感謝のシルシ






「皆様〜神子様をご存じありません?」





四神も半数を封印したある朝、いつも通り八葉全員が神を待つ控えの間にやってきた藤姫は開口一番に言った。

「ご存じありませんって、あかねちゃんいないの?」

「そうなんですわ、詩文殿。朝、おつきの女官がお部屋を覗いた時にはお休みになっておられたそうなんですが・・・」

「その後、藤姫が行ったらいなくなってたのか。」

現代コンビに状況確認をされて、あわてていた藤姫もすこし冷静さを取り戻す。

「女官が神子様のお部屋を覗いてから、私が参るまでほんのわずかだったのですが・・・」

「それならばさほど遠くまでは行っていられないのではないですか?」

常識人、鷹通の言葉に残りの八葉と藤姫は曖昧な表情で首を傾げる。

「それはどうだろうねえ。なんせ活発は姫君だから。」

「そうですね。ちょっと出かけるからとおっしゃって飛び出して、とんでもない所にいらっしゃる事も度々ですから。」

あんな所で見つかったとか、あんな事になってた事もあったとか、思わず回想してしみじみと頷きあってしまう八葉。

「でもそれが魅力でもあるんだけどね。」

友雅の呟きに全員(泰明ですら)柔らかい表情になる。

龍神の神子という尊い立場であるのだから本来ならば八葉に護られ必要以外外出しなくても、否むしろ外出しないにこしたことはない存在であるはずのあかねは、しょっちゅう八葉や藤姫に無断で飛び出していくことが多々ある。

もちろん龍神に呼ばれたとか、まあ色々理由はあるのだが八葉としては彼女がいなくなる度、心臓が潰れそうな思いをしながら大騒ぎで探す羽目になるのだ。

しかし見つかった彼女に少し上目遣いで「ごめんなさい、心配かけて・・・」としゅんっとした様子で言われた日には誰一人、きつく咎める事など出来るわけがないのだ(一時唯一咎めることのできた泰明も最近陥落してしまった・・・笑)。





結局のところ八葉も藤姫もこの活発で無鉄砲な神子様にすっかり参っているのだ。




「急いで神子を探し出さなければならないな。藤姫、心あたりはないのか?」

真っ先に我に返った(?)泰明に言われて藤姫は首をかしげる。

「・・・とくにございませんわ。以前に行かれた場所ではございませんか?」

「では手分けして探すという事だな。頼久と天真は洛東、友雅と鷹通は洛西、イノリと詩文は洛南、私と永泉は洛北に。それでいいな?」

八葉に異存があるはずがなく、全員が立ち上がった。

と、ちょうどその時───









「藤姫───────── !」

鈴を転がすような声がまだ朝の気配を残した空気を振るわした。

これから探しに行こうとしていた相手の声にみんなあわてて庭を振り返る。




──そして思わず目を細める。




庭の奥の方から自分の走るのが遅いとばかりに一生懸命少女がはしってくる。

その両手一杯に朝日を受けて金色に輝く花。

嬉しくて嬉しくてしょうがないという様子でこちらに真っ直ぐに駆け寄ってくるあかねの姿に、それが自分だけに向けられたものでないとわかっていながら全員が軽い目眩を起こす。

・・・何故これ程までに魅了されるのか。

そう思わずにはいられないほど、あかねは人の心を捕らえる。

微笑みが、清らかな魂が、肝心な所はけして譲らない意志の強さが、否、ほんの少しの仕草でさえも彼等を捕らえて離さない。

すっかり八葉の面々が見惚れている事に気付いているのか、いないのか、あかねは息を切らせて藤姫の元へ辿り着いた。






「藤姫、見て見て!綺麗でしょ?」

「まあ、山吹ですわね?こんなに沢山・・・神子様、これをどこで?」

あかねの抱える沢山の見事な山吹に藤姫も目を輝かせて聞いた。

「朝、あんまり良いお天気だったからちょっと庭に出て散歩してたら沢山咲いててね、庭師のおじいさんに『綺麗ですね』って言ったら切ってくれたの。」

ちょっと得意そうに言うあかねに藤姫は目を丸くする。

「では神子様、朝いらっしゃらなかったのは・・・」

「ごめんなさい、すぐ戻るつもりだったんだけど、庭師のおじいさんが折角切ってくれるって言うから待ってたの。 心配かけちゃった?」

いつものように少し上目遣いに見上げてくるあかねに藤姫は溜め息をつく。

「心配いたしましたけど、でもこのように美しい物が見られたのは嬉しゅうございます。本当に立派な山吹ですこと・・・」

「でしょ?」

また満面の笑みに戻ったあかねは花束から何本か山吹を引き抜くと藤姫の手に渡す。



そして悪戯っぽい笑顔で藤姫の白い頬に軽くキスをした。



「「「「「「「「?!」」」」」」」」

「?!み、神子様?!」

ビシッと音をたてて固まる八葉。

しかしそちらのほうは目に入っていないのか、あかねはびっくりしている藤姫に笑いかける。

「頬への接吻は私たちの世界で嬉しいときや、感謝したときにしたりするの。 藤姫、いつも心配かけてごめんね。」

「神子様・・・」

さっき驚かされた事もすっかり忘れてあかねの心づかいにすっかり感動する藤姫。






──  しかしこの後、幼い姫が言った言葉はとんでもない物だった。

「神子様、神子様のいつも心配をしているのは私だけではありませんわ。八葉の皆様もいつも神子様を気にかけていらっしゃって・・・。ですから私だけ、こんなご褒美をいただいてしまっては、申し訳ありません。どうか皆様にも。」

