愛する君に花束を
〜シオン〜
最初に聞いたときは純粋に興味が湧いただけだったんだ。
キールが召還魔法に失敗して、偶然異世界から女の子を一人召還してしまったって話はかなり
センセーショナルだったしな。
それに召還された女の子ってやつが、研究院でも一二を争う堅物者のキールをキリキリ舞いさせているとくりゃあ、
どんな子なのか気にならないはずがないだろ?
だから最近彼女が姫さんと知り合いになって、王宮にも出没するようになったときいて、
いつ見られるか楽しみにしてたんだ。
その時、は以外に早くやってきた。
日曜日、俺は珍しく仕事を早く終わらせて王宮内をぶらぶらしていた。
と、廊下の向こうからひょこひょこと歩いてくる人影一つ。
「お。アイシュじゃねえか。」
「あ〜シオン様。こんにちは〜」
相変わらず間延びした声に俺は思わず苦笑う。
(なんで双子なのにこんなに性格が違うんだろうな。)
そこで俺はふと思い出した。
「おい、アイシュ。相変わらずお前の弟は異世界から来た女の子に振り回されてるのか?」
「あ〜そうみたいですね〜。メイは元気にですからね〜。
あ、そういえばさっき中庭でメイを見ましたよ〜」
「何?来てるのか?」
「はい〜今日は課題はお休みだそうです〜」
(どれ、見にいってみるかな。)
「中庭だな?よし、行って見よ。アイシュ、ありがとな。」
俺はそれだけ言うとアイシュを置いて中庭に向かった。
中庭は気持ちよさそうな陽射しが降り注いでいる。
(どれどれ、噂のお嬢さんはどこにいんのかな?)
何の気なしに、本当に何の気なしに俺は中庭を覗いた。
― 瞬間、時間が止まった
中庭には他の人はいなくて、いたのは少女一人。
特別綺麗な女の子というわけじゃない。
肩口までの栗色の髪がサラサラと光を弾いて、少し大きめの意志の強そうな瞳が印象的な女の子・・・
なのにその姿を見た瞬間、俺は息が詰まった。
次の瞬間、バクバクと煩いぐらい鼓動が高鳴り出す。
(まさか、俺が?・・・そんな初恋も知らねえ子供じゃあるまいし・・・)
何人もの女と浮き名を流した俺が?
恋愛を楽しんで遊んでいる俺が?
でもこの状態は、確かに・・・
― ヒ ト メ ボ レ ―
俺は片手で顔を覆って壁に背中を預けてズルズルと座り込んだ。
(・・・信じられない・・・)
それでも鼓動は相変わらず煩い。
否定してもたぶん無駄だ。
俺は捕まっちまった。
あの栗色の髪の少女に。
あの瞳に。
その時
「メイ、ちょうど良いところで会いましたわ。」
「ディアーナ」
鈴を転がすような姫さんの声に明るい良く通る声が答える。
「私、これからお茶の時間ですの。一人でするのは寂しいからご一緒しましょう!」
「ええ?いや、私は・・・」
「何ですの?私に逆らう気?さあ行きますわよ!」
「ちょっとお!私の意志はないのおー?!」
強引な姫さんに引きずられて行く少女の声をちゃんっと耳で捕らえながら俺はばっと立ち上がった。
(姫さんの部屋でお茶会だな?よし!)
さっきのショックから立ち直った俺は早足で中庭を後にした。
行く先は王宮の裏にある俺の温室。
中では美しい花達が咲き誇っていたはずだ。
・・・まだ鼓動が早い。
何だか体がフワフワするような気がする。
自分を一瞬で捕らえてしまった少女 ― メイ
手に入れたい。
恋に落として俺のモノにしたい。
でもまだ彼女は俺の事など知らないから。
だったらせいぜいインパクトのある出会いかたをするさ。
素敵なシュチュエーションで出逢って、きっと彼女を虜にしてみせる。
だから
愛する君に花束を
〜 END 〜
― あとがき ―
野望の『花束シリーズ』第一弾のお届けです〜〜!
もともとの発想は「あ〜、シオンとセイルって二人とも花束もって来るんだ〜。いいなあ・・・」でした(笑)
花束ってもらうと嬉しいですよね?
しかも花束って色々な想いが付随しているとおもうから、どんどん煩悩が湧いて来ちゃうんですよ(笑)
というわけで、セイル編を書いても終わりません。
全員できたらいいな〜vvとかもくろんでます(^^;)
![]()