WOLF??
「お疲れさま」 舞台がはねた後の楽屋に一人残っていたボルスは顔を出した人物を見てぱっと顔を輝かせた。 「クリス様!見に来てくださったんですね。」 「若い女性の間で評判のゼクセン騎士が二人とも着ぐるみで劇に出ると言うんだ。見に来ない奴はいないだろう?」 くすくす笑いながら近づいてくるクリスにボルスは情けないような、照れたような表情で笑った。 「たいした役じゃないんですけどね。」 「そんな事ない。二人とも・・・・くっ・・・・いや、なかなかだった。」 言葉半ばで先程の舞台を思い出したのか、僅かに吹き出しながらクリスはボルスの姿に目を走らせた。 「まだ着替えてなかったんだな。」 「はあ、実は背中のチャックをおろさないと着替えられないのですが、みんなすぐに出ていってしまって・・・・」 「着替えられない、というわけか。それにしても・・・・」 そう言ってクリスはいきなりボルスの手をすくい上げた。 「ク、ク、クリス様!?」 あたふたするボルスに構わずクリスはボルスの手、というか衣装を見て驚いたように言った。 「肉球までついてるんだ。相変わらず本格的だな。」 そう言うなりクリスはもう一方の手も掴むと、無造作に自分の両頬に押しつけた。 「!?」 近い距離でクリスの頬を挟むように見つめ合う格好になったボルスはみるみるうちに真っ赤になる。 それに気づいているのか、いないのか、クリスは気持ちよさそうに目を細める。 「ふふ、結構気持ちいいんだ。」 (こ、これは・・・・!) まるで誘われているかのような仕草にボルスの頭に血が上る。 いつも見つめているクリスの銀の髪や、アメジストのような瞳が今までに無い近くにあって、極めつけにふわりとクリスの香りまで掠める。 それは彼女に想いを寄せるボルスにとってそれは甘美な麻薬にも似て・・・・ 「クリス様・・・・」 熱に浮かされるように彼女の名を呼べば不思議そうに見上げてくる瞳。 まるで惹き寄せられるようにボルスは頬を傾ける。 そして、そっと、本当にそっと触れたのは ―― 彼女の額 「?」 首を傾げるクリスから弾かれるように飛び退いたボルスは首まで真っ赤になった顔で叫ぶ。 「お、お、俺だって男なんですからね!!オオカミにだってなるんですよ!!」 叫ぶなり、逃げるように全力で部屋を飛び出していくボルス。 それを見送って、クリスはあっけにとられたようにポツリと呟いた。 「・・・・今、何かされた?」 ―― ボルスが飛び出していった楽屋のドアのすぐ脇で、中に入り損ねて一部始終を見てしまったその他の出演者達はそれぞれに呆れたようなため息をついた。 「本人にも気づいてもらえないようなキスで、何がオオカミだよ。」 「そう言わないでやってください。ボルスにはあれで精一杯なんですから。」 同僚をフォローするパーシヴァルの口元にも苦笑とも、笑いともつかない表情が浮かんでいる。 「しかし、なんだなあ。」 「あれはやっぱり・・・・」 「「「「犬!!」」」」 とうとう口に出した4人がその場で笑い転げてしまったのは、しょうがないだろう。 〜 END 〜 |