愛する君に花束を

          〜セイリオス〜

 

「異世界から来た少女?」

私は思わず眉をひそめた。

その視線を受け止めて困ったような顔したキールは答える。

「はい。どうやら我々の実験の失敗で誤って召還してしまったようなのです。

そう言うわけで、元の世界に戻す方法を見つけるまで魔導士見習いとして
研究院に住まわせる許可を頂きたいのですが・・・」

(なるほど、それでわざわざ私に謁見を求めてきたのか。)

そう言う事情があればいくら王宮に寄りつかない彼であっても来ないわけにはいかないだろう。

「別に構わない。キールが監督するのだろう?」

そう言って私はふと悪戯心をおこした。

「ただし・・・」

「ただし?」

「その少女の行動を含む報告書を私に提出する事。」

「?!それは・・・」

「いいだろう?私も興味があるからね。」

「・・・わかりました・・・」

苦虫噛みつぶしたような顔でキールは頷いた。

   

 

数日後、私の元に一つの報告書が届いた。

題名は『メイ=フジワラに関する報告』。

提出者はキール・セリアン。

(ああ、これが約束の報告書だね。異世界から来た少女というのはメイ=フジワラという名なのか。)

メイ=フジワラ彼女の名前を知った最初だった。

その報告書はほとんど彼女の失敗談で、私は久しぶりに声をたてて笑った。

 


 

彼女に初めて出逢ったとき、私は稽古をさぼったディアーナを追いかけていた。

「ディアーナ!」

「きゃっ」

私の声に妹はそこにいた栗色の髪の少女の背中に隠れた。

「ディアーナ!友達にまで迷惑をかけて!」

ディアーナを叱ってふっとその『友達』を見て私は言葉を詰まらせた。


 

すごく魅力的というわけではない普通の少女だ。

しかし驚いたように見開かれた大きな瞳に私は目を奪われた。

意志の強さと明るさを滲ませた瞳。

ディアーナに紹介されて私は思わずああ、と声を漏らした。

「キールの報告書で知っているよ。」

「えー、なんかずっこい。」

聞き慣れない言葉に私は首を傾げる。

「ずっこい、というのはずるいという事かな?」

「そうよ。だって私、貴方のこと何も知らないのに先に知ってるっていうんだもん。」

「メイ!お兄さまにまで軽口を・・・」

彼女の言い方にディアーナがあわてている。

(面白い)

私は純粋にそう思った。

私にこんな口をきくのは幼なじみの王宮筆頭魔導士ぐらいのもの。

(異世界人とは、おもしろいものだな。)

私が自己紹介して驚く彼女も面白かった。

あの時、臣下に呼ばれなければ私はたぶんもっと彼女と話しこんでいただろう。



 

それから彼女はよく王宮にあらわれた。

ディアーナやシオン、あの無愛想なレオニスとも臆せず話しかけるメイの姿を
いつのころからか私は目で追うようになった。

お転婆なんて言葉では表しきれないくらい弾けるような元気な少女。

私を見かけると跳ねるように近づいてきて笑顔で話しかけてきてくれる。

いつの間にか私はメイを心待ちにするようになっていた。

 

だから悩むといつもいく丘に彼女を誘った。

沈んでいく夕日を見ているうちに最近心に重くのしかかる弱さを話してしまった。

我ながら情けない話しにメイはいつもの明るい笑顔で受け止めてくれた。

その笑顔が夕日に縁取られてあまりに綺麗で・・・
思わず抱きしめてしまいたい衝動を拳を握りしめて押さえていたことを君は知らない。

 

心は確実に惹かれてもう捕らわれているのに
身分や彼女が異世界人であることが私の想いを口にすることを止めていた。

・・・否、本当は彼女に拒まれてしまうのが恐くてそんな理由をつけていたのかもしれない。


恋すれば失うのが恐くなる。

手に入れたいと狂おしいほど想っていても拒まれたら、と臆病になる。




 

だけど私が不覚をとって刺客にやられた時、君は泣いてくれたから。

「休みたい」と弱気なことを言った私をいつもの明るさで一蹴してくれた。

だからその笑顔に、言葉に賭けてみてもいいだろうか?

 

― 愛してる

 

私の横に並び立つ后は君以外考えられないから。

他の男に渡すなんて絶対に嫌だ。

考えただけで血が逆流する。

お淑やかでなくていい、今のままの君が欲しい。

飾らない明るさと優しさを私だけに向けて欲しい。

 

 愛してる、メイ

 

君を手に入れるために、想いを伝えに行こう。

后になってほしいと伝えるために。

極上の花を花束にして。

帰らないでいい。

ずっと私のそばにいて欲しい。


だから

 

愛する君に花束を

 

 

                                   〜 END 〜


― あとがき ―
野望の『花束シリーズ』第二弾です!
シオン版とはちょっと違って、セイルがメイを好きになるまでの課程、といったところでしょうか。
う〜んと、今回は告白の気持ちをこめた花束です。
あのラストシーンのスチルを見て彼にはまったのは私だけではないはず(笑)
可愛いですよね、花束もってプロポーズに来ちゃうんですよ!
もう、メロメロです(^^;)
さて、野望の『花束シリーズ』はまだまだ続きます(^^)/
次はアイシュかな・・・(にやり)