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神子様的ストレス解消法
「おかしいよなあ?」 「うん、僕もそう思う。」 「な、ぜってえおかしいって。」 四神も青龍、朱雀と順調に封印したある日、左大臣邸のとある部屋で顔をつきあわせて唸っているのは八葉年少組の三人。
と、そこへタイミング良く白虎、玄武コンビ+頼久がやってきた。 「何がそんなにおかしいんだい?」 「あ、友雅さん。実はおかしいって言うのはあかねちゃんのことなんですけど・・・」 「詩文殿もおかしいと思うか?」 いつもは無口な頼久もあかねの事となると黙っていられないらしく、詩文の言葉を遮る勢いで口を挟む。 「詩文もって事は、お前も心あたりあんのかよ?頼久。」 「ああ、今日は神子殿の泰明殿と共に力の具現に行ったのだが・・・」 「結局、一枚も手に入らなかったな。」 「一枚もですか?!でも神子殿は少し前まですべて札をめくれることも少なかったではありませんか?」 鷹通が驚いたように眼鏡を軽く上げる。 「そうなんだよ。ここんとこ急にだぜ?あかねがこんなになっちまったのは。」 「だよな。怨霊の封印に行ってもミスるし・・・」 「確かにおかしいですね・・・神子に何かあったんでしょうか?」 永泉が『心配!』と書いてあるような顔でオロオロしたちょうどその時
「・・あの、皆様よろしいですか?」 藤姫が遠慮気味に顔を覗かせた。 「なんでしょう?」 「最近神子様のご様子が・・・」
「「「「「「「「やっぱり」」」」」」」」
八人の声が見事にはもった。 「あの?」 「気にしないでおくれ。今、ちょうどその話をしていたものだから驚いてしまったのだよ。」 怪訝そうな藤姫にあの『必殺、女殺し』の笑顔を友雅がむける。 「はあ、そうですの?では皆様も神子様のご心配を?」 「もちろんだ。神子がちゃんと戦えるようにするのが八葉の役目。」 とかいいながら私的に目一杯心配そうな泰明である。 「まあ、そうでしたの。私も最近の神子様が心配で。」 「具体的にはどんな心配なんです?」 「朝、起きられるのが遅くなっていますの。以前からあまり朝は得意でないとおっしゃってましたけど、今ほどではありませんでしたわ。」 「朝、ね。ということは夜の間に何かあるのかな?夜のうちに誰か忍んで来ているとかね。」 友雅の名誉のために言っておくと、この発言は100パーセント冗談だったが、他の八葉+藤姫のジトッとした目で見られて肩を竦めた。 「あ!でも、そう言えば女房達のうわさ話なんですが、夜中に神子様のお部屋を通りかかった時、小さく人の声が聞こえたとか!」
「「「「「「「「なにいぃぃぃぃぃぃ?!」」」」」」」」
「お、落ち着いてくださいませ!土御門の警備の中でも神子様のお部屋は特に警備を強化しておりますのよ?どんな殿方でも忍んでは来られませんわ!」 危うく怨霊でも呼び出しそうな勢いで殺気をまき散らす八葉にあわてて藤姫が言った言葉は案外効果があったらしく、なんと全員自分を取り戻す。 「・・・はあああ、まったく驚かすんじゃねえよ。」 「・・・そうだな。しかし夜中に声とは穏やかではない。」 「そうですね。もし怨霊や鬼が神子殿に何かしていたとしたら・・・」 鷹通が言った可能性が一番説得力があった(かつ心臓に優しかった)せいか全員が頷く。 「確かめなくてはならないね。」 「だな。藤姫、どうにかできるか?」 「はい。神子様のためですものね。今夜、神子様のお部屋のお隣の部屋を開けておきますわ。」 ・・・まあ、こんなことが神子様至上主義の皆様のあいだで決まっていた事を神子様はしらない・・・
