愛する君に花束を
〜 シルフィス 〜
その日、シルフィスは不機嫌だった。 ものすご〜く、不機嫌だった。 素直な性格のせいで、それが全開に顔に出ている親友の様qにガゼルはこっそり苦笑する。 何事にも穏やかで、優しいシルフィスをこんな風にする原因は１つしか思いつかない。 １年前、めでたく男に分化したシルフィスの最愛の恋人、異世界から来た少女―メイ＝フジワラである。 ｩ分に分化をもたらしてくれた少女を、シルフィスはとにかく溺愛しているのだ。 ガゼルはしょうがないな、とばかりに溜め息をついた。 本当は触らぬ神に祟りなし（色んな意味）で放っておきたい所だが、それでは練習場の隅で怯えている後輩達がちょっと不憫だ。 「おい、シルフィス。何かあったのかよ？」 「ガゼル・・・いや、何も・・・」 「ない、とは言わせないぜ？そんな不機嫌全開な顔してよ。」 言葉を先読みされてシルフィスはうっと黙り込む。 ・・・そして一瞬の間の後、シルフィスは言った。 「・・・メイが喜んでたんだ・・・」 「あ？」 「メイが嬉しそうだったんだ。・・シオン様から花束をもらって・・」 ――ガゼルは深く、深く溜め息をついた。 シルフィスとメイが恋人同士になったのは１年前の分化の時だったらしい。 ガゼルは特に詳しいことは聞いていないが（聞いてノロケられるのもごめんだし）そのニュースは王都の一部の男性陣に多大な衝撃を与えた。 ――すなわちメイに想いを寄せていた男達である。 彼らはそもそもシルフィスをライバルの数に入れていなかったのだ。 他のライバルが強力だったせいもあるが、シルフィスｩ身の美しい容pからみんな女に分化するとばかり思っていたのである。 それが大方の予想に反して男に分化した上に、魔烽�ろうに愛しい少女をかっさらってしまったのだ。 ｩ分たちの目測の甘さを呪いつつ、諦めきれない男達が続出したのも、ある意味無理はない。 その一人が王宮筆頭魔導士、シオン＝カイナスである。 昨日、シルフィスはいつも通り、メイの所に出かけた。 つきあい始めて１年経つと言うのに相変わらずメイに会うというだけでシルフィスは心を弾ませて魔法研究院に向かっていた。 ところが研究院の入り口にいる２つの人影を見た瞬間、浮かれた心は地に翌ﾆされた。 人影はシオンとメイだったのだ。 シオンは大きな花束を持っていた。 庭いじりの好きなシオンの育てた花なのだろう。 見事な花束だった。 それをいつもの余裕たっぷりな仕草でシオンはメイに差し出す。 驚いたような顔をして花束を受け取ったメイは、嬉しそうに笑ったのだ。 シルフィスの大好きな、愛らしくて可愛い笑顔。 その笑顔は今、惜しげもなくシオンに向けられている。 ｩ分ではなく、シオンに・・・ ずきんっと大きくシルフィスの胸が痛んだ。 いつもは自分に向けられている笑顔が他の人間に向けられているというだけで、ひどく苦しい。 たとえそれが一時だけであっても。 シルフィスはきつく唇を噛んだ。 メイの気持ちがわかっていても、それをいくら自分に言い聞かせても、心を灼く炎は勢いを増すばかり。 飛び出していってシオンの前からメイをさらってしまいたい。 ・・・でも、彼女を縛るようなまねできない・・・ シルフィスは２人に背を向けると足早に研究院を後にした。 ｩ分が何かしてしまうその前に・・・ 「私は独占欲が強すぎるのかな？」 一部n終を話し終わって、そう問いかけてきたシルフィスにガゼルは思いっきり苦笑った。 「そんな事、当たり前だろ？お前はいつまでたっても遠慮しすぎなんだよ。 俺だったら間違いなく飛び出してって殴ってるぜ。」 「でも、メイの迷惑になったら・・・」 メイの迷惑になって・・もし嫌われたら、本気で生きていけない。 シュンっとなったシルフィスの背中をガゼルは軽く叩く。 「だーかーら、お前は遠慮しすぎって言ってんだろ？ メイはお前の恋人だろうが。 だったらシオン様の前でそう宣言してやればいいんだよ。閧ｦ出すなってな。 それにお前がそんなに弱腰だと、いつか他の男に取られちまうぜ？」 「他の男・・・」 メイを？ 他の誰かにメイを渡す？ シルフィスの全身の血が逆流した。 「そんなことは絶対させない！！」 あまりに大きな声に練習場の隅にいた見習達が飛び上がる。 言ってしまってから真っ赤になるシルフィスに、ガゼルは必�で笑いを堪えながら言った。 「そうそう、その調子だって。 ついでにメイが花束もらって嬉しそうだったって言うんなら、お前も持っていってみろよ、花束。 きっとメイはシオン様の時の何倍も嬉しそうな顔すると思うぜ？」 「そ、うか・・・うん、そうするよ！ありがとう、ガゼル！」 「あっ？！おい、シルフィス！稽古はーーーーーーーーーー？」 シルフィスは驚くガゼルの声を背に練習場を飛び出した。 向かうのは魔法研究院――メイに会うために。 途中、花束を買っていこう。 メイに似合う花で作った大きな花束。 ｩ分は愛する彼女を手に入れたけど、いつでも油断はできない。 メイは決して誰にも渡せない宝物だから、誰にも渡さない決意をこめて・・・ 愛する君に花束を 〜 ＥＮＤ 〜 |
― あとがき ―
予告なしだった野望のシリーズ、第５弾はシルフィスでしたｖ
シルフィス、他の男性陣蹴ちらしての早い登場です。
あはは、イーリス、ガゼル、レオニスごめ〜ん（＾＾；）
ちょうどこれ書いたのはシルフィス×メイにはまってる時だったの〜。
というわけで（どういうわけ？・汗）で今回のテーマは『嫉妬』でした。
特定の恋人ができても諦めきれないっていう奴もいると思うし
それがあるから油断できないよな〜っという発想から生まれたＳＳです。
それにしてもここに出てくるガゼル、大人すぎ？
一応、１年で大人になった、ということで見逃してください〜〜（汗）
さて、予告。
なにか東条のなかで大どんでん返しが起こらない限り、ガゼルです。
よかったら次もよろしく〜（＾＾）/
