天使の帰還
ずっと待っていた日がとうとう来た。 アンジェリーク・コレットはまるで夢の中にいるような気分で目覚めた。 そのままベットの上で夢ではない現実の昨日を思い出す。 昨日、新宇宙の2代目女王が誕生した。 2代目の女王となった少女は黒い髪のアンジェリークと言う名の少女で、アンジェリークは何か不思議な運命を感じて微笑んだものだった。 そして今日、ずっと心の奥で待ち続けたアンジェリークが普通の少女に戻る日である。 ベットから立ち上がりすっかり荷造りされている鞄の上に載せてあった白いワンピースを手に取る。 そしてアンジェリークは少し笑って着替え始めた。 ―故郷の宇宙を救ったあの事件から7年の時が流れていた。 (・・・セイラン様・・・) この7年間、片時も忘れたことのない人の名前をそっとアンジェリークは心のなかで呼んだ。 あの戦いの日々の中で皮肉とそっけない態度の下で、精一杯アンジェリークを支えてくれた人。 二度と会えないかもしれない、という不安の中で『さよならは言わないよ』といった切なそうな表情は今でも鮮明に思い出せる。 会いたくて、会いたくて何度一人で泣いたかわからない。 ・・・その彼にとうとう再会できる日がやって来たのだ。 新女王と新補佐官にその座を譲り渡したアンジェリークとレイチェルは引き留める二人の誘いを断って、故郷の宇宙へ帰還する事になっている。 7年ぶりの愛しい人との再開・・・気持ちが高鳴らないはずがない。 着替え終わったアンジェリークは鏡の前で念入りに自分をチェックする。 背はあまり変わらないけれど、長くなった髪は白いワンピースの肩でサラサラと揺れている。 白でシンプルなデザインで膝下10cmぐらいのワンピースは今日のために大事に取って置いた物だ。 髪にはリボンはつていない。 かわりにつばの大きい白い帽子を乗せる。 ちょうどその時、扉が叩かれた。 「はい?」 「おはよう、アンジェ。支度できた?」 元女王補佐官、レイチェルである。 今日の彼女は白いシャツとベージュのミニスカート。 (そう言えば昔、足が綺麗なんだって自慢してたっけ。) 「何笑ってるの?」 「ちょっとね。 それにしてもレイチェル、気合い入ってるね。エルンストさん、きっと惚れなおすよ?」 アンジェリークに言われてレイチェルはパッと赤くなった。 「知ってたの?」 「当たり前でしょ?親友のことだもの。」 涼しい顔で答えるアンジェリークをレイチェルは軽く睨み付けて・・・そして笑った。 「じゃあ、早く行こう!」 「ええ!」 ・・・そして二人は7年育て続けた宇宙を後にした。 愛する人に再び出会うために・・・ 次元回廊をくぐり抜けた瞬間、鼻をついた緑の匂いにアンジェリークはびっくりして目を開けた。 そして再び驚く。 そこは森の湖と呼ばれていた所だったのだ。 「どうして?次元回廊の出口は聖殿じゃなかったっけ?」 そう言って横を見たアンジェリークはさらに困惑するはめになった。 隣にいて一緒に次元回廊を抜けてきたはずのレイチェルの姿がなかったのだ。 「えっ?!どうして・・・?!」 頭がパニックになりかけたとき、アンジェリークは前女王の言葉をふと思い出した。 『次元回廊はね、想いが強ければ行きたいと願う所へ行けたりもするのよ。』 (・・・そっか、レイチェルはきっとエルンストさんの所へ行ったのね。) なら心配はない。 アンジェリークは鞄を置くと一人で湖に流れ込んでいる滝の近くへと歩み寄る。 ざっと見回した限りでは人はいなかった。 (こんな日はこっそり祈っていたっけ・・・滝に向かって『セイラン様に会わせてください』って・・・) アンジェリークが懐かしげに微笑んで滝を見上げたその時― ガサッ 小さな草を踏む音にアンジェリークは反射的に振り返った。 ・・・そして息を飲む。 そこに立っていたのは、いつも皮肉と余裕の笑みを浮かべていた瞳を、驚きに見開いた青い髪の青年・・・セイランだった。 