葵は切れた。

結果、その後の剣助の反応をあの日座敷にいたみんなから聞くに、どうも堪えたらしい。

・・・・そこまでは葵のねらい通り。

しかし。

「会わないんだよね・・・・。」

次の日からぴたりと剣助の姿を見かける事はなくなった。

(どこかに出かけてるのかな、とも思ったけど。)

「けど、ケン兄、普通に帰ってきてるで?」

と、甲姫が言った通り、剣助は至って普通に生活しているらしい。

しかし何故か葵だけが剣助の姿を見かけない。

「うん、普通にしてたら会うと思うんだけど・・・・」

「まあ、帰ってくるのは確かにここ数日遅いみたいだが、部屋でも訪ねれば会えるんじゃないのかい?」

七巳の指摘に葵はぐっと言葉に詰まる。

「そ、その通りなんだけど・・・・」

「喧嘩したから部屋へは行きにくい、か。」

「うっ」

淋に図星を指されて葵は呻いた。

確かにその通り。

怒って剣助が堪えた事は確認したから、後は顔を合わせたら仲直りをしよう・・・・と思っていたのに、一向に顔を合わせる気配がない。

となると、今度はじわじわと不安がにじみ出てくる。

ため息と共にサヤエンドウのヒゲを一つ向いて、葵は呟いた。

「もしかして私、怒りすぎたかな・・・・?」

言うべき事は言う、は葵の身上だがそれでも言い過ぎて剣助に万が一嫌われたらと思うと胸の奥が凍り付いたように冷える。

「・・・・嫌われてたらどうしよう・・・・」

細々と不安を音にしてしまった途端、鼻の奥がつんっと痛んだ。

思わず涙がこぼれそうになって、葵は慌てて瞬きをくり返す。

・・・・だから、「あー・・・」「いや、嫌われるってお前・・・」「ケン兄・・・」と三人が同時に口を開きかかったことに、幸か不幸か葵は気が付かなかった。

―― ちょうどその時。

がらっと「みよしの」の戸が開いて。

「あ」

「あ・・・・」

反射的に顔を上げた葵の目に映ったのは、「みよしの」の戸口から中途半端に中に入りかけた剣助の・・・・ここ数日間、見ていなかった恋人の姿だった。

「スケさん・・・・」

ほんの数日見ていなかっただけなのに、その姿に胸が高鳴って葵はどうすればいいかわからず、思わず呟く。

その声に対する剣助の反応は・・・・何故か酷く困ったようにいわれた、

「アオイ、いたのか。」

という呟きだった。

その響きに、葵の鼓動がどきん、と嫌な方へ鳴る。

「・・・・いちゃ、ダメだった?」

「いや・・・・」

思わず発してしまった葵の問いに、剣助はまた視線を彷徨わせて、すっと被っていた帽子の鍔を下げた。

いつもは迷うことなく向けられる漆黒の視線が遮られた事に、葵は衝撃を受ける。

(なんで・・・・)

こっちを見て笑ってくれないの?

