ぷれぜんと・ふぉー



じいいっと脇から見上げてくる視線に居心地悪そうに泰継は読みかけだった書物を置いた。

「どうかしたのか?神子。」

問いかけられた龍神の神子こと、高倉花梨は彼の読書を邪魔してしまったことを小さくわびる。

「ごめんなさい、邪魔しちゃいました?」

「いや、元はといえば神子を置いて書など読んでいる私が悪いのだから構わない。」

「でも私が読んでもいいって言ったんだし・・・・」

言いかける花梨を遮るように泰継は首をふった。

今日は花梨の物忌みの日なのだ。

にもかかわらず出がけに安倍家の要人から渡された書物をいくら花梨の許可があったと言えど、読みふけっていた自分が悪いのだ(もちろん、泰継の感覚で)

「どうかしたのか?どこか不具合でも?」

四神を無事呪詛から解放し、四方の札を集めるまでになった花梨は以前よりずっと物忌みの影響を受けやすくなっている。

だから何かあったのか、と思ったのだが花梨の方が慌てて首を振った。

「いいえ!そんななんでもないんです!」

「そうか?」

「はい。だから泰継さんはどうぞ続きを読んでいてください。」

「・・・・わかった。」

どうも釈然としないものを感じたものの、花梨が言う事であればなんとなく素直に聞いてしまう泰継は大人しく目を書物に戻した。

―― が、残念ながら目の動きと意識はイコールにはならなかった。

なんせ書物に目を戻した途端、花梨が再びじいいいっと見つめてくるのだ。

別に気にしなければいい、といくら自分に言い聞かせてみてもこればかりは無駄だった。

いや、別に花梨に見られるのが嫌なわけではないのだ。

真っ直ぐに自分に向けられる花梨の視線は、いつも伺うように見られる視線ばかりになれていた泰継にとっては心地いいものですらある。

なのに最近どうも花梨に見つめられると、にわかに胸のあたりが落ち着かなくなってくる。

胸の奥が暖かくて、見つめられているということが嬉しいような気がするのに、それでいてあまり見ていて欲しくないような気分。

この感情につける名前を泰継はまだ知らない。

だから結局書を閉じてこの気分の元に向き直った。

「神子、なぜそのように私を見ているのだ?」

「え?う〜んと、その・・・・」

困ったように花梨は視線を彷徨わせた。

その頬が少し赤い。

(言いにくい事なのか?)

花梨の様子から一番考えつく結論をとりあえず泰継は言ってみる。

「私が珍しいか?」

「え?」

「私は作られた者だから、神子にとっては珍しいから観察しているのか?」

口に出してしまってから泰継はそのことを後悔した。

もし花梨が頷いたら・・・・。

しかし幸いな事に、花梨は身振り付きで思いっ切り否定してくれた。

「そんなことじゃないです!!だいたい泰継さんは普通の人と一緒だよ!・・・・あ、う〜ん、普通じゃないけど・・・・でもそれはそう言う意味じゃなくて!えーっと」

「神子、落ち着け。」

一生懸命泰継が抱いた不安を払拭しようと頑張ってくれる事を嬉しく思いながら、泰継は話を進めるために花梨をなだめた。

「お前が珍しいから私を見ているのでない事はわかった。・・・・ではなんのために見ていたのだ?」

「えーっとそれはその・・・・」

さっき同様口ごもった花梨だが、今度は変な誤解をさせてはいけないと理由を言うことにしたらしい。

さっきよりさらに赤くなって花梨は白状した。






「あの、泰継さんの目ってとっても綺麗だなって思って。」






「私の目が?」

「そうです。左右で色が違ってて、どっちも綺麗なオレンジと緑だし。」

泰継は首を傾げた。

「確かに色は左右で違うが、お前の言うように美しいものではないぞ?」

「そんなことないです!すごく綺麗で、宝石みたいで・・・・」

うっとりと見上げてくる視線に泰継はますますわからなくなる。

美しいというのなら今目の前にある花梨の瞳の方が比べものにならないほど美しいと思うからだ。

一対の翡翠色の瞳は常に生き生きとしてその瞳に映ることに喜びすら感じさせてしまう。

そんな瞳には生を受けてからこの方であったことがなかった。

だから泰継にとっては至上の瞳を持つ花梨が作り物の自分の瞳を羨むなどおかしなことにしか思えなかったのだ。

しかし花梨が羨むのであればできるだけ彼女の望みを叶えてやりたい。

「では神子・・・・」

呟いて花梨の頬を掬った。

そしてきょとんとしている深緑の瞳を見つめて言った。






「私の瞳はお前にやろう。」






「え???」

こぼれそうなぐらいに花梨の目が見開かれる。

「残念だがこの目がないと八葉の任がこなせないので出すわけにはいかないが、いつでも好きなときに見ればいい。」

「あ、そ、そういう意味・・・・ああ、びっくりしたあ〜」

花梨は脱力したように肩を落とす。

しかしすぐに何か思いついたように悪戯っぽく笑って言った。

「でもそれじゃあ私が何かを見ないでって言ったら、その通りにしちゃうんですか?」

「構わない。」

「だってそれじゃ困るでしょ?」

「別に困らない。」

本当に?と首を傾げる花梨に泰継はあっさり言った。

「今見えなくなって困るものは神子だけだ。だから目が神子のものになるのなら別に困ることなどない。」

「・・・・・・・・・泰継さん、それわざと言ってます?」

「?そう思っただけだが?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜もう、いいです。泰継さんの瞳は私がもらっちゃいますよ!」

なぜか真っ赤になって宣言する花梨に泰継は微笑んで頷いた。






―― 後日、この話を花梨から聞いた翡翠から「泰継殿もなかなかやるねえ」などと言われて、意味がわからない泰継は首を傾げたとか。











                                       〜 終 〜






― あとがき ―
あう、またもあほな創作を・・・・(- -;)
いやあ、泰明さんのときも思ったけど左右異色の瞳って綺麗ですよねv
泰継さんは泰明さんよりは色がこい瞳をしてますけどいいなあ、なんて思ってしまって・・・・
気がついたらこんなあほな創作を(汗)
しかもこれが初泰継×花梨創作。
愛はあるんですけどねぇ。