天意を知らず人に乞う 〜 遙かなるお題 46 〜
「ギャアァァァ!!」 白く清浄な光に包まれて潰れた悲鳴が響き渡る。 無意識に彼らに向けて開いていた手をぎゅっと握りしめた。 生まれてから十数年間暮らしていた場所はとても平和で断末魔なんてテレビの作り物でしか聞いた事はないけれど、きっとこれがそうなのだと思う。 光が舞い、白銀の鎖が淀んだ漆黒の存在を縛っていく。 (・・・・白龍の神子にしかできない、「封印」) この世界に来て何度その言葉を聞いただろう。 私にしかできない事があるのはとても嬉しかったし、今でもこの能力は何より助かっている。 「封印」の言ノ葉を唱えると広がる光はとても澄んでいてキラキラと綺麗だ。 最初にこの力を使った時から、側に居てくれた人達が皆その光に魅入るように感嘆のため息をこぼしている事を知っている。 龍神の、それも白龍の神子にしか許されない「封印」の力。 それは怨霊に苦しめられる人を救い、荒れてしまった龍脈を整え、そして怨霊さえも救うのだ、と。 (―― でも) ―― でも ―― この力が彼らにとっても救いであると言うならば、何故・・・・ 目の前で自分の手から放たれた光が半ば形の崩れかけた、人ではないソレを包み印の形をなす。 光の球体に包み込むように幾多の言ノ葉と力で構成されたそれは網のように広がっていき・・・・。 ―― ぎくっ、と肩が震えたのが分かった。 (ああ、また・・・・) 光の球体に飲み込まれようとする時の僅かな一瞬。 ―― ソレが手を伸ばす やめてくれと、助けてくれと言うように。 きっとそれは正面から力の源と向き合っている者にしか見えないだろう。 光の中に何があるのか、神子である自分は知り得ない。 だからその光の中には、みんなが言うように救いがあるのかもしれない。 けれど。 それならば何故、彼らは手を伸ばすのだろう。 何故、断末魔を上げるのだろう。 しかし答えを得る間などなく、光は静かにけれど確実に彼らを包み込んでいく。 優しく繭に閉じ込めるように。 静謐なる牢獄の扉を閉めるかのように。 そうして。 消えていく光に答えのない問いもまた飲み込まれていく。 神子とは神に愛された者だと言ってくれる人も居る。 でも、神子はどこまでも人間なのだ、ということも神子と呼ばれるようになって初めて知った。 人である神子に許されるのは神の力を使うことのみ。 その先がどうなるのか、神が何を思っているのか知ることは許されない。 だから光が収まった時に駆け寄ってきてくれる仲間の言葉を信じるしかないと決める。 神子は神の力を使う人間だから。 人間の言葉を信じて大切なものを護るために神の力を使うのだ、と。 収束した光の残滓を見つめて。 耳にこびり付く断末魔と向き合う少女の姿は。 ―― 美しき罰を知る神の姿と酷くよく似ていた・・・・ 〜 終 〜 |