似たもの同士



「勝真さん、勝真さん。」

初春の暖かい日差しの気持ちいい庭先で弓の稽古をしていた勝真は可愛らしい呼びかけに弓をつがえていた手を止めて縁の方を見やった。

勝真のいる場所からさほど遠くない縁にちょこんっと座っているのは、少し前まで愛用していた変形の狩衣ではなく若草色の袿姿の花梨。

元龍神の神子、現平勝真の妻である。

「なんだ見てたのか。」

いつの間にか見られていたという気恥ずかしさでぶっきらぼうに答えた勝真に、花梨は大きく頷いた。

「はい。女房さんがこっそり遠くから見てれば気が付かないって教えてくれました。」

「まったく、余計なことばっかり教える奴らだな。」

苦笑混じりに文句をいいつつ、勝真は弓を片手に花梨の側へ行った。

その勝真を花梨はじっと見上げる。

「なんだ?なにか付いてるか?」

「え?あ、そうじゃないんですけど・・・・」

珍しく歯切れが悪く否定して花梨はちょっとうつむいてしまった。

「花梨?」

いぶかしんだのは勝真のほうだ。

名前を呼んでも顔を上げようとしない花梨を、勝真は腰をかがめて覗き込む。

その途端、花梨が弾かれたようにばっと後ずさった。

「・・・・おい・・・・」

「あ〜・・・う〜・・・・ごめんなさい。」

完全に困った顔をして花梨はほっぺたを押さえてやっぱりうつむいてしまう。

当然、そんな反応に勝真が黙っていられるはずもなく・・・・

「花梨。俺が何かしたのか?」

「ち、ちがいます!そうじゃないんだけど・・・・」

言い淀んだ花梨との距離を一歩詰めて迫力を付け加えることを忘れずに、一言。

「花梨?」

「う〜・・・・・・言います、言いますよぅ。」

追いつめられた形になった花梨に勝ち目があるわけがなく、真っ赤な顔で蚊の鳴くような声で白状した。










「だって勝真さん・・・・全然私に気づいてくれないから・・・・」











「・・・・・・まさか、妬いたのか?」

ずばっと言いにくい本音を射された花梨はばっと顔を朱に染めた。

「うっ、そんなんじゃ・・・・!」

「ない、んだったらそんな事は言わないよな?意外と嫉妬深いんだな。」

勝ち誇ったような、しかも極上の笑顔で言葉を遮られて花梨はぱくぱくと口を開けたり閉めたりして、結局そっぽを向いた。

確かに妬いてしまったのは本当だから。

こっちはドキドキしながら勝真の事をじっと見つめていたというのに、勝真の方はまるで花梨などそこにいないかのように(実際気づいていなかったのだからいないと思っていたのだろうけど)的にだけ集中していて。

だからちょっと、ほんのちょっと悔しくなっただけ。

ただそれだけなのに、こんなふうに見透かされたように言われるのはなんだかしゃくだ。

まるで自分だけが好きで仕方ないみたいな気分になってくるから。

だから、花梨は逆襲に出た。

「か、勝真さんだってそうじゃない。」

ぴくっとその言葉に勝真は反応する。

「俺が、なんだって?」

「勝真さんだって結構やきもちやきじゃないですか。」

そう言われて心外だというかのように勝真は眉を寄せる。

「俺がいつ嫉妬したっていうんだよ?」

「しましたよーだ。あれはアクラムとの最終決戦の時・・・・」

「最終決戦?龍神を呼んだ時の事か?あれがどうし・・・・・・あ」

はっとしたように勝真は口を押さえて固まってしまった。

その様子を横目でちらっと見てから花梨はさっきのお返し、とばかりに言う。

「勝真さん言ったんですよね。アクラムに『嫉妬は醜いぜ』って。でもあれってホントは・・・・」

「あー!わかった!言わなくていい!!」

慌てたように遮る勝真の頬を花梨に負けないぐらい赤くて。

花梨は弾けるように笑い出した。

「笑うな!」

「あはは、だって、勝真さんってば、真っ赤!」

「うるさい!お前だって赤いだろ!!
それにあの時はお前があの鬼とどういう関係だったか全然知らなかったんだから妬いて当然だ!せっかく八葉の連中の中を勝ち抜いたと思ったら、唐突に出てきたあの野郎にかっさらわれるなんてごめんだったからな。」

逆にすねたように勝真がそっぽを向いて一気にしゃべった台詞は花梨の笑いを引っ込めてしまった。

「そ、そんな事考えてたんですかぁ?」

呆れたような花梨の声にも勝真は答えない。

ただし、耳まで真っ赤なのが答えでないとするなら。

途端に心のそこからわき上がってきたさっきとは違うくすぐったい笑いに花梨は口元をゆるめる。

「・・・・何をにやけてるんだ。」

ちらっと横目でこっちを見て言ってくる勝真に、花梨は余裕たっぷりに笑って見せた。

「なんでもないです。」

「うそだろ。」

「ふふ、なんでもないですよ。ただ・・・・」

「ただ?」

まださっき笑われたのがきいているのか、訝しげな表情の勝真に花梨はちょいちょいっと手招きをする。

どこか警戒したように、それでも素直に庭から縁にいる花梨の方に欄干を乗り越えるようにして、寄せられた勝真の耳に花梨は内緒話をするように唇を寄せる。

「あのね・・・・」

厳かに一言発した花梨は、続きを呟くより早く勝真の頬にキスをした。

「!!!!???!」

驚いて振り返る勝真に、花梨はとびっきりの笑顔で言った。

「勝真さんが大好きだなって思っただけです!」

そう言って逃げ出そうとする花梨を勝真は欄干を乗り越えるようにして抱きしめて捕まえる。

そして花梨の耳元で小さくため息をついて囁いた。

「前言撤回だ。俺は嫉妬深い男になることにするぜ。」

「え??」

勝真の言葉に捕まっているという状況も忘れて振り返ってしまう花梨の額にすかさず軽いキスをして、勝真はにっと笑って言った。










「こんな可愛い奴、独り占めしたくなって当然だろ?」

「!!!」










某海賊も真っ青な見事なころし文句にきっちり真っ赤になって硬直してしまった花梨の唇に、勝真は勝ち誇ったように己のそれを重ねたのだった。














                                                                〜 終 〜






― あとがき ―
・・・・日に日に自分の書きたいものがわけわかめになっていく今日この頃・・・・(- -;)
もともとこのお話は東条のネオロファンとは思えぬ突っ込みに起因します。
シュチュエーションは最終決戦。
最低条件は勝真さんとアクラムを同時に落としていること。
そしてアクラムと勝真さんの会話に突入します・・・・とここでくだん突っ込みが登場します。
『嫉妬は醜いぜ、おっさん!』(by、勝真さん)
「ちょっと待てーーー!!嫉妬してんのはお前さんの方じゃないかーーーー!?」
・・・・いや、本当に口に出して突っ込んでました、東条は(- -;)
だってそう思えるんですよ〜、どうしても。
思わず私もそう思った!という素敵なネオロマファンの方募集中です(笑)