銀色ウサギと金色ウサギ




「ゼフェル様ってウサギみたいですね。」

―― そう言ったらいきなり額を小突かれた。

「ひ、ひどいです!いきなりなにするんですかぁ!」

抗議してくるアンジェリークの方をちらっと横目で見てからゼフェルは今までいじっていた機械に目を戻して言った。

「おめえが変な事言うからだ。」

「ウサギみたいっていうのですか?だってホントにそう思ったんだもん。」

「俺のどこがウサギなんてあんな小動物みてえだっていうんだよ?目とか言うんじぇねえだろうな?」

いかにも小馬鹿にされたように言われてアンジェリークはむっとした。

そりゃあ、ゼフェルの瞳は綺麗な赤で白いウサギの目にそっくりだと思うけれどさすがにそれだけでゼフェルをウサギに例えるなんて勇気のある事はできない。

「違いますよーだ!外見のことじゃないです。」

べっと舌を出して自信たっぷりに言い切ったのが妙に関心を誘ったのか、ゼフェルはいじっていた小さな機械を床に置いてこちらを見てきた。

「じゃあ俺のどこがウサギみてえなんだ?」

「えーっと、すぐ脱走するところでしょ。甘いモノとか絶対食べないところ。すぐに触るところも。」

「・・・・喧嘩売ってんのか?」

「売ってませんよ!だってそうじゃないですか!聖地をすぐに飛び出して行っちゃうのもそうだし、私がどんなにさそってもお菓子は全然食べないし。」

そこまで言って、アンジェリークは少し顔を赤くして付け足した。

「2人っきりになるとすぐ触りたがるし・・・・」

これにはゼフェルもぐっとつまる。

実際ゼフェルはアンジェリークに触れるのが好きだったから。

ホントは他の人間がいてもゼフェル自身は全然気にしないが、アンジェリークが恥ずかしがるから2人の時だけに押さえているだけで、1日中アンジェリークを抱きしめていたいとも思っていたりするし。

しかし、それだけで今までの自分のイメージと180度違うモノに例えられてはたまらない。

「で、でもよ、それだけでウサギってこともねえだろ。」

「違いますよ。まだ似てるところがあるんです。」

「んだよ、言ってみろ。」

「それは・・・・」

そう言って、見つめてきたアンジェリークの視線に、ゼフェルはどきっと胸が高鳴るのを自覚する。

アンジェリークは最近、ふいにこんな瞳をするようになった。

ちょっと前、飛空都市で女王試験を受けている時には絶対見られなかった少女ではない、大人びた瞳。

そのたびにゼフェルはドキッとするはめになる。

少しだけ変わった視線。

それだけの変化にこんなにドキドキしていては、一生ドキドキさせられっぱなしなんじゃないかという嬉しいような、情けないような予感を抱きながら。

今もそんな気になったゼフェルだが、慌てて先を促すように言った。

「それは、なんだよ?」









「寂しがり屋なところ。」








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」

眉を寄せて思いっきり間の抜けた声を出してしまったゼフェルを見て、アンジェリークがくすくす笑い出す。

「おい、笑ってんじゃねえよ!俺のどこが寂しがり屋なんだよ!」

「あはは、だってゼフェル様ったらおかしい・・・・」

「笑うなって。アンジェリーク!」

「ごめんなさい。だって本当にそう思ったんですから。」

やっと笑いを引っ込めてそう言ったアンジェリークをゼフェルは睨み付ける。

「いつ?」

「最初にルヴァ様に怒られているのを見た時です。」

その答えにゼフェルはますます眉間の皺を深くする。

今では少し大人しくなってきているが、飛空都市にいた頃ルヴァにたいして暴言を吐く自分はとてもじゃないが寂しがり屋なんて言葉とは無縁だったように思う。

むしろ無駄に牙をむく野良犬の方が近い気がするのに。

それなのにアンジェリークはにっこり笑って言い切った。

「その時、ルヴァ様に怒られて不機嫌になって帰っていくゼフェル様の姿が小屋の隅でしょぼんっとしてるウサギによく似てたんです。
それからずっと気になっちゃって。
本当はゼフェル様は心の中はウサギみたいで、一緒にいてあげないと寂しくて死んじゃうんじゃないかって。」

でも、ロザリアにそう言ったら笑われちゃいましたけど、と言って笑うアンジェリークをゼフェルは呆れて見つめた。

笑われて当然だと思う。

実際あの頃のゼフェルにアンジェリークのような判断をくだしていた奴なんて、おそらくいないだろう。

ルヴァだってきっとそうだ。

だから、笑われるのは当たり前だと思う。

―― でも、同時にかなわない、とも思う。

確かにアンジェリークの言うとおり、あの頃のゼフェルは本当は寂しかったのだろう。

唐突に両親や仲間達から引き離され、連れてこられた先では冷たい拒絶の言葉をぶつけられて。

いてはいけない場所に無理矢理居ざるおえないようなそんな落ち着かなさに怯えていたのだと思う。

でもそれは今だからそう思える事で、その当時は全然考えてもみなかった事だ。

それを見ぬかれていたのだから。

この天然天使に。

ゼフェルは小さくため息をついた。

「ゼフェル様?」

急に黙ってしまったゼフェルを不思議に思ったのか、アンジェリークが覗き込んでくる。

その金色の髪を1房絡め取って、ゼフェルはふと思いついて言ってみる。

「それじゃあよ、おめえは俺が寂しそうだから一緒にいんのか?」

「え!?違います!」

思いがけずしっかり否定が返ってきてゼフェルは思わず目を丸くした。

と、みるみるうちにアンジェリークが真っ赤になる。

「からかいました?」

「そういうわけじゃねえって。で、じゃあなんでおめえは俺と一緒にいるんだ?」

にやにやと意地の悪い笑みを向けられて、アンジェリークは赤い顔のまま横を向いてしまった。

「そんなの、自分で考えてください!」

そんな様子が可愛くて、ゼフェルはすっぽりとアンジェリークを腕の中に納めてしまってから、その耳元で囁いた。

「やっぱりおめえの方がウサギみてえだぜ。フワフワしてて、すぐすねるしな。」

「う〜・・・・じゃあ、一緒にいてくれないと駄目ですよ?寂しくて死んじゃうんだから。」

顔を真っ赤にしたまま、上目使いで睨み付けてくるアンジェリークに軽い目眩を覚えながらゼフェルはゆっくりと彼女の顎をすくった。

そしてほんの少し顔を傾けてから小さく言った。

「ウサギが2人ならくっついてれば寂しくねえんじゃねえか。」

「!」

そう言われてますます赤くなってしまった金色のウサギに、銀色ウサギは優しくキスを1つ落としたのだった。















                                                  〜 Fin 〜







― あとがき ―
久しぶりのアンジェリーク創作なのに、こんなどうしようもない駄文ですいません(><)
でもゼフェルってなんせ色目がああだし、やっぱりウサギっぽくないかなあ。
もっと絵本っぽくしたかったんですけど、上手くいかなかった・・・・