くちぐせ




「ずっと一緒にいようぜ。」



(また。)

耳元で囁かれた言葉に花梨はむっとして自分を包む腕に預けていた体重を引き剥がした。

「花梨?」

珍しい花梨の反応に腕の主 ―― 勝真は戸惑ったように聞いてくる。

(もう、今日こそは言うんだから!)

花梨は心に決めて勝真の腕の中で体を反転させると至近距離の彼の顔を見つめて言った。






「もう、なんでそんなに『ずっと一緒に』って言うんですか?」






そう、花梨がずっと気になっていた事。

それは勝真と想いを通わせてからなにかにつけて口にするようになった言葉だったのだ。

抱きしめられた時とか、口付けた時・・・・何かあるたびに口癖のように勝真は言う。

それはたぶん彼にとっては想いを伝える言葉なのだろう。

それがわかっているから、花梨は最初のうちは嬉しかった。

・・・・否、今でももちろん嬉しいのだが、今は素直に喜べない。

「なんで急にそんな事言いだしたんだ?」

何が悪いのかわからない、と言う感じで勝真が聞き返してくる。

予想済みの質問に花梨は少し頬を膨らませて言った。

「だって・・・・そんなに言われると私がいつか元の世界へ帰るんじゃないかって疑われてるみたいだから・・・・」

たちまち勝真の眉間に皺が寄る。

「疑ってなんかねーよ。」

明らかに不機嫌そうな声に、内心びくびくしつつ花梨は真っ直ぐ勝真を見据えた。

「わ、わかってます。でもそう聞こえるし・・・・それに」

「それに?」

「それに・・・・私、勝真さんの側にずっといますもん。」

普通の声より一段小さく言うなり顔が急に熱くなった気がして花梨はうつむいてしまった。

いつも勝真が『ずっと一緒に』を繰り返すのは彼がいつも心のどこかで不安に思っているような気がしてずっと気になっていたのだ。

だからどこへも行く気なんかない、と伝えようと決めた。

で、実行したのだがやっぱり面と向かってこんな事を言うのは恥ずかしいのだ。

案の定頭の上で勝真が驚いている気配がする。

(う〜、恥ずかしいよ〜・・・・でも!)

なんとか恥ずかしさを脇へ押しやって花梨は顔をあげた。

やっぱり自分の意志でちゃんと勝真の側にいるっていう事をわかって欲しかったのだ。

「そういう事なんです!だからもう言わないで欲しいんです。」

「そう言われてもなあ・・・・」

花梨の言い分はわかったものの、勝真にしてみればもうすっかり口癖になってしまっている。

それに何度繰り返しても足りないほど、彼女を想っているのだが・・・・だからこそその彼女にこんな風に言い募られてしまえば花梨の望みを叶えたいと思ってしまう。

(どうしたもんだか・・・・!)

勝真は思いついた事をそのまま採用する事にして、腕の中で返事を待っている花梨に目を落とした。

「わかったぜ。」

「え?じゃあ、もう・・・・」

ぱっと輝いた花梨の顔を両手で包んで勝真はほんのちょっと悪戯っぽい響きを込めて言った。






「一生言い続けてやる。」






「はあ?」

間抜けな返事を返してきた花梨の額に勝真は軽く口付ける。

「だから一生『ずっと一緒に』を言い続けて、よおくお前に教えこんどく。
そうしたらきっと、生まれ変わっても『ずっと一緒に』いられるぜ。」

「!」

おそらく完全に予想外であったのだろう。

自分の言葉に真っ赤になる花梨を見て勝真は笑い出した。

「勝真さん!!」

飛んできた怒った声すらこの世で一番聞き心地のいい声に思える。

(案外いい考えかもしれないな。)

思いついて口にしただけな答えだったけれど、実行する事に決める。

何度生まれ変わっても、この呑気な元神子様と『ずっと一緒に』いたいから。

(そのぐらいしとかないと、こいつ生まれ変わった途端にぼーっとしてて誰かに持っていかれそうだからな。)

本気であり得そうな可能性にちょっと勝真は顔をしかめる。

たとえ生まれ変わったあとだろうが、自分以外の男と一緒にいる花梨の姿など見たくない。

そんな事を考えて勝真はくっと笑った。

腕の中に本人がいるのにこんな事を心配している自分がおかしくなったのだ。

勝真は真面目に言った事を笑われたと思ったのか赤いぷいっとそらせた花梨の両頬を挟むと自分の方へ戻した。

「花梨。」

「・・・・・・・・・・・・・・」

むーっとしたまま口をつぐんでいる花梨を見て勝真はさっそくさっき決めた事を実行することにした。

「ずっと一緒にいようぜ。」

そう言って、勝真は可愛い抗議がくる前に花梨の唇を自分の唇で封じてしまったのだった。











                                       〜 終 〜