雪の降った朝に



ひどく寒い朝、メイは冷たい空気に頬を撫でられて目を覚ました。





                ひどく寒い朝、いつも通り目を覚ましたアイシュはちょっと肩を竦めた。





目を覚ましたものの、布団の中で、メイは唸った。
「うう〜、寒いよ〜。
まったくキールってば女の子を物置だった所に住まわせるなんてサイテーよね。・・・でも・・・」





              アイシュは自分の両腕を抱きながら、ベットから出るとキッチンへ向かう。
                   「とりあえず、暖かいスープでも作りましょう〜・・・それにしても・・・」





                        「なんでこんなに寒いの?」
                     「なんでこんなに寒いんでしょう〜?」





ふとある心躍る可能性に気がついて、メイはベットを勢いよく飛び出した。





                  なんとなく思いついた事を確かめるべく、アイシュは窓辺に向かう。





                               そして





                              「わあ・・・」
                              「おや〜」





                         外は一面の銀世界だった。
            夜のうちに積もった今年最初の雪がうっすらと外の景色を変えていた。
                          いつもと同じで違う世界。





メイはさっきまでの寒さにしかめていた顔を今は全開の笑顔に変えている。
「すっごーい!!こんなに一晩で降ったんだ!こんなの初めて!」
子供のようにはしゃぐメイ。
現代の雪の少ない地方に育った彼女はこれ程、一晩で積もった雪を見たことがなかった。





                                       アイシュは雪の世界に微笑む。
                       「雪が降っていたんですね〜。どうりで寒いはずです〜。」
              本格的な冬の訪れを告げる光景にアイシュは季節の変わり目を感じる。





飽きもせず雪を眺めていたメイはふと一人の面影をそれに重ねた。
「・・・雪って・・・」





                    いつものようにのんびりと窓の外の雪を眺めていたアイシュは
                                        心に抱く面影を雪に重ねた
                                                「・・・雪は・・・」





                         「アイシュに似てる」
                         「メイのようですね〜」





のんびりとしていて、いつも何処か心配な天才文官。
双子の弟を凄く心配していて、よく様子を見に来ては叱られている優しい兄。
みんな彼はただの天然だと思っている。
「でも、ほんとはアイシュってすごく人の事、気遣ってくれてるもんね。」
いつも無理をしないように、怪我などしないように・・・寂しくないよう気遣ってくれる青年。
「アイシュって雪みたいに包んでくれる・・・」
落ち着ける空間を作ってくれる青年は、この雪と同じ。
メイは優しく微笑んだ。





                      天真爛漫で、無鉄砲、いつもはらはらして目の離せない少女。
                            思ったことはやってみなくちゃ気が済まない元気娘。
                         でも不思議と憎めなくて、みんなが彼女を見守っている。
                                「メイが来て、いろんなことが変わりました〜」
                      彼女に引きずられていつの間にか、人付き合いを始めた弟、
                  気兼ねない友人を得て少し寂しげだった面影がすべて消えた王女、
                                                 そして自分も・・・
                      一瞬で世界を変えてしまった少女は、まるでこの初雪のよう。
                                      アイシュは愛おしげに目を細めた。





                             そして





「今日は課題が終わったらアイシュのとこに行ってみようかな。」
きっといつもの居心地のいい、メイの大好きな笑顔で迎えてくれるはず。





                「今日はアップルパイでも焼いて、おいしい紅茶でも用意しましょうか〜」
          きっといつものように元気よく、アイシュの大好きな笑顔でやって来てくれるはず。





メイはそっと自分の右手の薬指にある、
彼の瞳と同じ緑の石のついたリングに口づけて呟いた。





                                アイシュはそっと自分の右手の薬指にある、
                   彼女の瞳と同じ薄い茶色の石のついたリングに口づけて囁いた。







                 『来年の初雪は一緒に見られますように・・・』







                                                 〜 END 〜

                           (2000,12,15 Thanks for 100HIT 東条 瞠)


― あとがき ―
100番を踏んでもらったさゆさまに送ったキリバン創作です。
テーマは『初雪』ということで、まさしく、まんまな創作を書いてしまったかも・・・(^^;)
でもこの創作、すっごい失敗したと思ったんですよ。
で、送った後、「ああ〜やっぱ送んなきゃよかった〜」と頭抱えてのたうち回りました(笑)
なんせ読みにくいし・・・一応、左側がメイサイドで、右側がアイシュサイドになってはいるんです。
でも、へたに枠なんかつけたもんだからさゆさまにご迷惑をかけてしまったし・・・
初キリバンから、前途多難です(T T)
あ、一応解説としては『右手の薬指に石の入った指輪』というのは婚約の徴なんだそうです。
東条はこういうみんなのしらなそうな、ちょっとしたエピソードみたいなのが好きなんです。
だからこの創作はアイシュとメイの婚約中の1こまと言うことで。

そうそう、この創作、これだけで送るのは忍びなかったんで、おまけがあります。
よかったらそっちもどうぞv