愛する君に花束を
〜 レオニス 〜
出逢った時は、台風のような少女だと思った。 自分の視界よりも彼女の頭が下だったせいで、気がつかずにぶつかってしまった私に臆することもなく食ってかかってきた少女。 目一杯顔を上げて睨み付けてきたその大地の色の瞳に、震えるような感覚を覚えたのは何故だったのだろう・・・ とにかく彼女には面食らわされる事ばかりだった。 メイの素性を知った時も面食らった。 魔法研究院在籍の緋色の魔導士、キール・セリアン殿が偶然呼び出してしまった異世界人の少女、それがメイの素性だった。 それなのにメイは悲嘆にくれる様子すら見せなかった。 いつも明るく元気に・・・少々うるさすぎるぐらいにこの世界での生活に馴染んでいくメイ。 騎士団から王宮まで好き勝手に歩き回り、王女と騎士見習いを同等の友人として扱うメイ。 ・・・そんな彼女に目を惹かれるようになったのは、いつからか。 騎士団に響く明るいメイの声を聞くと、心のどこかが弾んだような気がするようになったのはいつからか。 『隊長さん♪』 そう言ってぴょこっと顔を覗かせるメイを、いつしか私は心待ちにするようになっていた。 しかし己の気持ちを自覚したのは、たぶんあの時・・・ 練習中に怪我をした私を、メイが治してくれたあの時だろう。 弾丸のように飛び込んで来て半分泣きながら『大丈夫?』と一生懸命聞いてきたメイに怪我の事も忘れて私は目を奪われた。 一心に私の心配をしてくれるメイ。 それがあれほどまでに喜びをもたらすなど、考えてもみなかった。 ・・・だから自覚しないわけにはいかなかった。 メイを、愛していると。 誰にも渡さず、私の側にいて欲しいと切望している事を。 その瞬間、マリーレイン様の事は大切な思い出となり心地よいほどのメイへの想いが私を包み込んだ・・・ それから色々な事があった。 軍団長に見合いをさせられたり、メイがダリスの内戦を終結させたり。 そして今・・・・・ |
早朝のクラインの街をレオニスは足早に歩いていた。 普段は人の多い大通りも今の時刻では散歩や早朝からの仕事に出る者がパラパラ見える程度の人しかいない。 レオニスはすれ違う人々に軽く挨拶をしつつ大通りの目的の店の前でとまった。 そしてまだ閉まっている戸を遠慮がちに叩く。 すると数秒あかずに店の主人が顔を出した。 マリーレインの墓前に手向ける花を買っていた事で馴染みになっていた店の主人はにっこり笑った。 「おはようございます。クレベール大尉。」 「ああ。朝早くからすまん。」 「いえいえ、こんなお仕事を承れて嬉しいぐらいですよ。今、持ってきますから待っていてくださいね。」 それだけいうと主人は店の中に姿を消した。 しかしすぐに手に花束を1つ持って帰ってくる。 「こんな感じでいかがですか?」 そう言って差し出されたのはレオニスの手には小さすぎるぐらいの小さなブーケ。 しかし青と白を基調にしたそのブーケはそれを包むレースのや真っ白のリボンも含めて作った者の力のいれ具合がわかるほど素晴らしいできになっている。 数刻後、このブーケを持つ相手の事を想ったのか口元を緩ませるレオニスを微笑ましい目で見て主人は言った。 「きっと綺麗でしょうね。・・・それを持ってウェディングドレスに身を包んだメイちゃんは。」 主人の言葉にレオニスは少し驚いた顔をして、それから少し笑って答えた。 「ああ。」 |
| ・・・今日、メイはレオニスの伴侶になる。 追いかけて、追いかけて捕まえた愛しい台風娘。 その彼女をやっと今日、妻として迎えることができる。 それが嬉しくて、側にいてくれるといったメイに少しでもその嬉しさと心を伝えたくて結婚式に彼女が持つブーケは自分で贈りたかった。 そう言い出した時のメイの顔が忘れられない。 メイは今にも泣き出しそうなぐらい嬉しそうな顔をしたのだ。 『楽しみにしてる』 そう言った彼女が愛しくて、言葉では伝えられないからそれを今日代弁してくれるようにブーケを贈ろう。 これからの人生を共に過ごしてくれる大切な半身に。 女神の前で誓うだけでは足りないから。 だから・・・ 愛する君に花束を。 〜 END 〜 |
― あとがき ―
や〜、これにて男性陣はクリアですv
レオニスはシリーズ書き始めた直後から「レオニスが持ってくるのはウェディングブーケv」
と何故か決めてました(笑)
以外にマリーレイン様のお墓参り用のお花とかで花は買い慣れてそうでしょ?レオニスは。
そんな東条の偏見故にこんな話とあいなりました(^^;)
でもまだ終わりじゃないですv
同時UPのもう1つのお話も読んでくださいませv
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