プライベート・レッスン




「オスカー様!俺に女性の口説き方を教えてください!!」

ガシャンッ

陽射しもうららかなとある午後、突然訪ねてくるなり顔を真っ赤にして風守護聖ランディが言った台詞にオスカーは思わず持っていたカップを落としてしまった。

「何を言い出すかと思えば・・・。なんで、また急にそんな事を言い出したんだ?
好きな子でもできたのか?」

「えっ」

一瞬で平常心を取り戻したオスカーの言葉に、トマトよろしく真っ赤になったランディ。

その様子を見てなるほど、とオスカーは心の中で納得した。






ランディの好きな子 ―― それは間違いなく、現在女王試験中の金色の髪の少女、アンジェリーク・リモージュであろう。

ドジで、ちょっと天然な彼女は最初こそ失敗ばかりして守護聖達を困らせていたが、持ち前の明るさと前向きさでどんな事でも一生懸命乗り越えていこうとする彼女は、徐々に周りを惹きつけていった。

そして今ではライバルであったはずのロザリアも含めて、彼女の休日やお茶の時間を巡った争奪戦が繰り広げられるほどだ。

そんなアンジェリークと最初っから仲良くなった守護聖であるランディが、惹かれていないはずがない。

たぶんあのジュリアスやクラヴィスまでがアンジェリークに惹かれている事に気付いて焦った・・といった所だろう。

まあ、そのことに気がついただけでもこの猪突猛進少年にしては上出来と言うべきか。






―― しかし「はいそうですか」っと教えてやれるはずもなかった。

理由は・・・オスカーもアンジェリークにすっかりまいっているからだ。

まだまだ恋に関しては百戦錬磨の自分にはお子様すぎると思っていたのに、いつからかその真っ直ぐな笑顔が心に住み着いてしまっていた。

口説いても口説いてもちっともこっちを向いてくれない少女。

いつもふんわりと風のように手の中をすり抜けて行ってしまう。

正直言って手加減なんぞしていられないのだ。

いくら恋に不案内な後輩といえども、手練手管のレッスンなど・・・






ふと、オスカーの口元ににっと人の悪〜い笑みが浮かんだ。

「ランディ、そんなに教えて欲しいなら教えてやろう。」

「え?本当ですか?」

「でもな、お前が女性役をやるんだぞ。」

「は?」

キョトンっとするランディを執務室にあるソファーに座らせて斜め上から見下ろすオスカー。

「うん、まあ・・そうだな、茶色の髪でブルーアイの美人だと思えないこともない。」

「あ、あの、オスカー様?」

「教えて欲しいんだろ?口説き方を。」

ちらっと流し目で見られてランディは黙った。

オスカーは満足そうに笑った。






そしてモード切替。

「さて、レディ。なにか話をしてくれないか?女性に話させるなんてマナー違反なんだが、今の俺の口からは君の美しさを現す言葉しか出てこないんだ。」

「あ・・あの・・・」

普段は女性専用の甘〜い声で言われてランディは思わず赤くなる。

「なんだい、どうかしたのか?ふっ、君まで黙ってしまったら俺達の間にはなんの会話もなくなってしまうだろ?
・・・しかし、それもいいかもしれないな。
君と俺の間に落ちる沈黙は、愛という言葉のいらない感情が満たしてくれるだろうから。」

そこでオスカーは目を見開いているランディの隣に座るとその顎を捕らえて、その瞳をじっと覗き込む。

「・・・君の瞳は美しいな。こんな風に見つめられたら吸い込まれそうだ。」

思いっきりなれていない(そりゃ、なれていたら問題だ)熱い熱〜い言葉と眼差しに、思わずポ〜っとなってしまうランディ。

その様子を見ながらオスカーは心の中でほくそ笑んだ。

(どうだ。このくらいやれば、『口説こう』なんて発想はもう出てこないだろ。)

・・・そう、オスカーはこの純情少年には一生かかっても紡げないような歯茎がガタガタしそうな程甘〜い台詞を言うことで、ランディに猪突猛進の道に戻らせようとしたのだ。

なんせ『口説く』はオスカーの特殊技能。

そう簡単に、習得されるわけにはいかない。

・・・まあ、ちょ〜っとこの純情少年をからかってやろ〜っという気がなかったと言えば嘘になるのだが・・・

オスカーは最後のおまけっとばかりにオスカーにググッと顔を近づけて言った。

「君の瞳に、君自身に溺れそうだ・・・」

・・・オスカーの執務室中がなにやら怪しげな雰囲気に満たされた、ちょうどその時





―― がちゃっ

「オスカー様。あの育成を・・・」






取りあえず空気が固まった。

そして・・・






「あ、あ、あ、あの!す、すみませんでした〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

がちゃっ!!バタバタバタ・・・ドタッ!バタバタバタ・・・

大音響の悲鳴に近い声と共にご丁寧に転んだ音まで加わった足音がアンジェリークの退場を彩った。






―― そして数秒・・・

『アンジェリーク!!!』

二人の守護聖は思いっきり何か勘違いしたであろう愛する金色の少女を追って先を争うように執務室を飛び出したのだった。






・・・その後、聖地中を金の女王候補を追いかけて走り回る炎の守護聖と風の守護聖の姿が多くの人に目撃され、そのあまりに必死な形相で人々を怯えさせたとか・・・









                                    〜 Fin 〜







― あとがき ―
うわ〜〜ギャグ!
ものすご〜〜〜くギャグになってしまいました(^^;)
銀むつの『プライベート・レッスンというタイトルでオスカー創作を』というリクで書いた
創作なんですが・・・甘いの期待してたよね?
銀むつ並びにタイトルで甘い創作を期待したみなさま、ごめんなさい(- -;)
いや、最初はあま〜〜〜〜いのを考えたんです。
でも、やればやるほど笑いを誘っているような気がして・・・それならいっそマジでギャグ
に走ろう!と・・・(- -;)
でもか〜な〜り、オスカーファンとランディファンを敵に回しているような気がしてます。
お願い〜刺さないで〜〜〜(懇願)