ずるいよ! 〜ぱーと2〜




「やっぱりさあ、ずるいと思うんだよね。」

「まあ、神子様・・・・」

「あ、ごめん。困らせるつもりはないんだけど、でもさあ。」

「神子様ったら。」

紫が困ったように小首を傾げたその時、ばたばたばたっと貴族の屋敷に響くにしては少々行儀の悪い足音が聞こえてきたかと思うと、御簾が勢いよくイサトが飛び込んできた。

「よお!今日はどこ行く・・・・ってあれ?」

「おはよ、イサトくん。」

「おはようございます。」

入口で踏みとどまったイサトは部屋の真ん中でのんびりお茶を飲んでいる紫と花梨に挨拶されて、勢いを削がれたように頬を掻いた。

「おう。なんだ今日は出かけねえのか?」

「うん、今日は宇治橋が方忌みで行けないから他にこれといってやることもないし、お休みにしたの。」

「ふ〜ん。」

と、そこへイサトとは見事に対照的な優雅さを醸し出した彰紋が、顔を出した。

・・・・が、よく見ると頬が赤くなっているし息を多少上がっている。

どうやら彼の常識が許す範囲で必死にイサトを追いかけてきたらしい。

「花梨さん、紫姫、おはようございます。」

「あ、彰紋くん。おはよ!」

「おはようございます。今日は神子様はお休みですのよ。」

聞かれるより先に事情を説明されて、彰紋は少し残念そうな顔をした。

「そうなのですか。」

「だってよ。」

「そうだ。二人とも今日は忙しいの?」

花梨にそう聞かれて彰紋とイサトは顔を見合わせた。

「別に用事はねえぞ。」

「僕もありませんが。」

「それじゃあ一緒にお茶しよう♪」

「「お茶する?」」

漠然と意味はわかるものの、奇妙な言い回しに二人は首を傾げた。

慌てて花梨は言い直す。

「お茶を飲みながらお話ししましょうっていう意味です。」

「ふ〜ん。いいぜ。」

「お邪魔致します。」

それぞれ答えを返して、イサトと彰紋はお茶の輪に加わった。








「ところで先ほどまでは何のお話をされていたのですか?」

話の口火を切るように聞いた彰紋の言葉に紫姫と花梨は顔を見合わせた。

「う〜ん、別にたいした話じゃないんだけど・・・・」

花梨が曖昧に答えた途端、紫がくすりと笑った。

「あら、神子様ったら。たいした話ではない、というご様子ではありませんでしたわ。」

「ゆ、紫姫〜〜〜」

『言わないで〜』と同じ響きを持った声で花梨がとどめてみるものの、ばっちり朱雀コンビは聞き取っていて二人そろって花梨に目を向ける。

「どんな話だったのかよろしかったらお聞かせ願えませんか?花梨さん。」

「そうだ。そういやさっき、何かがずるいとか言ってたよな?」

できれば誤魔化そうと目を泳がせるものの、花梨にはとっさにうまい言葉が出てこないらしい。

そして神子様必殺上目遣い(注・無意識)で朱雀の二人を見上げる。

「え〜っと、笑わない?」

その仕草と表情に花梨を憎からず想っている二人がやられないはずはなく、イサトと彰紋は勢いよく首を振った。

「笑うなんてそんな失礼な事はいたしませんから。」

「そうだぜ!俺たちが花梨の事を笑うわけないだろ。」

「ホントに?」

「「もちろん!」です!」

コンマ3秒で力一杯保証してくれるイサトと彰紋を見て、花梨はう〜んと考え込むと言った。

「じゃあ・・・・言っちゃおうかな。」

「おう、言ってくれ。」

「うん。実はね・・・・」

重々しくそう言った花梨はぐっと両手の拳を握りしめてずいっと二人に詰め寄って










「八葉にだけ格好いい決めポーズがあるのってずるいと思わない!?」










「「はあ?」」

二人は約束は守った。

笑うのではなく、二人そろって眉を寄せただけなのだから。

いや、むしろ即座に笑えるほど花梨の言っている意味がつかめなかったという方が強いのだが。

しかしその辺を理解していない花梨は非難がましい目で二人をにらみ付ける。

「やっぱり笑った〜。」

