早起き
ちゅんっ・・ちゅん・・・ 朝の気配を知らせる小さな鳥のさえずり声に私はぱかっと目を開けた。 でもここであわてて身動きなんかしちゃいけない。 私は私の体をしっかり抱きしめている見かけよりもずっと力強い腕の主を僅かに顔をあげただけで伺った。 ・・・よかった。起きてない。 安心したと同時に私は妙に嬉しくなってきた。 とうとう見ることができちゃった! これはやっぱりじっくり見ないと損よね。 私は再び顔を上げて安らかな表情を浮かべたその寝顔を見つめた。 細くてとっても柔らかい髪が影を落としてる綺麗なラインの頬。 形のいい唇から聞こえる定期的な寝息。 でもなんでも見透かされちゃいそうな柔らかい視線とあの長いまつげに縁取られた綺麗な瞳が閉じられているだけで、なんだか少しだけ少年っぽく見える。 そんな普段見られない顔に私は嬉しくなった。 この寝てても綺麗な人・・・友雅さんが私の旦那様なんだなあ。 今でも時々信じられないような気分になる。 だからこんな風に他の人が知らないような友雅さんの表情が見られると、ああ私友雅さんの奥さんなんだあって思えて嬉しい。 ・・・でもね、私の旦那様はちょっと意地悪。 時々私の事、子供扱いするし。 そりゃあ私なんか友雅さんからすればきっととっても子供なんだろうからしかたないかもしれないけど、そんな時は少し切ない。 それに甘い言葉で私のことからかうし。 もう、本当に歯が浮きそうな美辞麗句なんて恥ずかしいんだからね! それで私が真っ赤になるとすぐ「可愛いねえ」って。 友雅さんはからかってないっていうけど、絶対あれはからかってると思う。 いつまでたっても慣れる事なんてできないよ〜。 私は少し上目遣いに綺麗な旦那様を睨み付ける。 ・・・でも普段そんな事をすれば返ってくるはずの言葉は今はなく、返ってきたのは穏やかな寝息。 私は数秒その寝顔を睨み付けて・・・すぐに笑ってしまった。 私の旦那様はちょっと意地悪。 でもね・・・ 私はものすごく注意して体を伸ばすと友雅さんの頬にそっとキスをした。 「意地悪だけど・・・・・でもね、大好き」 小さく小さく呟いた言葉に友雅さんが少し微笑んだ気がした。 意地悪でも、背伸びしても届かないぐらい大人でも私はやっぱりこの人が大好き。 柔らかい髪も、優しい瞳も、耳あたりのすごく良い声も・・・全部! 私は元通り友雅さんの腕の中に戻るとその広い胸に頬を寄せた。 トクン・・トクン・・・ 規則正しい心臓音が友雅さんがここにいるって実感させてくれる。 こんな毎日が幸せで幸せで夢みたいだから、時々こうして確かめる。 夢じゃなく、本当に私が友雅さんの腕の中にいるって・・・ 「ふわあ・・」 私は小さく欠伸をした。 まだ早いからもう少し寝てもいいよね・・・ 私は友雅さんの暖かさに誘われて再び夢の世界へと戻っていった。 |
「・・・・・・・・・・・・」 あかねが規則正しい寝息を立て始めた直後、彼女を抱きしめていた友雅が薄く目を開いた。 そして腕の中のあかねが眠っている事を確認して完全に目を開けるとふうっと溜め息をつく。 「・・・気付かれなかったみたいだね。」 実は友雅はあかねが目を開けた時にはしっかり目が覚めていた。 ただちょっとほんの悪戯のつもりで寝たふりをしたのだが・・・ 「随分と得をしてしまったな。」 恥ずかしがり屋な彼女からの口付けと可愛らしい愛の言葉。 思い出して友雅の口元が僅かに緩む。 意地悪してしまうのは怒った顔すらも可愛く見えるからだと言ったら、彼女はまた照れて赤くなるだろうか。 あかねを自分のものにしたのだと実感できなくて、だからつい彼女のもつ表情すべてを引き出したくてからかったり甘い言葉を紡いでみたりしてしまうのだ、と言ったら・・・ 友雅はそっとあかねを起こさないように桜色の髪を梳いた。 指を滑り落ちる心地良い感触があかねの存在を確かなものだと知らしめる。 友雅はあかねのすべやかな額に唇を寄せて、それから小さく囁いた。 「愛しているよ・・・私の『奥さん』」 あかねから習った妻の呼び名を口にして友雅は少し笑った。 そしてあかねを少し引き寄せて再び目を閉じた・・・ 〜 終 〜 |
― あとがき ―
短いですが久々に甘めなテイストの友雅×あかねお届けです♪
いやあ、急にこんなお話を思いついたのはやっぱり前回の『逢魔が時〜』があまりに
可愛そうな気がしてしまったせいでしょう(^^;)
だって3ヶ月ぶりであれじゃあねえ。
というわけでこんなのを書いてみました。
でも考えてみればあかねちゃん一人称って『好きと愛してる』以来?
すごいへたくそでイメージぶち壊しにしたらすいません(- -;)
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