たまにはこんな二人
世の中には『鬼の霍乱』という言葉がある。 ・・・今のメイの状況を現すのにこれ程ぴったりの言葉はないだろう。 メイは三日前から風邪をひいてすっかりベットの住人になっているのだ。 夏と秋の境ということで日頃の疲れが一気に出たのだろうと、医者には言われた。 とはいうものの、いつもの元気100%、元気の固まりみたいなメイが病気という噂はあっという間に王都を駆けめぐったらしく、この三日、ディアーナやシルフィスはもちろんのこと、あのレオニスやセイリオスまで見舞いに来たほどだ。 しかしその中でも一番よくやってきたのは、クラインの宮廷筆頭魔導士であるシオン=カイナスだった。 実はメイとシオンは、メイが風邪をひく数日前に想いを伝えあったばかりのできたてホヤホヤ(?)の恋人同士なのだ。 「よお、まだ熱下がんないのか?」 やっと多少具合がよくなってきた三日目の夜、一人おとなしくベットに横になっているメイの部屋にシオンが顔を出した。 本日三度目の恋人の来訪。 一体いつ仕事しているのか、と思ってメイは少し呆れた。 しかしそんなメイの様子に気がついているのか、いないのか(たぶん気付いている上で知らん顔を決め込んでいるんだろう)シオンは手に持っていた小さなブーケを花瓶に入れてから、メイのベットサイドに陣取った。 「どうだ?少しはよくなったか?なんか欲しいものないか?」 そう言いながらメイの額の上に乗ったタオルを冷たい水で絞ってやったりするシオンを見て、メイは眉を寄せた。 「・・・ねえ、シオン。何で嬉しそうなの・・・?」 「ん?」 「だから、なんでそんなにニコニコしてるのよ?」 (私がこんなに苦しいのに、なんでこんなにこいつは楽しそうなわけ?!) 少し憮然としてメイはシオンを睨んだ。 しかしシオンはまったく動じた様子もなくメイの髪を梳きながら言った。 「いや、弱ってるメイは可愛いな〜っと思って。」 「・・・・・・・・・・・何それ・・・・・・・・・・・・・」 「もちろん、いつもの元気なメイも可愛いぜ? でも、こうやって大人しくしているメイも、たまにはいいな〜。」 いつものからかうような口調だが、一滴本気が混ざっている事がわかってしまってメイは少し赤くなる。 その頬に優しく手を滑らせて、溶けてしまいそうなほど甘い声でシオンに追い打ちをかけた。 「それにこうやっていれば、お前を独占してるって気分になれるからな。ゆっくり見てられるし。」 「・・・・・・・・・バカ、恥ずかしい事、さらっと言うな。」 たぶん真っ赤になっている顔を隠したくてメイは少しシーツをかぶる。 しかし意地悪な筆頭魔導士はそれを許してくれない。 「お、メイ、顔赤いぞ?熱、上がったんじゃないか?」 わざとらしく額に手を当てるシオンをメイは思いっきり睨み付けた。 ・・・このまま負けっ放しなんて、何だか悔しい。 何か反撃を・・・と考えたメイは1つ考えついてニッと笑った。 そして至極上機嫌で、再びタオルを濡らしているシオンを呼ぶ。 「シオン、シオン」 「ん?なんだ?」 なんの警戒もせず、シオンがメイの方に顔を向けて・・・ ちゅっ 「やーい、引っかかった!これでシオンも風邪ひくんだから!・・・じゃ、おやすみ」 不意打ちの初めてのメイからのキスにびしっと固まってしまったシオンの反応に、メイは至極満足そうに笑って布団に潜り込んだ。 たっぷり一分後 やっと我に返ったシオンがメイを見たときには、メイはすっかり夢の世界へ逃亡した後だった。 「・・・まいった・・・お前には勝てそうもないぜ・・・ 溜め息をついて、でもとても嬉しそうな口調でシオンが言ったのを、満足そうに眠っていたメイは知らない。 ・・・数日後、メイが全快したのも束の間、今度はシオンが風邪で寝込んでしまい、責任を感じたメイがそれは一生懸命看病したとか。 もちろんシオンが「風邪をひくのも悪くない」とか思うようになったのは言うまでもないだろう。 |
― あとがき ―
これって実は『ファンタ』の創作の中で最初から三番目くらいに書いた創作なんですよ。
なんでこんな時期になったかって・・・あまりにベタな内容だったから(^^;)
ちょっと恥ずかしかったんですね。
不意打ちキスってシオンは弱そうかな〜って思ったりするのは私だけ・・・?
またもタイトルと内容がいまいち合ってない創作です(汗)
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