ぐっと・もーにんぐ!
―― 日曜日の朝。 カーテンの間からうっすらと良いお天気を予感させる日射しが零れ、キッチンからほのかに漂ってくるオムレツのバターとコーヒーの香りに起こされる・・・・。 そんなマンガのように完璧な休日の朝の風景に、望美は覚醒した途端、がっくりと落ち込んだ。 (・・・・なんで、ここでベットに寝てるのが私なの〜〜〜) ここはやっぱりベットに寝ているのは半覚醒の彼氏で、彼女の方は張り切って作った朝食を背に可愛いエプロンを付けて「おはよう」・・・・と、なるんじゃないだろうかと。 そう思っても実際に望美はベットの中なのだ。 「はあ・・・」 望美はため息を一つついて小さぼやいてしまう。 「銀って家事好きな上に、尽くすタイプだったんだ。」 京と呼ばれる異世界で現彼氏、銀に出会った時は、龍神の神子とその守護を命じられた臣下という立場があったから、細々と気を遣ってくれる銀を有り難いと思いつつも、あまり不思議には思わなかったのだが、こっちに来てそれを実感する。 何せ、銀はこちらの世界で住居にしているマンションがいつきてもピカピカなだけでなく、料理、洗濯まで見事にマスターしてみせた。 こちらの世界に来て1年とたたない銀だが、今では18年いた望美の方が教えてもらう立場になりそうなぐらいだ。 しかし銀とて、こちらの世界で職を持つ身だから疲れることも多いだろうといつも望美は『家事分担』を申し出るのだが、大概はやんわりと断られてしまうのだ。 いわく。 『望美さんが家事仕事をしていて私が手持ちぶさただと、絶対に邪魔をしてしまいます。』 だそうだ。 ちなみにどういう『邪魔』かは、聞かないことにしておいた。 特に朝は望美が朝に弱いせいもあって任せきりになることが多い。 あまりにも任せきりなので、ある時 『こんなに私を甘やかしてると、一緒に暮らすようになっても任せきりにしちゃうよ?』 と冗談まじりに言ってみたら 『毎日、貴女を起こせる幸福をこの身に与えて下さるのですか?』 と、ものすごく嬉しそうな顔をされてしまった。 (・・・・それは、嬉しいんだけど。) そう思って、そう思った自分に苦笑する。 大事にしてもらってると思う。 愛されてる、とも思う。 だから、こんな完璧な朝に幸福な不満を抱いてみたりする。 (もう、いっそ諦めて銀に可愛いエプロンでも買ってみようかな。) 銀がくまさんのプリントとかがついた可愛いエプロンを付けて、キッチンに立つ姿を思わず想像してしまって望美は笑いを苦労して噛み殺した。 と、ちょうどその時 ―― トン、トン 遠慮がち、というかたぶん起こすつもりはないのだろう、小さな音のノックを聞きつけて望美は慌てて仰向けに寝返りをうつと目を瞑った。 起きていても、きっと銀は優しく笑うのだろうけれど。 望美が眠っているといつも銀は ―― かちゃ・・・ 小さなノブを廻す音と、ドアが開く気配がして、間違えるはずもなく馴染んだ気配がそっと近づいてくる。 眠っている望美を起こさないように、細心の注意をはらって近づいてきた気配は僅か望美を伺って、そっと額の髪を掻き上げる。 そうして額に触れる、優しいキス。 「おはようございます、望美さん。」 どんな目覚ましにだって敵わない、極上の声。 不自然にならない程度に、目をこすって望美はゆっくりと目を開けた。 途端に飛び込んでくるのは、カーテンから零れた光でキラキラ輝く銀色で。 「・・・・おはよ、銀。」 上手い具合に掠れた声でそう言うと、銀は微笑んだ。 それは嬉しそうに、幸せそうに。 「おはようございます、望美さん。」 その笑顔を見ながら ―― 今夜の夕飯こそは、やらせてもらって、銀にとっておきの料理を食べさせよう、と決意した望美だった。 〜 終 〜 |