ミトンの手袋 〜 said,Z 〜
寒いと思ったら雪が積もっていた。 その雪を見て、ふっとあいつの顔が思い浮かんで・・思い出したらどうしても会いたくなって、誘いに言った。 そしたらあいつは、アンジェリークは目一杯厚着して、手袋までして出てきてやがんの。 寒がりなんて知らなかったぜ。 「なにやってんだよ?ほら、行くぞ。」 「あ、待ってください。ゼフェル様。」 あわてて追いかけてくるアンジェの気配がちょっとくすぐったい。 サク、サク、サク 雪を踏む音がやけに響く。 (こんなに音がねえと余計な音まで聞こえそうだよな。) そんな事を思っていると、ふっとアンジェの声がしたような気がした。 「アンジェ?なんか言ったか?」 振り返るとアンジェはやけに驚いて、首を振る。 「え?べ、別に何も言ってないです!」 一生懸命否定する彼女が妙に可愛くて、ほんの少し悪戯心が起きた。 「そうか?もしかしたら腹でも鳴ったんじゃねえの?」 「ち、違います!ゼフェル様の意地悪!!・・・きゃあ?!」 ぐらっとアンジェの体が傾いだ。 「あ、バカ!」 トサッ 間一髪抱き留めた体はやけにあったかくて、俺の鼓動が跳ね上がる。 でもそんな事表に出さずに俺は溜め息を付いた。 「お前、ただでさえドジなんだから、気をつけろよ。」 「・・・ごめんなさい・・・」 シュンッとしてしまったアンジェに見えないように俺は苦笑してアンジェをちゃんと立たせた。 (まあ、ドジさ加減も・・・可愛いんだけど、な) あいつにはばれないように心の中で呟いてから、俺は少し迷った後、アンジェの手を掴んだ。 「ゼ、ゼフェル様?!」 「あ〜、うるせえ。叫ぶなよ。こうすりゃあ、お前が転んでも助けられるだろ?なんか不満かよ?」 ちくしょう、そんなでっかい目で見んなよ。 ・・・自分のやった事が恥ずかしくなんだろうが。 俺はぷいっと顔を背けた。 (それにしても、なんでこいつ手袋してんだよ。) 手袋なんかしてなきゃ、ちゃんと手を繋げたのに。 ・・・こいつの体温を感じられたのに。 そう思ったら思わず口から出ちまった。 「・・・なあ、なんでこんな物、はめてんだよ・・・?」 一瞬、ポカンッとしたアンジェはすぐにばっと赤くなった。 そしてすぐにクスクス笑い出した。 「なんだよ。笑うな!」 「ごめんなさい・・・だって・・・」 謝っても笑いやまないアンジェ。 「あーもーいい。んな事言った俺がバカだった。」 そう言って振り離そうとした手にアンジェがあわてて飛びついてきやがった。 「おい・・・」 俺が唱えようとした不満は叫ぶみたいなアンジェの声にかき消された。 「違うの!嬉しかったんですってば!・・・ゼフェル様が私と同じ事、考えていてくれたのが。・・・だからこうしましょう!」 アンジェはぽかんとしている俺に右手のミトンをはずして渡した。 「はい。ゼフェル様はこれをつけてください。」 俺がこんなんはめるのかよ? それに・・ 「これって・・お前はどうすんだよ?」 俺が最後の望みを託して言うと、アンジェは言った。 「私にはこんなに暖かい手がありますもん。」 そして俺の左手をきゅっと握った。 (・・・まいった・・・なんでこいつ可愛い事言いやがんだよ・・・) 俺は軽く溜め息を付いた。 他の誰かにはぜってえ見せられねえ姿だけど・・っと思いながら片手と口でミトンの手袋をはめると、ポケットに突っ込んだ。 そしてアンジェの手を離さずにその手をポケットに入れた。 (うわ、こいつの手・・・) 触れた手は華奢で、柔らかくて・・・俺は口元に浮かんでしまう笑みを一生懸命押さえて言った。 「・・・お前の手・・・あったけえな。」 って・・・ 〜 Fin 〜 |
― あとがき ―
『ミトンの手袋』ゼフェルサイドです。
初めて両サイドから書く創作を書いたんですが、難しいですね〜。
うう〜男性一人称って考えたら『遙か』の『藤に誓う』以来(^^;)
ゼフェル様がちょっと偽物なのは・・・見逃してくださいませ。
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