リップスティック
「甘い、匂いがするな・・・・」 「?」 急に後ろから言われた言葉に、望美は振り返って首を捻った。 さっきまで新聞を捲っていたはずの知盛が、直ぐ後ろにあって少し驚く。 望美も知盛も床に座っているので、ほとんど正面から目があってどきっと望美の鼓動が騒ぐ。 「な、何?」 警戒心を滲ませた問いかけに、知盛がクッと笑い声を漏らした。 「いや?ただ、妙に甘い香りがする、と思っただけだが。」 「甘い・・・・あ、もしかしてコレ?」 そう言って望美が差し出したのは手に持っていた細い筒状のもの。 見覚えの無いその形状に知盛は少し眉を寄せる。 「これはね、唇が荒れちゃった時に付ける薬なの。」 「荒れる?」 「そう。冬になると乾燥してかさかさになっちゃうからね。」 「クッ・・・お前の唇は、いつでも食らいつきたくなるように瑞々しいが、な。」 「なっ!(///)何言ってるの!」 直ぐ間近で色気垂れ流しの視線を向けられて、望美は赤くなってしまったのを誤魔化すように知盛を睨み付けた。 「そ、そうじゃなくて!たぶんこのリップクリームが甘い香りがついてるから。それで甘い香りがしたんだと思うよ。」 「甘い香り、ね・・・・」 なんだか納得がいかなそうな知盛の様子に、望美は首をかしげた。 「?フタとってみればわかると思うけど、かいでみる?」 「それは、甘いのか・・・・?」 「え?リップ?味はないよ。」 「これほど甘い匂いでも味がしない?」 「うん。匂いだけ。」 「さて・・・・本当かどうか、確かめてみる、か。」 「え?確かめって・・・・!!」 目をしばたかせた瞬間、望美の頭に手が回って引き寄せられ、噛み付くように口付けられた。 「ぅんっ!」 慌てて抵抗してみても、もと武将の男の力に敵うはずもなく、ゆっくりと唇をなぞる舌の動きを感じて、望美は肩を震わせる。 「・・・ん・・・・・・」 一瞬緩んだ唇から舌を滑り込まされてしまえば、もう抵抗など考える余裕もなく、望美は知盛に翻弄されるばかりになってしまう。 「・・・・・・ぅ・・・ん・・・・・・っ・・・・・・はぁ」 唇を解放して望美の目尻に滲んだ涙を親指で知盛が拭った。 その仕草が、妙に優しくて怒りそこなった望美はむう、と唇を尖らせる。 「何するのよ。」 「甘い味がしないかどうか、確かめただけだ。」 「なっ!だ、だからしないって言ったでしょ!?」 「いや・・・?」 「え?」 「甘かったが?」 「は?」 そんなはずない、と訝しげに眉をよせる望美に、知盛は意味ありげな流し目をして、言った。 「ああ、ただお前の唇の甘さか、その『りっぷ』とやらの味かはわからなかったがな。」 「はあ!?」 真っ赤な顔で、目をまん丸く見開いた望美の髪を絡めとって捕まえて、知盛は満足そうに口の端を上げた。 「わかるまで、確かめてみるか。」 「ちょっ!知盛ーーーーーー!!!」 ―― 結局、リップクリームの味がないと知盛がわかるまで、 望美は延々『確かめ』続けられる事になったとか。 〜 終 〜 |