どうしてどうして、と嫌な予感だけがグルグルと渦を巻く。

そんな葵の混乱にとどめを刺すように、剣助はすっと葵に背を向けるとぽつりと言った。

「お前と・・・・顔を合わせたくなかっただけなんだ。悪い。」

「っ!」

―― その言葉を聞いた瞬間、弾かれたように葵は立ち上がっていた。

そして。

「お嬢!?」

驚く甲姫の声も耳には入らない。

ただ、一直線に裸足で土間へ駆け下りたことにも気づかずに剣助の背中へ抱きついた。

「アオイ!?」

「やだ!やだやだやだやだ!」

「ど、どうした・・・・?」

駄々っ子のように必死で「やだ」をくり返す葵の耳に戸惑ったような剣助の声が滑り込む。

それさえも葵には拒絶を含んでいるような気がして、葵はなお強く剣助に抱きつく。

「怒ってごめんなさい!だから、嫌いにならないでっ!」

葵がぎゅうっと剣助の背に顔を埋めるようにして叫んだ言葉に、剣助はぴくっと肩を振るわせて・・・・。

















「―― 嫌いになんて、なるわけないだろ。」















「え・・・・っ!?」

意外な言葉が聞こえた、と思った瞬間、身を翻した剣助の腕の中にあっさり葵は捕らわれた。

「スケさん、?」

涙目の瞳を大きく見開いて葵が見上げた剣助の表情は・・・・びっくりするほど優しいそれだった。

「ごめんな。こんなに驚かすつもりはなかったんだぜ?」

いまだ展開が飲み込めずただ剣助を見返すだけの葵の額に、帽子の鍔が当たりそうなほど顔を近づけて剣助は愛おしげにその頬を拭った。

その仕草ひとつで、剣助が葵を想っていることを知らしめるほど優しく柔らかく。

けれどてっきり嫌われて顔を合わせてくれなくなったのだと思った葵にしてみれば、そんな仕草も混乱の元でしかない。

「え、ど、どうして?私の事、嫌いになったんじゃないの・・・・?」

「だから言っただろ?俺がアオイを嫌いになんてなるはずないって。」

さも当たり前のように言い切って、さっき拭った方とは反対の頬へ零れた涙をすくい取るように唇を寄せられて葵の鼓動が大きく高鳴る。

「でも、だったらどうして会えないって・・・・」

そう、それだ。

混乱した頭の中からなんとか疑問点を探し出して言った葵に、剣助は少しだけバツが悪そうに苦笑する。

「そりゃ、お前が触るなっていうから。」

「え?」

「俺はアオイが好きだからさ。側にいたら絶対に触っちまう。他に人がいるとかいないとか、そんなことどうでもよくなっちまうんだ。・・・・けど、お前はそれが嫌だったんだろ?それなら会わないようにするしかないって」

そう思ったんだ、と剣助が続けるより先に。

「スケさんのばか!」

葵がぎゅっと剣助に抱きついた。

「おい、アオイ?」

「そんなの本末転倒だよっ。そりゃこの間みたいに触られたのは恥ずかしかったけど、でも・・・・スケさんの事好きだから。ホントは・・・・触られるのだって嫌なんかじゃないから。」

ぽつぽつと心の内の言葉を紡ぐ葵の言葉に、剣助が優しく問う。

「本当か?」

「うん。」

「俺は側にいたら我慢できずにまた触っちまうけど、いいのか?」

「うん・・・・スケさんが側にいないより、ずっといいよ。」

どんなに恥ずかしいと思ったって、大好きな人の側に居られないほど辛い事はないから。

ことん、と剣助の胸に頭を預けて葵はそう言った ―――― 刹那。

「―― よし、言ったな?」

「・・・・え?」

突然、剣助の声のトーンが切り替わった、と思う間もなく。

「ひゃあっ!?」

姫抱きに抱え上げられた葵は悲鳴を上げた。

その唇に、間髪入れず、剣助がちゅっと軽い口付けを落とす。

「ス、ス、ス、スケさんっっ!?」

何事!?と目を白黒させる葵に、剣助は実に人の悪い顔で口角を上げて見せてさっくりと言い切った。

「人前で触られても、俺が側にいないよりずっといい。だろ?アオイ。」

「!!!」

これは、もしかして、もしかしなくても。

ぱくぱくと声にならない声に口を開け閉めしている葵に、剣助はこの段になって初めて、「みよしの」の座敷の方へ目を走らせて。

「ちょうど証人もいるし、もう撤回はできないぜ?アオイ。」

「!?」

はっとして葵が見た先には、ものすごく居たたまれなさそうに目をそらす七巳と淋と甲姫の姿があって。

「〜〜〜〜〜〜〜〜」

もうどうしようもなく真っ赤になって顔を伏せた葵の耳に、剣助はこれでもかとばかりに甘い甘い声で囁いたのだった。

「俺はお前が大好きだから、いつでも触れていたいんだよ、アオイ。」
















                                                 〜 終 〜









「・・・・おい、終わって良いのかよ!だいたい、ケンスケは最初から騙す気で」

「野暮なこといいなさんな、荒銀。」

「せやなあ。まあ、さすがは」

「「葵座座長」やね」だな」

―― お後がよろしいようで。























― あとがき ―
珍しく確信犯な座長(笑)
まあ、結局座長はスキンシップ魔なわけですよ。