翼を手折られた天使
―― 初めて愛した少女は天使の翼を持っていた・・・ 「女王候補を紹介しましょう。 ロザリア、アンジェリーク、入っていらっしゃい。」 ディアの声と共に守護聖と女王の集う間に現れた少女を見た時、ルヴァは思わず目を細めた。 青い髪の堂々としている少女の横で落ち着かなさそうに目を泳がせている金の髪の少女。 特別、美人とか教養や気品を感じるという事はない、ごく普通の少女。 ・・・しかしルヴァはその少女の背に光りの翼を見た。 (・・・これは素晴らしい女王試験になりそうですね。) ルヴァは優しい瞳で女王候補、アンジェリーク・リモージュを見つめた。 実際、アンジェリークは素晴らしい女王候補だった。 ロザリア優勢に進むと思われた試験を努力と明るさで補い互角に戦って見せた。 また、アンジェリークは持ち前の明るさで守護聖達にもうち解けていった。 固く閉ざされていたゼフェルの心を開かせ、冷え切っていたクラヴィスの心に明かりをともしたのも彼女だった。 ・・・そして少女はルヴァの心にも変化をもたらした。 「アンジェリーク」 いつの頃から少女の名を呼ぶだけで、切ない愛しさがこみ上げるようになったのか。 「ルヴァ様!」 いつの頃からアンジェリークに名を呼ばれるだけで甘い喜びに心が震えるようになったのか。 アンジェリークに優しい瞳を向け、彼女のために仕事に励むようになったゼフェルを見て喜ぶ気持ちの奥底に狂おしい嫉妬が蠢いていた。 生まれて初めての激しい感情。 ・・・愛している 認めた瞬間から彼女の背の翼が憎くなった。 今は羽根をたたんでいるけれど、いつか彼女はその翼に風をうけて自分の手の届かない所へ行ってしまうだろう。 ―― ナラバ、タオッテシマエバイイ ―― 暗い誘惑の声 ―― テノナカニトジコメテ、ダキシメテ、タオッテシマエバイイ ―― アンジェリークに会うたびに狂おしい内なる声とルヴァは戦っていた。 女王試験も終わりに近づいたある日、ルヴァとアンジェリークは二人で森の湖に来ていた。 暖かい、いい天気な日にもかかわらず、湖には二人以外いなかった。 「いいお天気ですね、ルヴァ様。」 「そうですね、アンジェリーク。」 「あ!ほら、ルヴァ様、お魚が!」 アンジェリークは湖を覗き込んで嬉しそうに笑う。 光の中の彼女が眩しくて、ルヴァは目を細めた。 「アンジェリーク、湖に落ちないでくださいよ?」 「大丈夫・・・きゃっ!」 「アンジェリーク!」 言った側から手を滑らせたアンジェリークをルヴァは反射的に引き寄せた。 ふわっと甘い香りが香ったと同時に少女の柔らかい体が転がり込んできてルヴァの鼓動が跳ね上がる。 「あ、ありがとうございます。」 ルヴァの腕の中でアンジェリークは照れたように笑った。 ―― 瞬間、ルヴァを征したのは内なる声でも、理性でもない・・愛しさだった。 気がついた時、ルヴァはアンジェリークの唇に己のそれを重ねていた。 少女が驚いているのは気配でわかっていたけれど、触れたいと切望していた彼女の唇は甘く、ルヴァを狂わせるのに十分な力を持っていた。 己の想いすべてをそそぎ込むような口付けから、やっとアンジェリークを解放したルヴァは、あっという間に冷水かぶせられたような気分になった。 アンジェリークの緑の瞳からポロポロと涙が零れていたのだ。 「す、すみません!私は貴女の気持ちを考えもせずに・・・」 死にたくなるぐらい落ち込んだルヴァの首にアンジェリークはいきなり飛びついた。 「ア、ア、ア、アンジェリーク?!」 「私、ルヴァ様が大好きです!!」 「?!」 信じられない言葉に呆然としているルヴァにアンジェリークは輝く笑顔を向けて言った。 「私が女王候補でなくなっても、側にいさせてくださいますか?」 「当たり前です!!・・・アンジェリーク、愛しています。」 「私もです。ルヴァ様・・・」 ・・・二度目の甘い口付けの中、ルヴァはアンジェリークの光の翼が消えていく幻を見た・・・ ルヴァは天使の翼を手折って天使を手に入れた。 ・・・翼を手折られた天使は、今、ルヴァの隣で幸せそうに微笑んでいる。 〜 Fin 〜 |
― あとがき ―
テーマソングはサザンの『BLUE HEAVEN』でした〜。
あの「つ〜ばさ〜の折れ〜たエンジェル〜♪」って所がエンドレスで流れてる頭で書きました(^^;)
そのせいじゃないと思うんですが、えっっっらい甘いですね(自分で言うなって・汗)
テーマは『切れるルヴァ様』です(笑)
オスカーとかと違って彼は心の中にため込みそうですから。
プツンッと切れた時、こんな感じになるのでは・・・なんて思ったりして。
熱いルヴァを書いてしまいました(^^;)
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