その夜もとっぷりふけた頃、土御門に集ってくる人影―言わずとしれた八葉達である。 あかねの部屋から声が聞こえるのはいつも夜中であるという話なので、それまでは神子様の部屋を覗く事を藤姫から止められていたのでこんな時間になってしまったのだ。 「遅かったですね、友雅殿。」 「それはすまなかったね。それで神子殿は?」 「これから皆で向かうところです。」 いつも朝控えに使われている部屋にはもう八葉がそろっていた。 「遅くなって悪かったね。では行くとしようか?」 友雅の言葉に全員が無言で頷くと、神子の部屋に向かって歩き出した。
「おい、なんか聞こえねえか?」 あかねの部屋に近づいた所でふと天真が眉をひそめていう。 耳を澄ますと確かに何やらボソボソと声らしきものが聞こえる。 「どうしますか?踏み込みますか?」 「いや、それは賢明ではない。まず様子を見るべきだ。」 泰明の言葉に全員が納得して取りあえず隣の部屋に入る八葉。 声は確かにあかねの部屋から聞こえる。 八葉はその部屋とあかねの部屋の境の戸をそっとずらして中を覗き込み・・・
全員の目が点になった。
あかねの部屋の中ではなんと酒宴が繰り広げられていたのだ! 部屋の真ん中に座っているあかねの右側にはあかねの杯にちこちこ酒を注ぐ豆狸がいる。さらにあかねのまわりにはこれまでに封印した斎姫、犬神、天狗などが杯片手に座を囲んでいるのだ。 「だからね〜私だって好きで龍神の神子やってるわけじゃないのよ〜?」 もうすっかり出来上がってます!と言う感じのあかねが言うのに律儀に頷く怨霊達。 「なのにさ〜みんな『神子殿』っていってさ〜。私はさ〜元宮あかねなのよ〜?」 「うんうん、わかりますわ。みんなそういう役目でしか見てくれないんですわよね。」 「そうなの〜。も〜私の気持ちをわかってくれるのって斎ちゃんだけだわ〜」 すっかり慣れてる感じのやりとりである。 「私だって頑張らなくちゃいけないのは解ってるのよ〜?でもね〜ストレス溜まるんだから〜」 「すとれす?」 「精神的負担ってこと〜。犬神さんまで泰明さんみたい〜。」 けらけらと笑いながらあかねは豆狸の注いでくれた杯を煽った。
こちら、隣の部屋。 すっかり度肝を抜かれた八葉が部屋の真ん中に集まっている。 「あれはどういうことなんだ?」 「よくわからないが、すっかり慣れてる様子だねえ。」 珍しく動揺している泰明と、言葉には現れてないが目が笑ってない友雅の言葉に天真が何か思いついたように言った。 「おい、確かあかねがおかしくなりはじめたのって朱雀封印してからすぐだよな?」 「そう、だと思いますが?」 怪訝そうな鷹通の横でイノリがポンッと手を叩いた。 「あ!朱雀封印の前に最後に封印した怨霊って確か・・・・・豆狸!」 「じゃあまさか神子殿はそのころから酒宴をされていたというのか?」 「だろうな、たぶん。」 「じゃあ、あかねちゃんがおかしかったのて、まさか・・・」
「「「「「「「「・・・二日酔い・・・」」」」」」」」
ガクー(脱)
あらら、八葉のみなさん、すっかり力が抜けてしまいましたねえ。
「・・・おい、泰明。式神って俺達が装備すればあかねはつかえなくなるんだよな?」 「ああ、それならば問題無いな。」 「そうですね。」 「あかねには悪いけどそうするっきゃねえな。」 顔を見合わせた八葉は力無く頷きあった(笑)
翌日、朝から駆け込んできた八葉達が口々に式神を装備して欲しいと頼んできて、泣く泣くあかねが豆狸他、飲み友達を放出せざるをえなくなったのは言うまでもない。
〜 終・・・(汗) 〜
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― あとがき ―
わ〜、なんなんでしょうこれ(自分で書いたくせに)
コ、コメディーなんです。一応・・・お願いだから石投げないで〜(泣)
じつは松尾大社で豆狸と戦う度に『あ〜酒飲みたい』とか思ってて思いついた話です。
あの豆ちゃんに体の大きさと合わないとっくりでお酒を注いで欲しい!
そしたら斎姫とか犬神とか飲み友達にちょうどいいかも!・・・というふうにキャスティングがきまりました。