「耳元で囁くって言うのは反則だと思うんだよね!」

びしぃっ!っと人差し指を突きつけられて宣言されたセリフにヒノエは珍しくきょとんっと望美を見つめてしまった。

「反則?」

「そう反則!だってすごい近い距離で。」

「ふーん・・・・こんな?」

すっと耳元に顔を寄せると、途端に望美がぎょっとしたように飛び退いた。

「だ、だからっ!!」

飛び退いた望美があっという間に赤く染まっていくのを見ながらヒノエは押し殺した笑い声を上げた。

「ヒノエくん!反則だって言ってるのの!」

途端に盛大な抗議が飛んできてヒノエは小さく肩をすくめる。

(反則、ね。)

望美らしい言い方だと思う。

ちょっと生真面目で鈍感な彼女らしい。

(・・・・オレがどうして囁いてみせるかなんて深読みはしてくれないんだよな。)

耳元に口を寄せて囁く ―― 恋人の真似ごとをするような行為に、望美はきっとからかわれたと思ったのだろう。

ヒノエも実際そうだったし、今でも5割ぐらいはそうだけれど。

「〜〜〜もう、ヒノエくんってどこの女の子にもそんな調子なんでしょ!」

はっきり答えないヒノエに苛立ったのか、望美がぷいっとそっぽを向く。

その仕草がなんだか子どもっぽくて妙に可愛い。

そう思う反面、つきり、と胸が痛むようになったのはいつからだっただろうか。

(自業自得とはいえ、ちょっと切ないね。)

恋人の真似事をしたいのは君だけ・・・・なんて月並みすぎて、きっともう信じてはもらえない。

だから。

「望美。」

そっぽを向いた望美の名前を呼ぶ。

ここで別に無視したっていいのに、律儀に振り返ってしまうのが望美だ。

今回も思った通り振り返るそのタイミングを逃さずに、ヒノエは紫苑色の髪からのぞく耳に唇を寄せて。

「っ!」





思わせぶりなppピアニッシモ)





「ヒ、ヒ、ヒノエくんのばかー!!」

囁きの代わりに口づけを落とされた耳を押さえて走り去っていく望美の背を見送って、ヒノエは楽しげに笑ったのだった。











                                        〜 終 〜





(たぶん、これが一番短い。ヒノエの囁きと弁慶の囁きは同格に卑怯だと思います・笑)