藤に誓う

 

 

 

藤棚に咲き乱れる藤の花の香に包まれて私は、この下で見た愛しき笑顔を思い出す。

かつて龍神の神子と呼ばれた少女

輝く奇跡のような存在

 

 

 

神子は人形だった私に心をくれた。

感情を持って初めて見た世界はなんと光に満ち、色に溢れ美しかったことか・・・

しかしその世界においても神子は一番美しかった

華の咲くような笑み、鈴を転がすような声、何より他の者では決して持ち得ない無垢な魂・・・すべてが私を魅了した

 

 

 

お前は気付いていただろうか

おまえの笑顔を見るたびに私が目を奪われていた事に

一番近くでその笑顔を護りたいと切望していたことに・・・

 

 

 

しかし神子が選んだのは私ではなかった

 

 

 

神子は今、遠い時の向こうにいる

その傍らに神子が選んだ者が常に寄り添っているだろう。

彼の者ならば神子の笑顔を護り、幸せにするだろう。

神子に笑顔をもたらすのは私ではない。

過去も、これからも・・・

 

 

 

それでも・・・逢いたい

 

 

 

 

あの笑顔に、存在にもう一度、出逢いたい。

焦がれる想いは今も私の中に鮮やかに焼き付いている。

だから・・・

 

 

 

 

私は一房の藤に手を添えた。

ふと神子がそこにいるような錯覚を覚えて、私は微笑んだ。

「・・・神子、私は目標を見つけた。

いつかお前に言ったように陰陽の道を究めようと思う・・・そして神子のいる世界への扉を開きたい。

もう一度、神子に会うために・・・

そのために私は生きよう。

それが八葉でなくなった私の新たな存在意義だ。」

 

 

 

何年先、何十年先になるかわからない。

私が一生かけても叶わないかもしれない事。

 

 

 

それでも私は願い、やらずにはいられない。

私の心を絡めとって風のように駆け抜けていった斎姫

風を捕らえる事はできなくても、その後を追い続けるだろう・・・

 

 

 

「藤よ、もし神子の世界にも咲き誇っているなら彼女に伝えて欲しい。・・・幸せになれと。いつか必ず逢いにいく、と・・・」

私は手を添えた藤にそっと唇を寄せた・・・

 

 

                   〜 終 〜

 

 あとがき 

・・・私は何がやりたかったんでしょう・・・(汗)

東条初のモノローグ(?)です。

しかしへったくそだなあ。切ない系を目指したんですが、そうはみえませんね(泣)