7年前とちっとも変わらないその姿にアンジェリークは言葉を失って立ちつした。 2人ともまるで魅入られたようにお互いを見つめる。 なんの音も、聞こえなくなるような時間・・・ それを先に壊したのはセイランの方だった。 「・・・幻覚を見るようになっちゃ、僕もお終いだね・・・」 聞いている方が切なくなるような声に、アンジェリークはたまらずセイランに駆け寄ろうとした。 「だめだ!動かないで!」 鋭い制止の声に、アンジェリークはびくっと立ち止まる。 セイランは軽く前髪を掻き上げて哀しげとさえいえるような瞳でアンジェリークを見つめる。 「消えてしまう前に、もう少しだけでいい。見ていたいんだ・・・幻でもかまわないから・・・」 「幻じゃ・・・幻じゃありません!」 アンジェリークの声にびくっと震えたのは今度は青年の方だった。 「幻なんかじゃありません!・・・昨日、新宇宙を新しい女王に任せて、私・・・帰って来たんです!」 言い終わった瞬間、涙が零れた。 (会いたくて、会いたくて、ずっと想ってきた人が目の前にいるのに!) 零れる涙を堪えきれず俯いてしまった彼女の耳に、初めて聞くセイランの戸惑った声が滑り込んできた。 「ま・・さか・・・本当に・・・?」 「ほんと・・・!!」 アンジェリークの言葉が最後まで紡がれることはなかった。 セイランが力一杯彼女を抱きしめたのだ。 「アンジェリーク・・・アンジェリーク・・・!」 息をするのも苦しいほどにきつく抱きしめられながら、アンジェリークは震える声で繰り返される自分の名前を聞いた。 例えようもない喜びがアンジェリークを包み込む。 (待っていてくれたんだ・・7年間、私を・・・) 自分だけではなく、セイランもまた7年間アンジェリークを思っていてくれたのだ、と。 しばらくしてセイランはやっと腕の力を少し抜いて―それでも彼女を腕の中から離さずに、アンジェリークを見つめた。 瞳には極上の笑みが宿っている。 「セイラン様・・・」 「本当に・・・やっと帰って来たんだね。7年間は、長かったな。」 「セイラン様、私―」 アンジェリークは7年前でさえ口にできなかった言葉を言おうとした。 「私、セイラン様をずっと―」 しかしその言葉はセイランの唇に飲み込まれてしまった。 長い長いキスの後、彼女を解放したセイランはそっと言った。 「アンジェリーク、君を愛してる。 7年前に言ったよね?君は僕の生涯唯一の相手だって。 君は? 君も同じだと思っていいんだね?」 アンジェリークは大きく頷いた。 零れる涙をセイランは唇ですくう。 そして自分の首にかけていた鎖を引き出すとそれに通していた銀の指輪をとり、そっとアンジェリークの左の薬指にはめた。 「セイラン様?!」 驚きに目を見開くアンジェリークを愛おしそうに見つめてセイランはその左手に口づける。 「君は7年間もみんなの天使様だったんだ。 その間、僕はずっと待っていたんだから、今度は僕だけの天使になってくれるね?」 アンジェリークは極上の笑みを浮かべてセイランに抱きつく。 そして彼の耳元に目一杯の気持ちを込めて囁いた。 「私、セイラン様が好きです。世界中の誰よりも!」 ―アンジェリークは知らない。 その時、彼がどれほどとろけそうな顔をしたか。 ・・・そして彼は天使を手に入れた・・・ 〜 FIN 〜 |
― あとがき ―
初のセイラン×コレットもの〜。
しっかしかなり前に書いたんでわすれてたんですけど、ベタな展開だな〜(^^;)
それにしても、セイランは行動がなかなかこっぱずかしいですね(笑)
コレットものとしては2作目なんですけど、いつまでたってもコレットは慣れないですね〜。
リモージュ1stのはずなのになんでコレットを書いちゃうんだろう(^^;)
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