あまあいお茶会
柔らかい日の光が溢れる聖地の休日。 絶好のお茶会日和に聖地の花園に集まったのは、花園に咲き誇る花達でさえ気後れしそうな4人の女性達。 サラサラとした茶色い髪に黄色いリボンを蝶のようにとまらせた優しい眼差しの女王候補、アンジェリーク・コレット。 その隣に座っているのは金の髪に浅黒い肌の勝ち気そうな瞳が印象的なもう一人の女王候補、レイチェル。 いつもは輝くような笑顔の2人の表情が今日はやけに硬く見える。 その原因は彼女たちの向かいに座る2人の女性だった。 レイチェルのの向かいに座っているのは青い髪をいつものようにアップにしているけれど、いつものように堅苦しくない服装の女王補佐官、ロザリア・デ・カタルヘナである。 そしてコレットの向かいに座っているのは、波打つ金の髪に光が跳ねてまるで光り輝いているように見える深緑の瞳の女性――現女王、アンジェリーク・リモージュである。 このお茶会の呼びかけ人である彼女は上機嫌を絵に描いたような笑顔をレイチェルとコレットに向けた。 「今日はわざわざ来てくれてありがとう。迷惑じゃなかった?」 『いえ、とんでもありません!!』 異口同音に2人に答えられてアンジェリークは可笑しそうに笑う。 「アンジェリークったら・・・って、あら困ったわ。アンジェリークが2人いるのね。」 休日だから、と言うことで気安い口調になっているロザリアが首を傾げて言った。 「じゃあ、コレットの事は『アンジェ』、私のことは『アンジェリーク』でどうかしら?コレットはいつもみんなにアンジェって呼ばれているんでしょ?」 「あ、はい。・・・でも、どうしてそのことをご存じなんですか?」 ちょこんっと首を傾げたコレットにアンジェリークはふふっと笑っただけで答える。 そしてロザリアの煎れた極上の紅茶を2人に手渡しながら言った。 「ところでね、私が今日2人をお茶会に誘ったのは、ちょっと聞きたいことがあったからなの。」 「聞きたいこと、ですか?」 レイチェルがちょっと固い顔で聞き返したのでアンジェリークはあわてて手を振る。 「ああ、別に叱ろうとか思っているわけじゃないから、怖がらないでね。」 いくらかほっとした表情になった女王候補達を、今度は少し悪戯っぽい顔で見るとアンジェリークは言った。 「単刀直入に聞くわね。アンジェ、レイチェル、それからロザリア。 ・・・貴女達、恋してるでしょ?」 ガチャ!ガチャ!ガチャ! 3人が同時に手を滑らせてカップをソーサーにぶつけてしまった。 その反応が面白くてしょうがない、というようにアンジェリークは笑う。 「やっぱりね。そうだと思ってたの。3人とも最近、とても綺麗になったもの。 やっぱりねー。ね、ね、相手はどなたなの?もう気持ちは伝えた?」 生き生きと目を輝かせるアンジェリークを見て3人は苦笑した。 こんなアンジェリークに逆らえる者はいない。 特にロザリアはそのことを思い知っていたが、このままあっさり口を割ってしまうのも、なんだか悔しい。 そこでロザリアはちょっと反撃に出た。 「アンジェリーク、貴女はどうなの?私たちにだけ言わせるのは不公平でしょ?」 ・・・もはや女子高生のノリである・・・(汗) しかし予想に反してアンジェリークはにっこり笑った。 「3人が教えてくれたら言うわ。 だから・・・ねえ、レイチェル?貴女は誰なの?」 「えっ?!わ、私ですか?」 勝ち気な少女の珍しくあわてた声に、アンジェリークは容赦なく「うん♪」と笑う。 レイチェルは少し口をパクパクさせていたが、観念したように言った。 「・・・ランディ様です。」 『ええーーー?!』 コレットとロザリアとアンジェリークの声が見事にはもる。 「な、そ、そんなに驚かないでください!アンジェも!」 「ご、ごめん。