星空のワルツ



なんとなく眠れなくて、アウローラ号を抜け出した。

夜の風が常春の聖地の気温にしてはひんやりとして気持ちよくて。

月明かりに誘われるように、夜の公園に入った時、目に入った姿に、エンジュは目を丸くしてしまった。

「ユーイ様?」

夜の静寂に、ぽつりと波紋を産むように声が響いて、公園の芝生に寝っ転がっていた人影が跳ね起きる。

そして振り返った彼 ―― 風の守護聖、ユーイも驚いたように目を見開く。

「エンジュ!?どうしたんだ?こんな夜中に。」

「ユーイ様こそ。」

「え?あ、そうか。・・・・じゃなくて、危ないだろ?女の子が一人で。」

一瞬納得してすぐに、頭をふるユーイに、エンジュはくすっと笑った。

「お隣、いいですか?」

「あ、ああ。」

戸惑ったようなユーイの返事を取りあえず了承ととって、エンジュはユーイの隣に座る。

座ると、あまり背も違わないユーイの顔が直ぐ近くにきて、ことん、と一つ心臓が音をたてた。

もう、その理由もわかっているエンジュが照れたようにちょっと微笑んだ途端、ユーイがぱっと目線を反らした。

「?」

「それで、どうしたんだよ。眠れなかったのか?」

「え、あ・・・・はい。そうですね。ちょっと、目が冴えちゃって。ユーイ様も?」

「うん、そんなところかな。」

「そう言う時って、ハーブティーを飲んだりするんですけど、今日はなんとなく外に出てみたかったんです。」

「そっか。・・・・俺が呼んだからかな・・・・」

「え?」

小さな呟きを拾いきれずに、エンジュが聞き返すと、慌てたようにユーイは言った。

「なんでもない!」

「?そうですか?」

首をかしげて聞くと、ユーイは大きく頷いた。

その態度に、なんだか気になることを言われた気がするものの、これ以上聞くのもいけないだろうと、エンジュは納得することにした。

二人が口を閉じ、柔らかな沈黙が落ちる。

「・・・・ユーイ様はどうしてここに?」

「うん?俺も眠れなかったんだ。だからさ・・・・」

そう言ってユーイは指し示すように視線を上へ ―― 夜空へ向けた。

つられたようにエンジュも、視線を上へ向けて・・・・

「わあ・・・!」

思わず感嘆の声を上げる。

夜空は満天の星空だった。

今になって気が付いたけれど、今夜は月が出ていないから、余計に暗天に輝く星々が美しく見える。

「すごい!」

「だろ?」

ユーイはどことなく得意げに言う。

「子どもの時から、眠れないと家を抜け出して星を見に行ってた。・・・・だけど、こんなに綺麗な星空、初めてだ。」

「綺麗ですね。」

「うん。」

ユーイが同意する声を耳に、星空に目を奪われていたエンジュは知らない。

―― ユーイが優しい目でエンジュを見つめていたことに。

「・・・・でも、お前はすごいな。」

「え?」

「だって、あの星を飛び回ってるんだろ?」

「そう言われれば・・・・」

確かにエンジュは今、この宇宙の発展のためにアウローラ号で宇宙を飛び回る。

だからユーイの言うとおりではあるのだけれど。

「ふふ」

可笑しくなって笑い声を漏らしてしまったエンジュに、ユーイが眉を寄せる。

「?何か可笑しいか?」

「いいえ、ただ、私が宇宙を飛び回ってるのがすごいなら、ユーイ様はもっとすごいじゃないですか。」

「?なんで?」

きょとん、とするユーイに余計笑いが込み上げてくる。

(なんで気付かないのかしら。ユーイ様ってば。)

そう思ってしまうけれど、目の前のユーイは本当に不思議そうにエンジュを見ているから。

エンジュは答えを教えてあげることにする。

「だって、ユーイ様はこの宇宙を創る力があるんですから。」

「あ・・・・」

すっかり忘れていたことを指摘された時のように、はっとした顔をして・・・・同時に、顔を見合わせたユーイとエンジュは吹き出した。

「そっか、そうだな。」

「そうですよ、風の守護聖様?」

戯けてそう言うと、ユーイはバツが悪そうに笑う。

「でも、一番すごいのはこの宇宙を支えてる女王様だろ?」

「はい。」

エンジュは頷いて、また星空に目を移した。

キラキラと輝く星の何処かには、今の自分たちのような命が息づいていて、それを育んでいくのが今のエンジュの使命と、ユーイの仕事。

そう考えると、ただ美しいだけだった星の輝きが愛おしくなる。

不意に、隣でユーイが掌を夜空に伸ばした。

「?」

「なんか・・・・嬉しいな?」

「・・・・はい。」

(きっと・・・・同じ事を考えてた。)

とくん、とくん ――

嬉しい、と騒ぐ心を抱えエンジュは微笑んだ。

その手に、優しくユーイの手が重なる。

それがとても当たり前のように、自然に。

「・・・・エンジュ」

「はい?」

「もう少し、一緒にいてもいいよな?」

「はい。」

頷いて、エンジュは重なったユーイの手をきゅっと握った・・・・












―― 翌日、レイチェル主催のお茶会にて

「ふわぁ・・・・」

「おや、レディ。寝不足ですか?」

「はい・・・・」

「んだよ。お子様は早寝じゃねーのか。」

「もう!馬鹿にしないでくーだーさーい!」

「わはは。」

「レディ、そんな野蛮な男のいう事など、お気になさらなくてもよいのですよ。」

「やば、って」

「ありがとうございます、フランシス様。」

「おい!」

「ふぁ・・・・」

「本当に眠そうね。大丈夫?」

「あ、はい・・・・すみません。レイチェル様。ちょっと腰も痛くて。」

「あ、エンジュもか?」

「「「え・・・・?」」」

「ユーイ様も?」

「ああ。ごめんな、無理させて。」

「いいえ。その・・・・嬉しかったですから(///)」

「「「(ええええ〜〜〜〜!?)」」」














                                              〜 Fin 〜











― ひとこと ―
大人組、自らの妄想で自滅(笑)ユーエンはお伽噺のように可愛く、初初しいのです!







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