春の便り




―― 拝啓、お父さん、お母さん、お兄ちゃん




届くはずがないけど手紙を書きます。

私がそちらの世界からいなくなってどれくらいたつんでしょうか?

こちらの時間では私がここへ来てから1年がたちました。

心配してる・・・よね。

お父さんもお母さんも心配性だったもん。

喧嘩ばかりしてたお兄ちゃんも心配してくれてるかな。

・・・本当はね、半年前にそちらに帰るチャンスがあったんです。

でも、お母さん達が心配してるってわかっていても・・帰れなかった。

そちらの世界に持って帰れない大切なものを私はみつけちゃったから。

あのね、私のお腹には今大切な小さな命が宿ってます。

こちらの世界で出逢った大切な、大好きな人と私の赤ちゃんです。

その事がわかってから私の大切な人は毎日毎日お仕事が終わると飛んで帰ってきて、ず〜っと私の側に張り付いて心配してるのよ?

私は目を離すと何をするかわからなくて心配なんだって。

まったく、そんなにドジなんかしないのにね。

でもね、2人になると私のお腹に手をあてて嬉しそうな彼を見てると本当に残ってよかったって思えるの。

・・・お母さんやみんなの事を忘れたわけじゃないけど。

時々、月や桜やそちらの世界でみんなで見たものを見ていると涙が出そうになるけど。

それでも帰ってしまったら私はこちらの世界を思って・・・あの人を想って泣いてやっぱりみんなに心配をかけたと思うから残ったのは間違いじゃないって思っています。

だからもしこの手紙が届いたら・・・もう心配しないでね。



私は今、本当に幸せです。






―― あかね



―― 追伸

私の旦那様はね、とってもとっても素敵な人なの。

いつかお父さん達にも会わせたいなあ・・・






桜の舞い散る季節に、そんな手紙が届いた。

妹が行方不明になって1年後の事。

消印も切手もない、住所も宛名も書いていない手紙。

上質の和紙に表にただ『元宮家行き』とだけ書いてあったその手紙。

でも俺はその手紙を見たとき、なぜか妹からの手紙だって確信した。

なんでだろうな。

悪戯の可能性だってあるのに。

でもそう思ったんだ。

そしてたどたどしい筆で書かれた手紙を読んで俺は笑った。

手紙でのろけるか?まったく。

一年間心配してた俺達がバカみたいじゃないか。

旦那様とか赤ちゃんとか天然ボケで甘えん坊だったあかねには無縁な言葉だろ。

そりゃあ、旦那の心配だよ。

突っ込みながら俺はその手紙を読んだ。

そして全部読み終わってから・・・俺は目に溢れた涙を拭った。

気がつけば頬を伝って、もう幾筋も涙が零れていた。

「・・・よかった・・・」

あかねが無事で。

「・・・よかった・・・」

あかねが幸せで。

「・・・ホントに・・・よかった・・・!」

こうやってあかねの幸せな今を知ることができて。

俺は手紙を持って庭に出た。

そこには春の青空が広がっている。

眩しいぐらいの太陽が目に染みて俺は目を細めた。

きっと何処かであかねもこの空を、太陽を見てる。

だからあかねに、俺のたった一人の妹とその隣にいるであろう男に届くように俺は言った。

「幸せでいろよ。・・・そしていつか会いにこい!!」

青空に吸い込まれた声を見送って、俺は大きく伸びをした。

妹のくったくない笑顔を思い浮かべながら・・・










                               〜 終 〜






― あとがき ―
東条本領発揮のほのぼの創作〜v
なんかやっと春らしい創作が書けた気がします(^^;)
兄貴は勝手に捏造しましたが・・・。
あかねちゃんの旦那様、はあえて名前を出してません。
ついでにばれるような記述もしてないつもり。
心配性な旦那様が一体誰なのかは、みなさまのご想像にお任せしますv