・・・だってレイチェル、前にランディ様の事『子供よね〜』とか言ってなかった?」 上目遣いに問われてレイチェルはうっと詰まった。 そして赤い顔のまま、小さく言う。 「・・・だって、あの時はランディ様のいいところが全然見えてなかったんだもん。真面目に突っ走ってるだけに見えて、ほんとは周りの人を一生懸命心配している所とか・・・」 その様子がいつもの勝ち気な彼女からは想像もできないほど可愛くて、コレットは思わず溜め息をついてしまった。 「本当に好きなのね・・・それで、ランディ様にその事・・・?」 「言えるわけないでしょ!は、恥ずかしいもの・・・」 しゅんっと顔を伏せたレイチェルだったが、すぐにぱっと顔を上げてコレットを見た。 「で、アンジェは?私も言ったんだから、言ってよね?」 急に話を振られたアンジェはさっと顔を真っ赤にして俯く。 そしてなんとか絞り出すような声で言った。 「セ・・・セイラン様です・・・」 『うそ?!』 再びはもった3人の声にますます小さくなるコレット。 「なんでまたセイラン様なのよ?」 たぶん目の前の気が弱く優しい少女と、物事はっきり言うきつい青年がつながらなかったであろう、レイチェルが思わず聞く。 「あ、あのね・・・この間、私がセイラン様の所に学習に行った時、雨が降って来ちゃって帰れなくなって・・そのうち雷まで鳴り出しちゃったの。 その時にね、すごく怖がってた私の頭をセイラン様がそっと撫でてくれて『大丈夫。雷は美しいよ』って言ってくれたの。 ・・・その時から私、セイラン様って実はとっても優しいんじゃないかって思えて・・・」 コレットは最後ににっこり極上の笑みをそえた。 ・・・その笑みを見れば彼女がどれほどセイランに惹かれているかは一目瞭然で・・・ 3人もふんわりと微笑んだ。 「で、ロザリアは?」 「えっ私?!」 いきなり飛んできたアンジェリークの声にロザリアが危うくカップを落としそうになる。 しかしそのぐらいで見逃してくれるアンジェリークではない。 「話してくれるんでしょ?」 「・・・わかったわ。言います。」 溜め息をついてロザリアは言った。 「私が好きなのは・・・・・オスカーよ。」 『ええええーーーーーーーー?!』 「・・・ほらやっぱり驚いたでしょう?だから言いたくなかったのよ・・・」 拗ねるように言うロザリアに食ってかかったのはアンジェリークだった。 「いつ?!いつから?女王試験の時?」 「ち、違うわよ。・・・女王補佐官になってから。オスカーが初めて私の事をロザリアって呼んでくれて、それが嬉しくって・・・いつの間にかよ。」 穏やかなロザリアの笑顔にアンジェリークも満足そうに微笑んだ。 「そう、みんなそれぞれに愛する人がいるのね。 ・・・それならわかってもらえると思うから、言うわ。」 そう言ってアンジェリークは紅茶を一口啜ると、改めて口を開いた。 「あのね、私、ある人に告白したの。」 『?!』 さすがに今度は言葉が出ず、穴の開くほどアンジェリークを見つめる。 その視線に照れたようにアンジェリークは笑った。 「その人も私の事、好きだって答えてくれて・・・それで私、決心したの。」 「何を・・・?」 「その人のお嫁さんになること。」 3人は息を飲んだ。 中でもロザリアは蒼白になる。 「ま、さか・・・宇宙を捨てる気なの・・・?」 思い詰めた口調でそう言ったロザリアに対する答えはあまりにも以外であっさりしたものだった。 「ううん。」 「ううん・・・って貴女・・・」 「私、欲張りになることにしたのよ。私にとって宇宙もその人も比べられないくらいに大切。どっちも捨てられない・・・だったら両方、手に入れちゃえって。」 ロザリアはポカンッとあっけにとられたようにアンジェリークを見つめた。 (昔っからとんでもない事をする子だとは思ってたけど・・・) 「・・・貴女らしいわ。」 