「おはよう」の代わりに
花梨の朝は時々衝撃と共に始まることがある。 ―― どうやら今朝もそんな朝らしい。 本来は花梨はさほど早起きの方ではない。 元の世界にいた時は遅刻の常習犯だったし、龍神の神子として京(こちらの世界)に呼ばれて行動していたときも寝起きの悪さで紫姫を困らせて深苑にお小言くらったほどだった。 それが京を救ってからこちら、そうもいかなくなっていた。 というのは、京の存亡の危機を救いさらに院と帝という対立関係まで緩和させてしまった花梨は名実共に立派な救世主であり、それが無事に新年を迎えられた京の行事と重なって宴だ、祭事だと引っ張り回される毎日になってしまったのである。 当然宮廷行事に遅刻するわけにもいかない。 そんなわけで眠い目をこすりつつ毎朝早朝に起きていた花梨だったのだが、ありがたい事に今日はなんの行事も無かった。 と、いうわけで今日こそは朝寝坊〜〜、と決めてかかって布団に潜り込んでいた花梨はふと何かの気配を感じて目を覚ました。 目を開けた途端に飛び込んできたのは、朝の光と・・・・眩しい緋色。 「???」 一瞬目を細めた花梨が緋色の正体を見極めようと目をこすった時、楽しげな声が耳を打った。 「やっと起きたぜ。おせえぞ、花梨。」 ぱかっと本当に音がするんじゃないかと思わせるほどのスピードで花梨は目を開けた。 そして目の前にうつぶせのまま肩肘を付いて自分を見ている人物にぎょっとして声をあげた。 「イサトくん!?」 「おう。」 何がそんなに嬉しいのか、妙に上機嫌で彼はにっこり笑って答えてくれた。 答えてくれた、がそんな事は花梨のパニックを助けるたしにもならない。 「え?え?なんでイサトくんがいるの???」 (昨日はちゃんと着替えて、お布団に入って寝たはずで・・・・確か一人だったと思うんだけど。) まあ、仮にもしイサトと一緒に眠っていたとしても別に責めろものはとくにいないのだが。 なんせ花梨とイサトは先の京の危機を救う戦いのなかで心を通わせた、恋人同士というやつなのだから。 最初に京に降り立った時戸惑っているところを助けてもらって以来、花梨はイサトの事を一番頼りにしていたし、イサトはイサトで自分の世界でもないこの京のために頑張る花梨の事を好ましいと思っていた。 だからそんな2人の淡い想いが恋に変わったとて誰も不思議には思わなかった(悔しがった者は多々いるが) しかし、誰に責められなくとも今いる状況は花梨にとって覚えのないものなのだ。 頭の中を疑問符の嵐に襲われながら必死に昨日の行動を思い出そうとしている花梨の前髪を、イサトは無造作に梳いた。 「ひゃあっ」 いきなりの事に思わず変な声を出してしまうと、途端にいぶかしげな抗議が返ってくる。 「なんだよ?」 「だって・・・・あ〜うー・・・・やっぱりなんでもないです。」 いきなり触るんだもん、と抗議しかけてやめたのは以前に同じ抗議をして理由を聞かれ『いきなり触られると心の準備がないからドキドキしちゃうでしょ!』と言った所、とろけるような笑顔で『お前ってほんとに可愛いよな』などと、まったくとりあってもらえなかった事を思い出したせいだ。 そんな花梨を見て何を思ったか、イサトは髪から手を離すと笑って言った。 「お前、寝起きって結構くせついてんだな。」 「へ?・・・・!!!」 言われて始めて花梨は自分の姿を思い出した。 寝起き、間違いなく寝起きの姿なのだ。 髪は癖が付いていて当たり前だし、単衣のすそや襟もわずかに乱れている。 花梨は真っ赤になってもっとも手っ取り早い方法でイサトの視線から逃れようとした。 すなわち、上掛けにしていた袿を頭からかぶったのである。 「イ、イ、イサトくんの馬鹿〜〜〜〜〜」 泣きそうな声で袿の中から文句を言う花梨を見つめるイサトの視線は相変わらず優しい。 「悪かったよ。からかうつもりじゃなかったんだぜ?」 優しい口調に促されるように花梨は袿から顔だけ覗かせる。 そしてうっすら赤い頬のまま聞いた。 「呆れた?」 「・・・・バカ。呆れるわけねえじゃん。すげえ可愛いぞ、お前。」 「!」 なんのためらいもなく言われた赤面ものの台詞に花梨は再び袿の中に潜り込みそうになる。 それをとめて袿からすぽっと頭だけ出させてイサトは言った。 「今日は花梨もなんの用事もないだろ?だったら出かけようぜ。大豊神社の寒椿が綺麗なんだってさ。」 「う、うん。」 なんだかわからないが、とにかくここのところ会うこともままならなかったイサトと出かけられるのならと花梨は頷いた。 それを確認して、イサトは思い出したように 「そうだ。俺、お前に挨拶を言おうと思ってきたんだったぜ。」 と言うなりイサトは今までよりさらに優しい笑顔を浮かべて言ったのだ。 「俺は、お前が好きだよ。」 「!??!☆▽◇▽△☆☆☆!!!!」 「あ、俺がここにちゃ仕度できねえな。じゃあ、外で待ってるから仕度できたら声かけろよ?」 そう言うなり実に満足そうな顔をしたイサトはさっさと部屋を出ていってしまった。 ・・・・後に残されたのは、完熟トマト並に顔を真っ赤にした花梨のみ。 ―― 考えてもみて欲しい。 まだ、起きて10分もたっていないうちに恋人の最高の微笑みと、この上ないストレートな告白をされた気分を。 心臓はバクバクうるさいし、血がのぼった頭は真っ白だし。 夢じゃないのかと思うぐらい嬉しいはずのだが、実際は何が起こったのか理解できないほどパニックに陥っている。 なんだかもう、嬉しいのか悲しいのかまでわけかわらなくなりそうだ。 「イ、イサトくんの・・・・ばか〜〜〜〜(///)」 文句や悪口には少々力なさ過ぎるほどの弱々しい呟きを漏らして、花梨は力つきたように布団に仰向けに転がった。 「心臓に悪すぎて、早死しちゃうよ・・・・」 これまたイサトに言ったら絶対に愛しさしか呼ばないであろう抗議をする花梨にとって、どうやら今朝は衝撃的過ぎる目覚めだったようである。 〜 終 〜 |
― あとがき ―
ある意味、もっとも最悪なネタバレ創作(^^;)
だって最後の語りをネタにする奴なんて・・・・考えてみたらもっとも悪質・・・・?
うわああああ、ごめんなさいいいいいい(><)
でもでもでも、いつもあの京残留ヴァージョンの語りを見るたびに思っていたんですよ〜。
あれ本当にやられたらとんでもない朝になるだろうな〜と。
いや、実は一番好きな語りなんですけど(笑)
最後の今回でも使っている台詞を高橋さんヴォイスで言われたひにゃあPCの前でのたうち回ってますから。
というわけでやってしまいました。
どうか、非常識な奴と見捨てないで〜〜〜〜(必死)
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