がんばれ!
「勝真さんって、最近、頭撫でてくれなくなりましたよね?」 ある日、唐突にそんな事を花梨に言われて、勝真はぎくっとした。 「そ、そうか?」 誤魔化すように言ったけれど、自分でもわかっている。 ほんの少し前は、花梨が今のように怨霊を封印して嬉しそうに駆け寄って来た時は、小さな子どもにするように頭を撫でていた。 それはたぶん、イサトに対する態度などでつい癖になっていたせいだと思うのだが、花梨が嫌そうな顔はしなかったので・・・・むしろ嬉しそうにしていたので、ほとんど恒例のようにやっていたのだ。 ・・・・それが、最近できなくなった。 理由は自分でもわかっているのだけれど・・・・。 (言えるかよ。) 勝真が応えに窮したその時、幸か不幸か横から低い笑い声が聞こえた。 「翡翠さん?」 本日のもう一人の同行者を振り返る花梨。 その前で、およそ海賊とは思えない男は酷く面白そうに笑って言った。 「あまり勝真を虐めないであげたらどうかな。神子殿。」 「へ?いじめる?」 きょとんっとする花梨に対して、顔色を変えたのは勝真だ。 「翡翠!」 「おや、怖い顔だね。困ってるから助けてあげたものを。」 なおもくつくつと笑う翡翠を勝真は睨み付ける。 ―― わかっているのだ、この男には。 勝真が花梨の頭を撫でられなくなったのは・・・・花梨を意識してしまったせいだということが。 以前のようにただぐりぐり撫でるだけだった頃は考えもしなかった、事を考えてしまうせいだと。 短くても手触りのいい花梨の髪に、ずっと触れていたい。 指を滑らせて、優しく梳いてみたい。 抱き寄せてみたい。 (・・・・なんて、なあ。) 考え始めてしまったら触れられなくなったのだが、そのあたり翡翠に面白半分に暴露されてはたまらない。 「くだらねえ事言ってないでさっさと次いくぞ!」 結局、勝真はさっさと花梨と翡翠に背を向けて歩き出すことで強引に有耶無耶にすることにする。 「え?あ、待ってよ!勝真さん!」 慌てて追いかけてきた花梨が隣に並ぶのがちょっとくすぐったい。 その黄昏色の頭を、ちらっと見て・・・・一瞬だけ躊躇った後、勝真はぽん、と叩いた。 「?」 「お前は頑張ってるよ。そのうち・・・・また撫でてやる。」 「!うん。頑張ります!」 意味はきっと半分もわかっていないけれど、嬉しそうに頷く花梨が可愛かったので、つられて勝真も笑った。 「若いねえ。」 「・・・・うるせえよ、翡翠(///)」 「?」 〜 終 〜 |