「えっ?!」

耳元にささやかれた言葉にあかねは思わず驚きの声を上げてしまった。

(あ〜藤姫は女の子だからいいかって勢いでやっちゃったんだけど、男性にとなると・・・)

はっきり言ってそれは恥ずかしすぎる。

しかし純粋にあかねの言ったことを信じている藤姫はお願い!という目で見つめてくる。

(う゛〜〜〜〜〜)

困ったあかねは八葉の方に目を走らせた。

そこにはさっきあかねが藤姫にキスした場面のショックから立ち直れずに固まっている男八人(笑)

(・・・しかたない。それにたしかに感謝はしてるし。)

あかねは覚悟を決めた(笑)







まずいち早くショックから立ち直りかけている友雅の所へ近づくとはいっと山吹を手に乗せて、



ちゅっ



「?!」

「友雅さん、いつも励ましてくれてありがとうございます。でも時々は真剣になってね?」

いつものプレイボーイぶりは何処へやら、すっかり顔を赤くする友雅を置いて鷹通の所へ。

山吹を渡して



ちゅっ



「!!!!!み、み、み、み、」

「鷹通さん、いつもご苦労様。でももうちょっと息をぬかないと疲れちゃうよ。」

まだ「み、み、み、」を繰り返して一向に二文字目にいけない鷹通を残して隣にいたイノリに山吹を渡すあかね。

そして



ちゅっ



「あ、あ、あかね?!」

「イノリくんもいつもありがとう。おねえさんも幸せになれるようにがんばろうね。」

未だにわたわたしているイノリから少し離れて立っている詩文の所まで行くとあかねは山吹を渡す。

でもって



ちゅっ



「/ / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /」

「詩文くん、色々大変だけど元気だそうね?私もがんばるから。」

ゆでダコといっても差し支えないほど真っ赤になった詩文のとなり僅かに逃げ腰の天真に山吹を渡すと有無を言わさず



ちゅっ



「うわっ?!」

「天真くん、蘭はきっと取り戻そうね。きっと大丈夫だよ!」

あかねの言葉に顔を赤くしながらも、「ああ」と答える天真の横、今までの光景を呆然と見ている頼久の手に山吹を持たせて髪を軽く引っ張ると



ちゅっ



「頼久さんいつも護ってくれてありがとうございます。もう木には登らないからまた墨染めに連れてってね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・はい」

あかねの可愛いおねだりと、今までの人生で一番嬉しい衝撃にすっかり直立不動になってしまった頼久を置いて、すぐ近くにいた永泉に山吹を渡し



ちゅっ



「永泉さん、いつも綺麗な笛を聞かせてくれてありがとうございます。でももうちょっと自信を持って。大丈夫だから。」

「神子・・・・ありがとうございます・・・」

あかねの言葉に半泣きになってしまった永泉に少し笑いかけてからその横の泰明に山吹を渡して



ちゅっ



「!!!!!!!!!!!!」

「泰明さん、いつも影で支えててくれてありがとうございます。私にとって泰明さんは人間だからそれを忘れないで!」

最後のおまけっとばかりに満面の笑みをあかねが八葉の面々に向ける。








と、藤姫が嬉しそうな声を上げた。

「神子様!私、良いことを思いつきましたわ。今日は散策はお休みにして、その山吹に似合う装いをしてみましょう。」

「あ、それも楽しそう!やってみようか。」

「そうですわ!・・・では皆様、失礼いたします。」

さわさわと衣擦れと鈴を転がすような笑い声があっという間に控えの間から遠くなって行った。








後に残された八葉の面々はゆうに半時は固まったまま動けずにいたとか・・・








その夜、神子からもらった山吹を押し花にする者、家族に自慢する者、そっと唇を寄せる者、枯れぬように術をかける者、八人八様であった。

しかし全員があかねの唇が掠めていった頬に手をやって同じ事を考えていた。

すなわち



『あの時あかねが他の七人と違う反応をした人間がいたか、否か』。



この問題はしばらく八葉全員の頭を悩ませ、寝不足に陥れたとか(笑)
         








                            〜 終・・・でいいのか?! 〜








― あとがき ―
ギャグじゃない!これギャグになってない(大慌て・汗)
・・・いや〜、大分前に書いた創作なんですけど、HP開設の時に「これはまずいか」と
Upを断念したものなんです、これ。
でも結局UpするならHP開設の時のどさくさ紛れにUpしときゃよかった〜〜〜〜!!
あらためてこれだけ見られるかと思うと恥ずかしすぎる(///)
これじゃ、あかねちゃんが唯のキス魔みたいだし〜〜〜(滝汗)
ご〜め〜ん〜な〜さ〜い〜。
自分でフォローできません(- -;)
お願いですからこんな東条を見捨てないで〜〜!