ずるいよ!!




「絶対、ずるいと思うんだよね!」

頬をふくらませて言われて紫は困ったように首を傾げた。

「でも、神子様。そればかりはどうにもなりませんわ。」

「うん、わかってるけど。でもさぁ・・・・」

「よお。何騒いでんだ?」

「失礼いたします。」

御簾を上げて入ってきた天地の青龍を見て、花梨はふくらませた頬を元に戻す。

「あ、勝真さん。頼忠さん。こんにちわ。」

にっこり笑顔を向けられた2人の青年はつられたように微笑んだ。

「今日の散策は休みなんだってな。」

「はあ。紫姫が・・・・」

花梨がちらりと隣に座っていた紫を伺うと、彼女は仏頂面で頷いた。

「ここしばらくの間、神子様は歩き回ってばかりですもの。たまにはお休みいただかなくては。」

花梨は四神の三柱目になる玄武を解放して、反対勢力である院側の八葉を見つけだした後、ますます勢いづいて京を歩き回っていた。

星の一族としては歓迎すべき事態かも知れないが、神子という以上に花梨を信頼し慕っている紫としてはその身が心配でしかたがなかったのだ。

それで今日はほぼ強制的に休ませたというわけである。

・・・・その際、泣き落としをいかに有効活用したかはいうまでもない。

「花梨殿は確かに大変頑張っておいでですから、お休みになられたほうがよいと思います。」

ここぞという時をばっちり押さえて発言する無口な青龍の相方は、今回もきちっとツボを押さえていたらしい。

普段あまり感情の起伏が読めない頼忠に心配されて、花梨は少し赤くなる。

「やだなあ、みんな。大丈夫ですよ。私結構丈夫なんですから。」

「貴女は明るく、常にお元気ですがそれでも華奢な女性には違いありません。貴女がお倒れになるようなことがあれば、私は・・・・」

「頼忠さん・・・・」

・・・・なにやら思いっきり面白くない展開になってきた雰囲気を嗅ぎ取って、勝真は二人の間に割ってはいるように座って言った。

「そう言えばさっきは何を騒いでたんだ?ずるい、とかなんとか。」

「え?あ、聞こえちゃったんですか。」

「ああ。しっかりな。お前は声がでかいんだよ。」

ともすれば悪口にも聞こえそうな言葉を、微笑み混じりに言って勝真はいつものごとくくしゃっと花梨の頭を撫でた。

花梨ももう、そんなふれ合い方に慣れてきたのか気持ちよさそうに目を細める。

そんな行動は逆立ちしてもできない頼忠は、冷たぁい視線で勝真を牽制して座った。

「それでずるいとは何のことなのです?」

さっきの勝真と同じパターンの応用。

やっぱり仲が悪いとはいえ天地青龍。

意外に本質は似ているのかもしれない(などと言ったら刺されそうだが)

しかしそんな事は気にしていない花梨は気まずそうに視線をさまよわせる。

「う〜んと・・・・その・・・・」

「なんだよ?言いにくいようなことなのか?」

「言いにくいって言うか・・・・」

困った花梨は紫に目を向けて見たものの、彼女は楽しそうに扇で口元を押さえて笑っている。

紫のフォローは諦めざるおえなくなった花梨は、一つため息をついた。

「・・・・笑わない?」

そう言って上目遣いに見られて、勝真と頼忠は一瞬うっと息を詰める。

くるくると表情を変える可愛らしい大きな瞳に、こんな風に見上げられたらたまったものではない。

最近己の気持ちを自覚しつつある2人としては・・・・なんというか、ぎゅっと抱きしめたくなったりするわけで・・・・

慌てて煩悩を振り払うように2人は頭をふる。

「どうしたんですか?」

「き、気にするな!」

「そうです。笑いませんので、どうぞお先をお続け下さい。」

明らかに不審な2人の行動は気になったらしいが、ともかく花梨は話を進めることにした。

「その・・・・八葉の人ってずるいなあって・・・・」

「「は?」」

ずるい、といわれた八葉の筆頭である2人は目を丸くした。

「俺たちがずるい?」

「何かお気に召さぬ事でもしてしまいましたでしょうか?」

「ううん!そう言う意味じゃないの。」

ぶんぶんと手を振って力一杯否定する花梨に、ますます2人は眉を寄せる。

誰がなんと言おうとも花梨は龍神の神子なのだ。

その神子がいなければ存在する意味がない八葉の、何をうらやましがるというのだろう。

「別の世界に連れて行かれたりしないから、か?」

そのぐらいしか思いつかなくて、一応言ってみたのだが花梨首をふる。

「違いますよ〜。だって八葉のみなさんのほうは自分の世界が危ないんですから。その方がよっぽど大変じゃないですか。」

「んー、まあ、なあ・・・・」

「では何なのですか?」

「う〜んと、ねえ・・・・」

うなった後、花梨が言った言葉は勝真と頼忠にますます目を丸くさせるに充分なものだった。










「だって、八葉の人たちはカッコイイ決めゼリフがあるじゃないですか!」










「「は?????」」

ぐっと拳を握る花梨は2人はまじまじと凝視してしまった。

「き、決めぜりふ?」

「そうです!だって勝真さんは神鳴縛使った時に『覚悟を決めな くらえ神鳴縛!』っていうでしょ?頼忠さんは風破斬使った時『穢れし気をここに断ち切らん 風破斬!』って言うし。」

「いや、あのなあ。それは・・・・」

「ずるいですよ!みんなカッコよく術を決めちゃって。」

「あの、花梨殿・・・・」

「いいですよね〜。みんながビシッと決めている後ろで私はぼーっと見てるだけなんだもん。私だってカッコイイ決めゼリフが欲しい!!」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

どうやら言ってしまった事で一気に不満が流れ出したらしい花梨の前に青龍コンビは沈黙して、お互い無言で視線を交わす。

だってなんと言えばいいのだろう?

ほとんど無意識で言っているのだし、だいたい羨ましがられても「はい、そうですか」とやれるものではない。

それに鈴を振るような花梨の声で『覚悟を決めな』とか『穢れし気をここに断ち切らん』とか叫んでいる場面など見たくないし・・・・。

はあああ、とため息をついた2人の青年を横目に花梨はぱっと顔を輝かせて言ったのだった。

「あ!イサトくんの炎気浄化の『浄化の炎よ 焼き祓え!』とかいいな!!」











―― 花梨のこの不満は、封印が使えるようになるまで続いて八葉&紫姫を困らせたという。




















                                                    〜 終 〜






― あとがき ―
久々のギャグでしたv
ネタがあればギャグを書くのは楽しいです。
微妙に天地青龍のVS関係が見え隠れしているのがポイント(笑)
でもあの決めゼリフって気になりません?
私はイサトくんの業火滅消の『紅蓮の炎で成仏しろよ!』がお気に入り(笑)
後は四神召還の台詞とか。
頻繁に聞くだけあって、頭にこびりついていたりするのが笑えます。