そう言ってロザリアはふっと微笑んだ。 「貴女らしい、本当に・・・いいわ。貴女の好きにやってみなさい。一緒にがんばってあげる。」 「ロザリア!!」 ぱっと顔を輝かせたアンジェリークはロザリアに飛びついた。 「あ、危ないじゃないの!アンジェリーク。」 「ロザリア!大好きよ!!」 アンジェリークはそう言うと、柔らかい目で2人を見ていたコレットとレイチェルを振り返ると言った。 「だから貴女達も、ね。」 『えっ・・・』 その時、2人はこのお茶会に招かれた本当の意味を知った。 アンジェリークは見抜いていたのだ、2人の気持ちを。 やがて別の宇宙へ女王として行かなければならない。 その時のために恋を諦めようとしいた事を。 だから2人の前でやってみせたのだ。 ・・・不可能なんてない、諦める事なんてないってことを。 コレットとレイチェルは顔を見合わせて笑った。 ロザリアはそんな2人を見つつ、しみじみ呟いた。 「まったく、こんなお転婆娘を射止めたのはどなたなのかしら。」 「・・・悪かったな、俺だよ。」 急に現れた第三者の声にアンジェリークを含めた4人ともぎょっとする。 『ゼフェル様?!』 ぽかんっとしてしまう3人を横目にアンジェリークはゼフェルに駆け寄った。 「なんでこんな所にいるの?」 「お前が心配だったからに決まってんだろ。 ・・・それに隠れてたのは俺だけじゃないぜ? おい、出て来いよ!」 ゼフェルの言葉に「???」となっている4人の後ろの茂みが揺れる。 そして姿を現したのは―― 「ランディ様?!」 「セイラン様?!」 「オスカー?!」 心なしか顔を赤くしてばつが悪そうに茂みから立ち上がったのはさっきまでの話の中心人物達だったのだ! その表情を見ればさっきの話を聞かれていたのは一目瞭然だ。 気まずさ絶頂の空気が流れる6人を見てアンジェリークはゼフェルに目配せすると言った。 「あら、全員お迎えが来てしまったのならお茶会はここで解散ね。 ランディ、セイラン、オスカー、彼女たちを任せたわよ?」 『?!』 真っ赤な顔で女性3人が縋るような視線を向けている事は取りあえず見なかったことにして、アンジェリークとゼフェルは花園を出ていってしまった。 後に残されたのは呆然としている6人・・・ 「と、取りあえず、俺、レイチェルを送るよ。」 最初に我に返ったランディがレイチェルを引くようにして花園を出ていく。 「・・君を送るという役目は俺にさせてくれないか?ロザリア。」 「え、ええ。お願いしますわ・・・」 平静を装ったオスカーがロザリアの手を取って花園を出ていってしまうと、セイランはコレットの方を振り返って言った。 「で、さっき君が言ったことは本当なのか?」 茶色い髪のアンジェリークは顔を真っ赤にして少し俯いた・・・・・ ――数ヶ月後、長い歴史の中で初めて女王と守護聖の結婚式が聖地で執り行われた。 鋼の守護聖の傍らに立つ女王の姿は誰の目にも美しく、幸せそうであった。 ・・・そしてその会場にその日の主役達にも負けない程、幸せそうに寄り添う3組の恋人達がいて、独り身の守護聖達の寂しさをより一層、煽っていた事は、言うまでもない(笑) 〜 Fin 〜 |
― あとがき ―
ははは・・・空笑いが出ます(^^;)
これは『恋する女の子に不可能はない!』っていう話だったんですけど・・・
なんか女子高生の会話、女王&女王候補編って感じですね(笑)
しかしいつも思うんですが、これほど『恋愛しろ!』って言われているような状況
なのに、女王になったら恋人がいちゃいけないなんて、メチャメチャ理不尽だと
思うんだけどなあ。
だから今回はお嫁さんにしちゃいました(笑)
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