「いや、笑ってねえって。」

「そ、そうですよ。それより申し訳ないのですが、よろしければもう一度言ってくださいませんか?」

さすがは東宮なんぞやっていると心が広いのか、実に丁寧至極な聞き返され方をして花梨はあっと気づいたように顔を赤くした。

「ごめんなさい。ポーズなんて言ってもわからないよね。」

・・・・いや、根本的な疑問はそこではないのだが・・・・

という突っ込みは賢い朱雀コンビは心の内にしまっておいてとりあえず頷くことで先を促す。

「え〜っとね、あ、ほら天地の八葉で協力技を使う時があるでしょ?あの時みんなバシッとかっこよく決めポー・・・・じゃなかった。格好を決めてるでしょ?
あれ、いいな〜って思ってたんだよね。神子は封印できてもポーズはないし。」

不公平だ!などとぶつぶつ言っている花梨を見ながら彰紋はあやうく頭痛を起こすところだった。

まさか花梨がそんなものを羨ましがるとは思っていなかったのだ。

(でも、そういえば勝真殿と頼忠殿が以前に花梨さんにおかしな事を言われたとおっしゃっていたことがありましたね。)

なるほど、こういう事かと納得してふと見れば紫姫が『お止めしてください』というメッセージをありありと滲ませた目で見つめてきているのが目に入った。

(なるほど、それでさっきあんな風に花梨さんに話をさせようとしたんですね。では・・・・)

紫姫の意志をくみ取って彰紋がいまだにいいな〜を連発する花梨を納めようと口を開きかけた、その瞬間だった。

「・・・・確かにその通りだよな。」

「はあ????」

ぼそっと朱雀の相棒の言った台詞に彰紋は間の抜けた返事を返してしまった。

しかし花梨の方はぱっと顔を輝かせてイサトを振り返る。

「でしょでしょ?そう思うでしょ?」

「ああ。俺たちだけあって花梨がないんじゃ不公平だもんな。」

「そうなの!そう思ってたんだ〜。すごい!イサトくんわかってくれる?」

「おう!よくわかるぜ。」

「あの・・・・花梨さん?イサト?」

目の前でものすごい勢いで意気投合していく二人を見ながらなんとも嫌あ〜な予感を覚えた彰紋が不安げに問いかけるが、そのへんエキサイトしたイサトと花梨の耳には残念ながら届かない。

「あの決める瞬間の気持ちよさを味わえないなんてかわいそうだよな。」

「そうそう。きっと気もちいいだろうな〜、とか思いながら後ろからみてるだけなんだよ?すごい悲しいんだから!」

「だよな。よし、じゃあ作ろうぜ!」

「え!?いいの?」

「いいにきまってんじゃん!お前はいつも京のためにがんばってんだからさ。その決めぽーず?って奴の1つや2つぐらい俺が作ってやるよ。」

「・・・・あの・・・・」

「やったーーー!!イサトくん大好き!!」

「なんだよ、いきなり。照れるじゃん。へへ、そう言われたら気合いをいれて作んねえとな。
よし、行くぜ!」

「うん!」

「あ、あの・・・・・」

「なにしてんだ彰紋!さっさと行くぜ!」

「ちょ、ちょっと待ってください!イサト!花梨さん!あ〜〜〜〜〜〜・・・・・・・」

バタバタバタっという元気のいい足音が2つと、無惨に引きずられていく音が響いた後、静寂が戻った部屋に一人残された紫姫は深々とため息をついた。

「・・・・彰紋様、頑張ってくださいまし・・・・」










―― 後日、完成した決めポーズをはらはらと涙を流す彰紋も巻き込んで3人でやったところ、シリンに「あんた達・・・・馬鹿かい?」と突っ込まれて3人そろって地の底まで落ち込んだ、とはおそらくシリンと同じ感想を持ってしまったであろう年長の八葉の談である。











                                                              〜 終 〜







― あとがき・・・? ―
決めゼリフをやったらやっぱり決めポーズもネタにしないと・・・・・いや、すみません。血迷いました・・・・