兄貴というポジション







「勝真さんって、お兄ちゃんみたい・・・」






「は?」

いきなり隣を歩いていた龍神の神子、高倉花梨が言った言葉に勝真は眉を寄せて花梨を見た。

京の町ではまず見かけないであろう短い髪でヘンテコな格好をした少女、花梨。

一ヶ月前に偶然羅生門跡で拾った(?)時よりは彼女が龍神の神子だと言い張る星の一族の言葉を信じる気にはなっているが、こう見るとごく普通の少女にしか見えない。

・・・・ただ勝真としては花梨が龍神の神子であるという理由以上に彼女を護りたい理由あるから半信半疑でもずっと付き合っているのだが。

「俺が、何だって?」

なおも聞き返されて花梨はちょっと赤くなった。

「だから勝真さんってお兄ちゃんみたいだな、って思ったんです!」

言い捨ててぷいっと横を向いてしまったのは聞き返すことでからかわれていると思ったのかもしれない。

しかし勝真の心中はからかうどころではなかったりする。

(『お兄ちゃんみたい』だあ?)

「俺のどこが兄貴みたいだってんだ?」

「だって・・・・」

背けていた顔を目線だけ戻して花梨は言った。

「だって勝真さん、京の事なんにもわかんなかった私に色々教えてくれたり、落ち込んでたら励ましてくれたりするし、最初に会ったときからすごく面倒見てくれるでしょ?
優しいなあ、って思ったらお兄ちゃんみたいって思えて・・・・」

とうの本人の前でこんな事を語るのが恥ずかしいのかほんのり頬を朱に染めて話す花梨の声を聞きながら勝真は思いっ切り頭を抱えたくなった。






(それじゃ・・・・兄貴じゃ困るんだよ!!)






・・・・そう、兄では困るのだ。

勝真が花梨を守る理由。

それは ―― 花梨を他の誰より大切に想っているから。

最初に出会った時からなんとなく放っておけなくて面倒見ていた少女は、いつの間にか勝真にとって唯一無二の大切な存在へと昇格していた。

根本的には脳天気で、時にほんのちょっと気が強くて、前向きな明るい花梨。

傷ついて欲しくなくて守ってやろうと思った。

気持ちのスタート地点は確かに兄のような心境だったのかもしれない。

でもそうでない事に気付くまで、あまり時間はいらなかった。

今では最初に花梨に出会った事に感謝しているほどだ。

他の誰でもない、自分が花梨をこの京で支えてきたと自信をもって言えるから。

・・・・ただ最近、そうも呑気にしていられなくなってきた。

というのは最近八葉に加わった院側の連中も花梨の魅力に気づきはじめてしまったからだったりする。

もちろん、今までだって帝側の3人の八葉がいたのだから警戒はしていたが恋敵がさらに4人増えるとなると油断していたらかっさらわれてしまうかもしれない。

だからそろそろ花梨にも自分を少しでも意識して欲しい・・・・なんて考えていた矢先にこれである。

(あー、接し方間違えたな・・・・)

まあ、励ます時にいかにも兄らしく花梨の頭をくしゃっと撫でてやったり、始終花梨をからかったっりしていたのが裏目に出たと言える。

(兄か・・・・兄ねえ)

頭の中で繰り返して、ふと花梨を見れば無邪気に自分を見上げる瞳。

勝真は苦笑してその頭をいつものごとくくしゃっと撫でた。

「わっ」

首を竦めた花梨の柔らかい髪の感触に苦笑が深まる。

(これも兄貴の特権か)

溜め息をついて勝真は言った。

「ぼけた妹で兄貴は心配が尽きねえな。」

「ぼけたって、ひどいですよ!」

言い返しても言葉ほどには思ってないらしい花梨の笑顔に「まあ、いいか。」と勝真は独りごちる。

(兄貴なら他の連中よりは一歩特別に見られてるって事だもんな。・・・・そのうち別の意味でこいつの『特別』になってやるさ。)

今はいない恋敵たちに心の中で好戦的な呟きを残して、勝真は花梨に向かって手を差し出した。

「じゃ行こうぜ、妹御殿。」

「はーい!お兄ちゃん♪」

楽しそうに答えて・・・・手の平を通り越して腕に飛びついてきた花梨の柔らかさに跳ね上がった鼓動を持て余しながら、ここまで警戒されない『兄』の地位はやっぱり悲しいかもしれない、と思ってしまった勝真だった・・・・












                                     〜 終 〜






― あとがき ―
「遙か2」の初創作!
まだ勝真さんを落としてもいないくせに、愛が有り余ってしまって所要30分で書き上げてしまった創作です(笑)
いやあ、ゲームをはじめる前はこんなに勝真さんにはまると思ってなかったんですが、最初に出会った人の
インパクトって強いです。
しかも勝真さんと花梨の関係が妙に気に入ってしまったんですよ。
そう、まさしくその関係がこの創作(笑)
ほのぼの派の東条としてはこういう関係は大好きだったりしますv