Talk While Asleep




勝真はなんとも複雑な顔で腕の中を見下ろしていた。

見下ろしている先、勝真の腕の中にいる高倉花梨は、なんとも満足そうな笑顔で勝真の膝の上に収まっている。

「なあ、花梨・・・・」

「なんですか?」

「・・・・いや、やっぱりいい。」

がくっと力の抜けた答えを返して勝真は何度目かのため息をついた。

さっきから何回このパターンで挫折したことだろう。

(そもそも、なんでこんなことになったんだ・・・・)

どうしようもなくなった勝真はこの事態の原因まで遡ることにしたらしい。












―― 事の起こりは一時ほど前。

今日も龍神の神子である花梨が出かけるのならば一緒に出かけようと思い、この館にやって来た。

一月半ほど前、羅城門跡でうろうろしていた花梨を拾った助けた時は彼女を龍神の神子だとは信じられずにいたが、段々と力を得ていく花梨を側で見守りながら勝真は彼女を神子だと認めていた。

もっとも今では神子という以上に高倉花梨という少女自身を気に入って彼女を護りたい気持ちの方が先に立っている。

自由で無鉄砲な花梨を一番側で護るのが自分でありたい・・・・その気持ちをなんと呼ぶか、わからないほど勝真は子どもではない。

だからなるべく早く館へ来て、その日の同行を求めるのが勝真の日課になっていた。

しかし今日、応対に出てきた紫姫は表情を曇らせて言ったのだ。

「本日は神子様が体調を崩されているようなので、お休みして頂くことにしましたの。」

「なんだって!?調子が悪いのか、あいつ。」

「はい。神子様ご自身はそれほどでもないとおっしゃるのですが、顔色もあまりよくありませんでしたのでお願いして休んで頂きました。」

はあ、とため息をつく紫姫の姿にきっと「大丈夫」「大丈夫ではありません!」とさんざん押し問答をしたであろう形跡を見て取って勝真は苦笑した。

花梨は人の事は敏感に気がついて心配してくるくせに、自分のこととなるとまったくと言っていいほど無頓着なのだ。

しかも変なところで頑固としているから始末に悪い。

・・・・まあ、そんなところも気に入っているのだが。

「会えるか?」

「少しでしたらかまいませんわ。どうぞ。」

そう言って紫姫が通してくれた部屋で花梨は布団に横になっていた。

「勝真さん!?」

勝真の姿を見てびっくりしたように起き上がろうとする花梨を手で制して、勝真はその枕元に腰をおろした。。

「よお。調子が悪いんだってな。大丈夫か?」

「はあ。別にそんなたいしたことじゃないんですよ?でもちょっとだるいかな、っていったら紫姫が・・・・」

「お前の『たいしたことない』と『ちょっと』ぐらいあてにならないものはないからな。」

その言葉に不満そうに口をとがらせる花梨の額に勝真は手を置いた。

「少し熱い、か。大人しくしてろ。きっと疲れがでたんだろ。」

別の世界から来たという花梨にとってこの京での生活はそれなりに大変なものなはずだ。

そんな中で怨霊だなんだとやっていたのだから、ここまで倒れなかったのが不思議なほどだ。

勝真は少しだけ前髪を梳いて名残惜しげに手を離す。

「今日は紫姫の言うとおり一日寝ているんだな。」

「で、でもこんなに早くから眠れませんよ〜。」

「我慢してろ。そうだ、お前なにか欲しい物あるか?俺に都合出来るものならもってきてやるぜ?」

「ええ!?そんな悪いですよ!」

「いいんだ。いつも頑張ってる褒美ってとこだな。だから遠慮無く言え。」

「言えって言われても・・・・う〜ん・・・・」

考え込んでしまった花梨に勝真は笑った。

「何かあるだろ。甘い物とか、暖かい物とか。」

前に泉水からもらったという甘い物を喜んで食べていた花梨を思い出して言ってみたのだが、花梨はますます考え込んでしまった。

そして、ややあって花梨は顔をあげると言った。

「じゃあ・・・・1つだけお願いがあるんですけど・・・・」

「ん?なんだ?言ってみろ。」

「あのですね・・・・」












―― というわけで、この状態である。

(だいたい誰が惚れた女に見上げられて『勝真さんに抱っこしてほしいんですけど』とか言われて断れるんだ!?)

