包み込むように
―― この世界で初めて出会った人は、ぶっきらぼうで ・・・・あったかい人だった 「勝真さん!勝真さんってば!!」 少し息を切らせながらの花梨の呼びかけに、前を歩いていた勝真は立ち止まって振り返った。 「何だ?」 「何だじゃないです。早いんですってば。」 花梨の抗議に勝真は、あっと呟いて困った顔をする。 「悪い。」 「いえ、別にいいんですけど・・・・」 こういうやりとりをするのは何度目だろう、と思って花梨はため息をついてしまった。 青龍の呪詛を探すために今日は二人で紫姫の館を出てきたのだが、どうもコンパスの違いのせいで花梨が置いて行かれそうになることが数回。 そのたび、花梨に抗議された勝真はバツが悪そうに頭をかいた。 「あー、もう、俺は女と歩き慣れてないんだよ。」 その仕草がいかにも「困ってます」と物語っていて花梨はくすっと笑ってしまう。 途端に睨み返してくるするどい視線。 「おまえ、なあ・・・・」 「ご、ごめんなさい。」 謝っているわりには笑顔な花梨の頭を勝真はぺけっと叩く。 「笑ってると置いてくぞ!」 「あ、ごめんなさってば!」 一歩先を歩き出してしまった勝真を花梨は慌てて追いかける。 ・・・・でも花梨にはわかっている。 こんなふうに突き放した仕草は照れ隠しなのを。 前を歩きながら、それでも一生懸命後ろからくる花梨にもちゃんと気を配っている事を。 勝真が本当はとても優しいって事を。 (本当に『お兄ちゃん』みたい。・・・・きっと勝真さんも『妹』みたいに思って私の事、心配してくれてるんだろうなあ。) ちくっと胸が痛んだ。 その意味も花梨はわかっている。 ―― 勝真の事を『お兄ちゃん』を思う以上に、大好きだから なんだかんだ言いながら、花梨の面倒を見てくれたのは勝真だった。 龍神の神子の話は最初は信じてくれなかったけれど、それでも花梨を放り出したりしなかった。 右も左もわからない京の街をしかたなさそうにでも案内してくれたのは勝真だけで、だからいつの間にかめいっぱい頼っていて。 そして今は八葉として守ってくれる。 (いつか・・・・いつか言えるといいな。) 前を行く勝真の背中を見つめながら花梨が心の中でそう呟いた時、勝真がくるっと振り返った。 「ほら。」 そう言って差し出されたのは、勝真の右手。 「え?」 きょとんっと聞き返されて勝真は苦笑して言った。 「そうやって後ろからちょこまかついてくるんじゃ距離がつかめないだろ? だから、隣を歩け。」 どきっと心臓が跳ねた。 そして半分自動的にうるさくなる鼓動に苦笑する。 (別に勝真さんは特別な意味で言ったんじゃないのに・・・・) 心の端っこでそれを残念に思っている自分がいる事は無視しておく事にする。 そんな花梨の心の中を知らない勝真は訝しげに花梨を覗き込んだ。 「なんだよ、いらないなら・・・・」 「いる!いります!!」 引っ込められそうになった手が花梨の声で止まる。 その大きな手に、少しためらった後花梨は手を伸ばす。 勝真の手に自分の手が重なる直前、花梨は1つだけ決意する。 (いつか・・・・いつか絶対言うんだ!勝真さんが大好きって!) 「えい!」 「うわ!?」 手を重ねるとばかり思っていた花梨に、勢いよく腕に飛びつかれて勝真は少しバランスを崩しかけて驚いた声をあげる。 しかしそれは一瞬で、勝真は黙って腕を貸してくれる。 それがなんだかくすぐったくて、嬉しくて口元が勝手に緩んでしまう花梨に半ば呆れたように勝真が笑った。 「何にやにやしてんだ?」 「へへ、内緒〜。」 「はあ?」 「内緒。そのうち・・・・絶対、教えます。」 ぎゅっと勝真の腕を掴んで少し俯いてしまった花梨は見損ねてしまった。 ・・・・勝真が何か言いたげに目を細めて花梨を見つめた事を。 次に花梨が勝真を見上げた時には勝真はそんな表情は消してしまっていて、花梨の前髪をくしゃっとかき混ぜて言った。 「そのうち、な?」 「はい!」 額に触れる勝真の手の体温に、花梨はふんわり微笑んだ・・・・ ―― この世界で初めて出会った人は、ぶっきらぼうであったかい・・・・ 今は一番大好きな人♪ 〜 終 〜 |