まるで太陽に焦がれる月のように  〜遙かなるお題28〜



「ねえ、花梨。」

「ん?」

「・・・・これはちょっと、重いのだけれど。」

かなりの葛藤の末、千歳の伝えた言葉に花梨はけらけらと笑った。

そうされると合わせている背中越しに振動が伝わってきてなんともこそばゆい。

ずっと貴族の、それもどこか人とは違う能力をもった娘として家族からも一線おかれて育ってきた千歳にとってこんなに近い距離に人がいるのは初めての事で酷く新鮮だった。

だけど背中越しにずしーっと体重をかけられてしまっては花梨より少し小柄な千歳としては少し重い・・・・という事での抗議だったのだが、どうも採用される見込みはないようだ。

変わらず背中に預けられている体重に小さく千歳はため息をついた。

「何か、あった?」

「ん?」

「何か・・・・辛いこととか。」

京を災悪から救ったとはいえ、龍神の神子として他の世界から召還された花梨は異邦人だ。

自由で明るい人柄で普段は感じさせる事など少ないが、辛い思いをすることも少なくはないだろう。

それに耳目を集める人間という者は、無責任な視線に晒される者だ。

現にこの世界に育った自分でさえも・・・・とそこまでで千歳は考えを打ち切った。

(しようのない事よ。)

表向きは院の元に仕えた神子とはいえ、人づてに話などいくらでも漏れる。

鬼と呼ばれる一族に荷担して災厄の一端を担ったと影で後ろ指さされていることに千歳は気がついていた。

けれど、別に自分がどういわれていても構わない、と千歳は思う。

自分はもう、「太陽」を知っているから。

「花梨?」

(私の対、私の陽(ひかり))

けして曇らせたりはしない。

いつでもその人を惹き付けてやまない笑顔でいられるように。

いつでも花梨が花梨でいられるように・・・・そのためにならなんだってしてあげるから。

―― その時、ふっと背中の重みが消えた。

(え?)

思わず振り返ろうとしたその途端、ぎゅっと抱きしめられて。

「花梨??」

「千歳、私は千歳の事、大好きだからね。」

「え?」

何を言われているのか分からずに目をしばたかせる千歳にまるで子どものように花梨はぎゅーっと抱きついて言う。

「みんな勝手なこと言うから。千歳は本当は優しくて、京の事とか苦しんでる人達の事とか一杯考えてああしたのに!」

勝手な事ばっかり言われて悔しい!とそう繰り返す花梨は、本当に悔しそうで。

(・・・・ああ)

これだから。

「花梨・・・・」

貴女は、私の陽(ひかり)なのだ、と。

「私は大丈夫よ。」

ぎゅっと抱きしめられた花梨の手に自分の手を添えて言えば、背中で花梨が首を振るのがわかった。

「私が大丈夫じゃない。千歳の事酷く言われるなんて。」

「そんな事、もののうちにもならないわ。」

太陽(あなた)が照らしてくれるのならば、いくらだって月(わたし)は輝けるのだから。

少し振り向くそぶりをみせれば、花梨は簡単に離れてくれる。

振り返ると、まだ大分不満そうな花梨の顔があって、思わず千歳は小さく吹き出した。

「ちょっ!?千歳!?」

「いえ、ごめんなさい。」

「ごめんなさいっていいながら笑わない〜!」

折角真剣に言ったのに、とぶつぶつ言う花梨を横目に、千歳は優しく笑った。

「ねえ、花梨。」

「何?」

「私、黒龍の神子でよかったわ。」

千歳の言葉に花梨が不思議そうに首をかしげる。

その顔に、色々辛い思いをしたであろう千歳への気遣いを見て取って千歳は微笑んだ。

黒龍の神子であることは辛かった。

半端な力しか持たず、時を止める事しかできず時空をゆがめて行く事が怖かった。

でも、それでも。










「貴女の対になれたもの。」











―― 目を丸くする花梨に、千歳は満足そうに笑った。











                                           〜 終 〜
















― ひとこと ―
百合じゃありません!(・・・・おい)