たとえそれが蛇の生殺し、余計な期待感の嵐を呼ぼうとも。

「やっぱり暖かい♪前に伏見稲荷でこうやってもらった時もすごく暖かかったから。」

「・・・・そりゃ良かったな。」

前に伏見稲荷でこうやって抱きしめたのは、ほんの少しでいいから気持ちをくみ取ってもらいたかったのだが、やっぱりこの天然少女には通じてなかったらしい。

(それにしても、軽いよな。こいつ・・・・)

膝の上に乗った体は頼りないほど軽く感じる。

安心しきって預けられている背中も妙に小さくて・・・・こんな体でよくあんなに強い五行の力を使っているものだと感心してしまう。

それに・・・・

(いい匂いが・・・・する)

さっきから気になってしょうがない少女の香り。

柔らかい梅香の香に混じって、花梨自身の匂いがしてそれをもっと感じたくて短い髪に顔を埋めてしまいたくなる衝動に勝真はため息をついた。

(まったく、もう少し警戒してくれれば手の出しようもあったんだが。)

ここまで無邪気に身を預けられてしまったら手を出せるわけがない。

調子が悪くて気が弱くなっている花梨に、もう離れてくれとも言えず再度勝真がため息をつこうとした、その時

ほんの少し、花梨の体が重くなった。

「?」

不思議に思って覗き込んでみれば、腕の中の少女はすっかり気持ちよさそうな寝息をたてていた。

「・・・・本気で、少しは警戒しろよ・・・・」

恨み言を言ってみても相手はすでに夢の中。

しかし穏やかな花梨の寝顔を見ていると、なんだか他の事はどうでもよくなって勝真は彼女を起こさないように抱え直すと小さく囁いた。










「お前を・・・・誰より愛しく思ってる。」

「ん・・・・・・・・私も・・・・・・・かつ・・・・ねさんが・・・・・好き・・・・・・」










(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?)

危うく花梨を落としそうになって勝真は慌てて、抱え直した。

そして起きていないか確かめてみるが、いまだに花梨は眠っている。

(聞き違いか・・・・?)

しかし今聞いた響きはしっかり耳に焼き付いている。

なによりうるさいぐらいの鼓動が確かに今の言葉を聞いたことを証明していた。

・・・・それに聞き違いだと思いたくなかった。

嬉しくて、信じられなくて、止めようとしてもこぼれてくる笑みをもてあましながら勝真は花梨を抱きしめる腕に少し力を入れる。

(早く起きてくれ。)

そうしたら確かめてみたい。

あの言葉は本当なのか。

寝顔に囁いたのと同じ言葉を起きている彼女に伝えたら、同じ言葉を返してくれるかを。

(それまで大人しく待ってるから、早く起きてくれよ・・・・)

暖かい体を自分の物だとばかりに抱き込んで、勝真は花梨の額に口付けを1つ落とした。










勝真の腕の中で、眠り姫が少し微笑んだ・・・・















                                                      〜 終 〜






― あとがき ―
久々に満足なできでした♪
・・・・でも、これってもしや『貴方の知らない約束』とネタ的にはかぶってる・・・?(汗)
あ〜っと、その、ラブラブヴァージョンって事で(苦しい・汗)
通算何回目かの「遙か2」プレイでアクラムと勝真を一緒に落としてみたところ、もうもう勝真さんが格好よくって(><)
そんなわけで勝真熱再発して一気に書き上げたのがこのお話でした。
というわけで愛はばっちり詰まってますvv

ちなみに題名は「寝言を言う」という意味。
とんでもない寝言を言っちゃったものです(笑)