SWEETEST
「アイスクリーム・・・・クレープ・・・・チョコレートケーキ・・・・」 ぶつぶつぶつ・・・・という形容が嫌と言うほど似合ってしまう口調でお菓子の名前を延々繰り返す少女が一人。 その上、背景は透き通るような青い海で、降り注ぐのは煌めく南国の日射し。 誰でも思わず楽しくなってしまいそうな明るい風景の中で、どよ〜んとした空気を漂わせる少女は、はっきり言ってかなり妖しい。 もちろん、彼女を捜してこの砂浜へやってきた将臣もそう思った。 思ったから、その少女が望美・・・・自分の恋人であろうとも、容赦なく突っ込んだ。 「おい。」 ぺけっ 「いたっ!な、なにするのよ〜。」 「何するの、じゃねえよ。なんで不審人物になりさがってんだ、望美。」 相当の愛情を持って脳天に振り下ろした手刀が気にくわなかったのか、睨み付けてくる望美の頭を今度はぐりぐりと撫でる。 「ちょっ!や〜め〜て〜!」 「止めて欲しければさっさと菓子の名前なんか連呼してた理由を言え。」 「理由っていっても・・・・だってねえ」 望美はぐりぐりされているのも一瞬忘れたかのように、深いため息をついた。 そしてぽつりと。 「・・・・ものすご〜〜〜〜く、甘いお菓子が食べたくなっただけ。」 そう呟いた望美にものすごく哀愁を感じて、思わず将臣はから笑いを漏らした。 なにせほぼ生まれた時からの付き合いで、趣味嗜好もほとんど把握している幼なじみだ。 どれほど彼女が甘い物が好きかも嫌と言うほどわかっている。 しかも望美が、ケーキバイキングに行けばばっちり元を取れてしまうほどの洋菓子党であることも、目の前で呆然とその様子を見守っていた将臣が知らぬ訳がない。 「お前、好きだもんなあ。」 「うん・・・・こっちのお菓子も嫌いなわけじゃないんだけど、甘さが足りないって言うか・・・・」 「だろうな。どう考えたって、打ち菓子じゃジャンボシュークリームの甘さには勝てねえだろ。」 「いや〜〜〜!言わないで〜〜〜!食べたくなる〜〜〜〜〜〜!!」 ひいぃぃ、と頬を押さえる望美に将臣は遠慮無くゲラゲラ笑う。 それからちょっとだけ改まって望美の頭をぽんっと叩いた。 「俺の我が儘に付き合わせて悪いな。」 もし、南に逃れる平家の人々と共に生きたいと言わずに現代に帰っていたならば、望美がこんな欲求不満になることはないはずだから、と。 そう思って言った途端、望美がぱっと顔色を変えた。 「違う!そんなんじゃないよ!将臣くんの我が儘じゃない。私が将臣君と一緒にいたいって帰らなかったんだもん。自業自得だよ。だから、そんな事言うと怒るよ?」 びしっと指を突きつけてそう言う望美に、一瞬面食らって・・・・次いで将臣は苦笑した。 (これだから、敵わねえんだよ。) 「まあ、我が儘同士って事か。」 「うん、そう言うこと。」 強引に結論づけて、二人で顔を見合わせて笑う。 繰り返されるこんなやりとりが、くすぐったくて、もう少し味わっていたと思った将臣の前で、望美が再びため息をひとつついた。 「だけどさ、時々無性に食べたくなるんだよね。あま〜いお菓子。 はあ・・・・譲くんがいた時ははちみつプリンとか作ってくれたんだけどなあ。」 「ああ、そういや作ってたなあいつ。」 「ね〜。どうやって作ったのか未だによくわかんないんだよね。レシピ、教えてもらっとけばよかった。」 「・・・・望美のためならミラクルを起こす奴だから聞いても無駄だったぞ、たぶん。」 「え?何?将臣くん。」 思わず呟いてしまった言葉を聞きつけられて、将臣は曖昧に笑って誤魔化す。 同時に、頭に閃いた悪戯を実行する事にする。 「なあ、望美?」 「何?」 「こっちの菓子は甘さが足りねえんだよな?」 「うん、ちょっとね。和三盆の甘さも好きなんだけどちょっと・・・・!?」 言いかけた言葉の途中で、ぐいっと引っ張られたかと思うと。 問答無用で唇がふさがれた。 「んぅ!?」 「・・・黙ってろよ。」 抗議した唇が一瞬解放されたと思った途端、そんな言葉を言われて返すまもなくまたふさがれる。 油断していた唇から舌が滑り込んできて、歯列をなぞり、愛撫される。 「ぅん・・・・」 全身から力が抜けてしまいそうな、優しくて激しい口付けに望美は思わず将臣の首に手を回し、応えるように抱きしめた将臣は角度を変えては幾度も幾度も唇を重ねた。 「・・・はぁ」 一筋の銀糸を残して、やっと将臣が望美を解放した時には、望美はほとんど腰が抜けそうな状態で。 「・・・・いきなり何するの」 力無くも一応睨み付けてみる望美の前で、将臣は満足そうに笑って言った。 「甘かっただろ?」 「は?」 「今のキス。シュークリームには負けなかったと思うぜ?」 「なっ」 比べる対象じゃないでしょ!と、言いかけた望美の唇に、今度は触れるだけのキスをして、将臣はにやっと笑って言った。 「ま、甘い物は当分これで我慢しろ。」 〜 終 〜 |