君という存在
―― かわいくねえ女 最初は確かにそう思ってた。 だってそうだろ? 女だてらに滅法強くて、遠慮の欠片もなく男共を沈ませて。 しかもこの俺に向かって口だけだとか、自分中心で考えるなとか言いやがる。 あー、かわいくねえ、かわいくねえ! 俺は女遊びもしたし、女は嫌いじゃねえがあんなのはごめんだぜ。 ―― 変な女 次にそう思った。 俺より年下のくせに、甘えた所もなくて。 普通、あの位の若い女なら少しぐらい男に甘えたいとか、それがまだ早えなら親とか大人に甘えたいと感じる年頃だろ? なのに、ちっとも甘えやしねえ。 素直なんだが(ただ俺以外のやつにか?)頑固で。 人なつっこいわりには犬っころみたいな愛らしさはねえ。 変な女だよ。 ただの小娘のくせに、時々・・・・妙に遠くを見てた。 ―― 優しい女 初めてそう思ったのは才谷さんが死んだ時だ。 衝撃で目の前が真っ暗になった俺に、あいつは一生懸命呼びかけてきた。 誰もが腫れ物にさわるように遠巻きに俺を見ている時でも、あいつだけは踏み込んできて俺の気持ちをゆさぶった。 負けないでくれってさ。 才谷さんが死んで俺自身も死んだような気がしていたのに、あいつだけは耳元で叫びやがる。 貴方はこれから生きていくんだって。 才谷さんがいなくなってしまっても、これからの日本を俺が引っ張っていけるって。 ・・・・誰もあの時の俺にそんなことを期待なんかしやしなかってのに。 あいつだけは疑いの欠片もなくそう言い切りやがった。 だから俺は、立ち上がって走り出せた。 ―― 強い女 才谷さんの仇を討とうなんてバカな事を考えた俺を守ると言ったあいつを見た時、そう思った。 確かにあいつは俺よりずっと腕が立って実戦もつんでんのは知ってたから、それがただの机上の空論じゃなってわかってた。 けど、腕っ節の強さじゃねえ。 あいつの瞳の強さに俺は内心震えた。 守ると言ったら何が何でもあいつは俺を守ろうとするだろう。 それだけの覚悟を瞬時に決めやがった。 だから俺はお前まで死なせたくないと言ったのに、絶対に着いていくと言ってきかねえで。 頑固で、一生懸命で、真っ直ぐな、強い女だと思った。 ―― 愛しい女 今じゃ毎日こう思ってるぜ? ・・・・まあ、あんまり言わねえけど。 ちょ、ちょっと残念ってお前なあ、んなことしょっちゅう言えるかよ! あ?才谷さんは言ってくれるって言ってた? お前・・・・俺と才谷さんを一緒にするなよ。 それになんだ・・・・あれだ・・・・ちょっと、負けた気がするような気がすんだよ。 は? じゃあ、私がって、おま・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ あーっ!!なんだよ、なんで俺が負けた気になんだよ!! ちくしょぉ、ったく・・・・。 そうだよ。 お前は可愛くなくて、変で、だけど優しくて強くて、愛しい、俺の女だよ。 ほら、俺の勝ちだ、な?倫 ―― 〜 終 〜 |