shine











―― この世界に来て最初に気に入ったのは、朝日だったと思う










東の空が朝焼けにそまって、太陽が登る気配を感じさせる薄明かりの中、花梨は館の庭に一人で立っていた。

太陽そのものが放つ光ではなく、間接的な光に包み込まれるのがこんなに気持ちいいことを知ったのはつい最近。

そう。

2週間ほど前、この京という世界へ降りた時からだ。

「・・・・嘘みたい・・・・」

今でもそう思う時がある。

2週間前、確かに自分がいたのは科学技術の発達した21世紀だったはずで、自分はただの女子校生だったのに。

今自分が足をつけている大地は歴史の授業で暗記した平安時代に酷似した世界。

そして自分は、龍神の神子と呼ばれてる。

案外、この世界に来て最初に思った事が間違いじゃなく、これは自分の見ている夢なんじゃないかと思ったりもする。

「でも・・・・夢だったら、結構きつい夢だよね。」

言葉ほどは辛さを感じさせない声で呟いて花梨は苦笑をした。

だってこの世界には花梨を知っている人はいない。

それに龍神の神子だと信じてくれる人も少ない。

龍神の神子に仕える立場らしい星の一族という深苑ですら、花梨を認めないのだから考えてみれば他の人に信じろというのも無理な話かもしれないが。

でもひたすらに花梨を信じて慕ってくる紫姫のために、逃げ出すわけにもいかない。

(まあ、逃げるって言ったって、どこへも行けないけど、ね。)

自嘲気味に花梨が苦笑を浮かべたその時、頬に柔らかい感触を覚えて花梨は首を横に向けた。

そして黄緑色の固まりに目を止めてくすっと笑った。

「こだま。」

「ぴぃ」

京へやって来た時からなぜか花梨にくっついている小鳥はちょこんと花梨の肩にとまって小さくさえずった。

八葉にも星の一族にも見えないらしい(泰継だけはこだまが肩にとまった時に一瞬顔をしかめたような気もするが)不思議な小鳥は存在を主張するかのように、花梨の頬に体をすりつける。

「慰めてくれてる?ありがと。こだまは柔らかいね〜。」

そう言って指を差し出せばすぐに意図を察してこだまは飛び移ってくる。

そしてゆっくりと空にむかって手を伸ばせば、こだまは羽音もたてずに朝日の中に飛び立つ。

こだまの向こうに見える空は、紫紺と朱、まばゆいばかりの光が一刻も留まることなく混ざり合い、互いにうち消しながら夜から昼へと変貌しようとしていた。

朝がこんなに綺麗なものだなんて知らなかった。

(だいたいこんな時間は多分まだ寝てたし。)

京に来てすぐに時計を見るのをやめてしまったからもうわからないけれど、大分早朝であることは確かだ。

現代にいた時はまだ夢の中で、もう1時間ぐらいしてから慌てて布団から飛び起きてただろう。

(でももし起きたとしても、こっちの世界ほど綺麗じゃないかな。)

あの世界ではこれほどの空は見られないかもしれない。

こんな・・・・神様がいるような朝焼けは。

だから ――

空を旋回するこだまをしばらく見ていた花梨は、大きく伸びをした。

そして胸一杯に朝に空気を吸い込んでから、こだまを呼び寄せる。

再び指に降りてきたこだまに額を寄せて、花梨は少し笑うと言った。










「この朝焼けを見られるだけで、こっちに来た価値あったよね。だから・・・・がんばる。」










この朝焼けを明日も見られるように。

京を護る実感も覚悟もまだ全然つかなくて、怨霊と戦うのもまだ怖くてしょうがないけど、明日も朝焼けを見られるように負けない。

「さあて、今日もがんばろー!」

勢いよくこだまを空に投げ上げて、花梨は自分の部屋に向かって歩き出した。

―― 先の見えない戦いを続けるために・・・・














                                                     〜 終 〜







― いいわけ(大汗) ―
う〜〜〜〜〜ん〜〜〜〜〜、これはなんでしょう(- -;)
ふと思いついた花梨ちゃんのお話、としか言いようがないんですけど、花梨ちゃんのお話です。
花梨ちゃんってかなり精神的にもきついことしてるはずなのに、なんであんなに穏やかにできるかなあ、と思いません?
私だったら深苑の物言いとか、八葉の勝手な言い分とかに絶対切れてますよ(心狭っ・汗)
しかもまったく馴染みのない世界をいきなり救え、とか言われてもねえ?
そんなわけで、ちょっと彼女だけの時間と彼女しか知らない決意みたいなものを書いてみました。
・・・・実はこだまを書きたかっただけでは?という質問は受け付けません(- -;)